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126 ブレない男

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王都からほど近い場所、国道から少し離れた所に彼等はキャンプを張っていた。ダヤンからの契約は切られたけれど、地盤があったのか落ちぶれている様子はない。モンゴルの住居のようなしっかりとした天幕付きテントは、外から見ても分かりにくくする魔法アイテムが使ってあった。お金はかかっていると思う。

牽制に行くにあたり、私はフードもフェスベールも着用、それからナツ&フユも連れて行く。いかにも強そうな男性二人を引き連れてケルピーで登場。にっこり笑いながら、ここのシマに手を出さないでね、と優しくお願いして穏便にお引き取り願う作戦だ。わぁ、ひどい。
なお、ハルは私の影に一体眠らせるが基本はお留守番。可愛いすぎて舐められたら困る。

初めはどちらか一人とお願いしたのだけれど、大した時間はかからないし、王都近くの転送円にも近いからと二人とも来てくれた。交渉は私がして、何かちょっかい出されたら二人で余裕を見せながら弾いてもらう。圧倒的な強さを見せつけるのが目的だから、多いに越した事はない。

キャンプにはティラもどきと、以前交渉の時にチラッと見かけた若い男性数人がいることを確認している。付近にはうちが販売している、人が近づくと知らせる魔法機械が置いてある。

「…あの機械、改造しとるで。無許可で境界越えたらアッチッチやな。」
「しかし、アレに手を加えられるとは、それなりに使える者達のようですね。」

へー、見ただけでそんなに分かるんだー。と感心していたが、ナツもフユもケルピーから降りただけで、ズンズン進んで行く。私はしっかり手綱を持ったまま、馬上でナツに引かれている状態だ。アッチッチはイヤざんす。

すると、ナツとフユは同時に手を前に出して何かを吹き飛ばした。何をしたのかは分からないけれど、結果普通にキャンプに近づけた。

「随分乱暴なお客さんですね。」

ガタイが良い男の人を連れて、ティラもどきがモンゴル式住居みたいなテントから出てきた。相変わらずニコニコしていて良い服をきている。両脇を挟むように連れている男達は服装込みでガラが悪い。

「呼鈴が分からなくて、失礼しました。けれど、ウチの製品に手を加えた場合の不具合は対応致しかねますよ?」

ナツにケルピーから下ろしてもらい、私もナツとフユの間から3歩ほど下がった所に立つ。お互い両脇前にボディガードがいる状態だ。緊張が走るが、感知はお互いしない。交渉なのか戦闘なのか決定打がないままの感知は喧嘩を売るのと同じだ。

「お久しぶりです。ダヤンの使いの者ですが、少しお話よろしいですか?」

予定通りにっこり笑って見せたが、ディラもどきは目を見開いて驚いている表情で返事もできなかった。そりゃ、以前に魔力を感知させた時以来だものね、あ、でもこの人は見てないか。けれども結晶を貪った光景はトラウマ級の衝撃でしたでしょうとも。
驚いても仕方ない、と悦に浸っていた私に衝撃の言葉が投げかけられる。

「マリアンヌ!」
「え。」

すごい勢いで突っ込んで来たディラもどきは、そのスピードのまま後ろに吹っ飛んだ。

「フユ、やりすぎデスネ。」

ナツがやんわりと止める。何故かカタコトで。
飛ばされた方も向こうのボディガードがナイスキャッチ。ああ、君達私をボール扱いした人ね。

「僕を探しに来てくれたんだね?!」
「違います。マリアンヌじゃありません。」
「分かるよ。あの商人に清廉な君は騙されていたんだね!大丈夫!僕は君を受け入れるから!そういう展開あったし!」

そういう展開?あ、小説か。マリアンヌ、ティラと結ばれた後に男に騙されたのか。なんというか。

「そうではなくて、私はダヤンの使いで…以前地下でお会いしましたよね?」

とりあえずベールやらを脱いで見せる。ほら、違うでしょ、と。

「なんと、あれは操られていた君だったのか!そこまで原作通りなんて流石だ!しかも髪の色が変わるまで同じなんて…そこまで僕を思ってくれていたなんて。」

ティラもどきは泣き出した。ボディガード達も泣きそうだ。私達も泣きたい。

「マリアンヌ!」「違います。」のやり取りを異口同音で数回やって、無駄だと諦めた。ナツフユに通信で殺気を出すことを先に知らせる。私への感知は打ち返してもらわないと、聖の力も魔の力も持ってるという情報をこの人達が知ると、多分更にめんどくさい。

大きな力をを練って殺気を出すと、瞬時にあちらの三人から感知の玉が飛んで来た。ティラもどきもちゃんとそこは反応している。前回はビビって感知できなかったのにね。即座に私への物だけナツとフユが弾いた。それからこちらからも感知。
『目ぼしい特殊スキルはありません。』
私のヘボヘボ感知ではスキルまでは見れないからフユがサポートしてくれる。

「「!!」」

私をただのマリアンヌだと思ってたらしいボディガードの二人の威勢は、ナツフユの力を知って一瞬で吹き飛んだ。いやいや、以前の私の力の量も知ってたでしょ?と突っ込みたいが、尻尾を丸めた犬状態で細かく震えている彼らは少々気の毒に思える。

「今日お伺いしたのは、ニアメの祠についてです。あそこに近づくのはやめてもらえませんか?とても大事なものがあるので、近づかれると大変不快なのです。このまま引いてくださるなら、私達も穏便に引くことができるのですけれど。」

私がそう言うと、ティラもどきの両脇の人はコクコクと頷いた。だけど、ティラもど本人はうっとりニヤニヤしていて聞いているのかすら分からない。

「もしもし?」
「流石マリアンヌは連れている下僕も違う…。君が僕のモノになれば、そいつらも僕のモノなんだね。」

なりません。
私の両脇の人も微かに震えているし、どうしたものかと通信を開く。ナツは爆笑、フユ怒りに震えていた。
『身の程を知らせてやる程の慈悲ももったいないですが、私めが処分させていただいても?』
『フユ、落ち着くよろし。目的忘れとるで。』
『あの、何故ナツはエセ中国人風なんですか。』
『ちゅうごく?て、なんや?』
『もういいです。』

とりあえず、一戦交えるかそれともマリアンヌの懐柔するかを通信で議論する。ちなみにその間、ティラもどきは延々と最近の小説の展開について語っていた。一行でまとめると、マリアンヌが神がかったアホの子に進化していた話だ。

「…マリアンヌ!僕がいつまでも本気を出さから、心配していたんだろう?だが、今日という日に君が逢いに来てくれたことさえ運命を感じざるを得ない!すぐに僕はこの国で一番の強さを得るんだ!大丈夫、あの来訪者ですら一人で倒せたんだ。僕に出来ないはずがない。」

『つまり、モンスターを倒してレベルアップするつもりやった、ゆうこっちゃな。』
『しかも、今日決行するつもりの様でしたね。』
『やられる前で良かった。』

間に合って良かった、とホッする。
彼等をここで拘束しておいて、闇の国の憲兵さんを呼ぼうか。ボディガードの二人に少し強めに自白を促せば、大丈夫な気がする。そう思って、ずっと無言の私達を小さくなりながら見つめている二人を見やった。

彼等はこちらと、ティラもどきと、時々祠のある方をチラチラ見ていた。

「…ティラ様。今日という日、と仰ってましたが、これから何をされるおつもりでしたの?」

『アキ?』『我が君?』

相談もなく、マリアンヌで話しかけた事に二人は驚いた様だけれど構わない。これが一番確実に話を聞ける方法だった。

「ああ、マリアンヌ。何をするつもりも、既に僕の部下がモンスターをここに連れてくる様に出かけた後だよ。」

「!」

私が息を飲むのと同時にナツが遠距離の感知を展開した。精度は低いが感度は高い。
フユは目の前の三人を縛り上げた。

『黒犬はん、出とる。しかも、離れて動けるっぽいわ。』
ナツのチッという舌打ちに被せる様にフユも通話に割り込んだ。
『勝手をお許しください。我が君はこちらでお待ちください。』
『私も行く。』

怪我人がいるもしれない。管理者にもらった治癒魔法をここで使わずしてどうする。しかも魔力切れは多分しない。

『ご不便があればハルをお呼び下さい。我が君を危険に晒すわけには…』
『ダメ。このまま黒犬さんが暴れたら私は悪の精霊になるよ。あの子は魔人を襲うはずだから私に危険は無い。連れて行って。』

本当は危険が無いと言うのは、ただの希望的観測だけれど。

『せやったら、フユ、アキ乗せたってな。』

ナツはそう言うが早いか、1人乗り用のケルピーで行ってしまった。
囮になって黒犬さんを人家から離す気だと直感的に判る。そして、私は自分の中に怒りを感じた。
無言で私を乗せるフユに私は初めて命令する。

「フユ、ナツと二人で通信開いてるでしょ?私にも聞かせて。これは命令。」
「…御意。」

『フユ?前にお前から聞いた話通りやったら、人的被害が出たら確か不味い。黒犬はんが魔人に反応するんやったら、引き離して対価払って拘束しとくし後頼むわ。…代わりに八つ当たりされるやろうけど。』
『また死ぬ気?』
『!!』

息を飲んで驚いている音がした。

『悪いけど、フユに命令したの。あんまり私を舐めないでくれる?それから、死ぬ事は許さない。これは命令だよ。』
『…やられたわ。すまん。』

許せない。信頼を得られない自分が。

『謝罪は受け入れない。死ぬ事は許さないけど、危ない真似はしてもらうから。ニアメの祠の東に廃村があるからそこに黒犬さんをおびき寄せて。』

私の中にのハルも呼んで、作戦を説明する。ハルには廃村の家に小さな魔の結晶を撒いてもらう。黒犬さんが私の説得を聞けないほど凶暴化しているのなら、多少は目くらましになるはずだ。時間を稼いでもらっている間に怪我人をフユと私で治療。合流して、黒犬さんを捕獲、又は倒す事になる。

管理者はこの事が分かって私に魔法を授けたのか。ならば何故警告してくれなかったのか。
この苦情は言っても良いと思った。
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