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124 せこい作戦、裏
しおりを挟む順調に行っていると思っていた。キュラスの件からは、人払いの他に人が近づくと分かるように魔法も改良した。やってみて分かったけれど、結構祠の周りに人はウロウロしている。みんな早朝から何やってるんだろう。だけど、そこまで分かるほどの精度はない。
一度Dに「何か異変は感じないか?」と聞かれたけれど、本当に私は感じなかった。で、気がついたのは、トラップが発動した時と言うお粗末さでした。
2月の頭、黒犬さんをトラブル無く配置して終えて安堵していた。これで、一応区切りがついた。そして、また油断もしていた。
「くっ?!」
いきなり目隠しをされて、飛び上がりそうになるほど驚く。驚いたと同時に自動解除。すぐに無属性の網が飛んできて、これはかなり統率のとれた集団にやられているのだと分かった。ハルと二人掛かりで解縛していると、捉えるのが難しい速度で何かが飛んでくる。避けられないと身を固くしたけれど、痛みは無かった。
『感知されてる。それもくまなく!』
こんなレベルの素人がいるわけない。出来そうな人はバースを取り込んだ大地君くらい。けれど一人では無いだろう。ちょっと不味い。どうやって逃げるか。祠には黒犬さん。魔人にちょっかいかけられれば大暴走。それでは私も巻き込まれで死んでしまう。
とりあえず蓄えの魔力はあるので、解縛しまくる。向こうが尽きるか、次の策の隙を狙うしかない。
捕縛、自動解除、捕縛、自力解縛、捕縛、自動解除…。
ちょっと待って?まさか私の魔力尽きるまでやる気?何時間やるの?それにさっきの感知で飛んできた球がまだ背中にくっついてる感じがして気持ち悪い。
「こんな方法で捕まるわけないでしょ!」
一気に全ての捕縛魔法が吹き飛ばしてスッキリ。流石に距離がある彼らにダメージはないでしょう。ふぅやれやれ。と思った私の耳にハルから『感知解析即時共有されちゃってる。』という残念なお知らせが入る。これを狙ってたのか。というのと、こんな事もできるの。という驚きが入り乱れる。
「迂闊。こんなセコイ方法、発案は宰相殿かしら?」
実利を取りすぎでヒーローっぽくないけど大丈夫かと思う。キャラ崩壊しすぎは勘弁して欲しい。
「さあねぇ。とりあえず闇の城のテーブルで話そーぜ?」
大地君が姿を現した。とりあえず、前回の方法で逃げられるか試してみる。感知されてるから勝算はほぼ無いけど。
「おまけに闇討ちとは、闇の国の次期王閣下のなさる事なの?」
火柱立てて、さあ隠れましょと思ったら、叩き潰された。え?マジ?いくらなんでも強くなりすぎてない?
『テルラ様も周りの人も周りの人も感知できない!』
ハルも焦っている。
ヤバイ。本気でヤバイ。これは逃げるのは難しい。
「感知も、できねぇだろ?ちょっとは成長したんだぜ?」
距離を詰められて、私の頭はフル回転だ。今処罰されるならば途中で取りこぼしたイベントがあったという事かもしれない。でも、それだけは嫌だ。バース達の出番をまた作るわけにはいかない。
とりあえず、レベルアップのための準備、祠へのモンスターの設置は済ませた。後足りないものは何?D達がなんとかしてくれるのを祈るか?それとも、逆に捕まっちゃって内部から不足分のピースを探るか?
ぐるぐる考えていると、また捕縛だ。
「何人いるのか知らないけど、成長見せたいなら他に方法ってあるんじゃないの?」
「残念ながら、そんな気はねぇよ。卑怯っつーことなら、痛くも痒くも。俺は次期『魔』王なんでね!」
「納得っ!」
多少の気持ちの乱れを強がりで消した所で、水の玉が飛んできた。反射的に炎を放って、やっちまったと後から気がついた。
水蒸気で周りが見えない。こちらは感知できなくて、相手からはできる。しかもこちらは一人で複数の相手に囲まれている。ジ、エンド。
水蒸気の中を何かの物質が飛んでくるので確認もできずに燃やした。
「ハル、怪我なく捕まるの目標に変える。気配消して影に戻って!」
「分体作って囮になろうか?」
「ううん。ハルが使令だとバレたくないし、ダヤンとの関係も上手くいけば、まだ誤魔化せるかもしれないから。」
隠せる札は隠しておきたい。足掻きだとしても。
白旗を揚げるタイミングを計りながら、攻撃は全て叩いていると、いきなり側転3回ぐらいの体感があった。
誰か聖の力を放ったらしい。聖魔交互はほんとにやめてー。
願い虚しく続いて鉄棒前転10回。
吐く。吐くよ。吐いちゃう。
いっそ吐こうかと思うけれど、実際に内蔵を刺激しているわけではないせいか、吐けない。
その間にもぐるぐるぐるぐると左右前後に目が回る。もう、立ってるのか何なのかも分からない。
めーがーまーわーる。ビヨピヨピヨ。ぐえー。
何となく視線の高さから浮いてる気もするけど、浮遊感はぐるぐるのせいだと思う。
唐突に、ぐいっと体が引っ張られる感じがした。それから肩や背中、脚の付け根あたりからひゅるひゅると聖魔の力がドレインされていく、と同時に気持ち悪さも少しずつ収まってきた。
「えいこサン!」
というウランさんの声がして、目を開けるとそこには無表情なご主人様のご尊顔。ほわい。ど美形の無表情って迫力あってこわいのよねー、とピヨピヨ頭で考えて、その瞳が外に向かっているのに気がついた。
整理しよう。
1 恐らく聖魔攻撃で私グロッキー
2 捕獲されたか、その寸前でDに回収される(時間はそんなに経ってないはず)
3 離脱せず大地一味と対峙←now
下手に騒ぐとダメな気がする。位置的に顔さえ動かさなければ、大地一味には見えない高さまで飛んでる模様。
飛んでる?浮いてる?ご主人様なんでもありだな!
「うちのに何か?」
「あんたが、ダヤンのトップか?えいこサン返せよ。」
Dの問いに大地くんが答えている。周囲にはDの聖力が張り巡らされているようだから、相当の圧を感じるはずなのにある意味流石にヒーローポジション。
Dはちらっと私を見た後、軽くため息をついた。
「バカは嫌いだ。」
ごめんなさい。ごめんなさい。すみません。
「うちのを襲っていたようだから、何か用があるのか、と聞いた。それに対して、俺の名前を問い詰める権利も答える義務もない。しかも、まるでうちのを俺が攫ったような口の利き方は、ありえない。」
大地くんをディスってる風を装ってるけど、一言目は絶対私への苦情だ。
「それは悪かった。えいこサンが祠にモンスター放ってたんだよ。俺はテルラと言う。この国て働いているが、モンスターなんて放たれちゃ治安上問題があるんだ。」
「うちのが、モンスターを?」
祠の方をチラリと見ながら、口も動かさないほどの小声でDは確認する。
「首尾は?」
「いつもどおり。」
私も設置自体は通常どおり問題がない事を伝えた。黒犬さんは今までと少し状況が違うから念のための確認らしい。と言うことは回収の方向に話が進む?
「うちのがした証拠は無い。けれどお困りならこの程度のモンスターの回収は容易いが?」
「いらねぇよ。」
大地くんは即答で断った。ちょっとラッキー。そして、正直に言って安心してしまった。だって、動かなければ危機脱出じゃないですか。Dが私を相手に差し出す事はあり得ないし、かと言って勝算なく姿を晒すなんてもっと無い。
「うちのが誤解を与えるような事をした事は謝罪しよう。二度とこのような事が無いようにしっかりと監視しておく。…もし、モンスターでお困りになったなら、ダヤンの者に言えば格安でお引き受けしよう。」
Dがちゃんと丁寧な言葉遣いできる事に驚きつつも、偉そうな感じがスケスケ過ぎて本当に営業向いてないだろうな、とか、もうどうでもいい事が頭を締め始める。私はDが私の考えを察するのが上手いことまでも忘れていた。
「うちの、うちのと仰っておりますが、その方はえいこという名では無いのですか?」
ウランさんがいつも通りの語調で聞いた時、無表情だったDの口の端がぴくりと上がった気がした。あれ?それ笑顔?アラート発令。なんか嫌な予感。
「さあ?これは俺のペットだ。名は俺が与えた。だが、貴様らに教えてやる義理はない。」
そう言ってDの顔が近づく。なになになに?
「馬鹿が。この状況で警戒を解くか?普通。」
キスされるっ!でも逃げられないと目を強く瞑ったら、そうDに囁かれた。
キスされることもなく、ペンダントが引っ張られる。薄眼を開けると、Dに流し目で笑われていた。
「では、失礼する。」
とDが言ったと思ったら、次の瞬間には家に戻っていた。
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