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しおりを挟む「以上が報告であります。何卒お知恵を拝借したく。」
「いやいやいや、土下座とかやめてくれ!」
大地君の力を確認した後、速攻で谷のモンスター達に相談した。彼らは以前は武人だったそうだし、モンスターの特性もよく分かっている。だから、どうすればより効率的なレベルアップを計れるか、バース達に聞くのが一番だと思った。
「まぁ、手っ取り早い方法が無いわけじゃ無いけどぉ?」
甘味を携帯していないカークがうふふと笑いながら口を出してきた。
「方法、あるの?」
「格上レベルのモンスターを殺すの♡」
「いや、無理でしょう?返り討ちに遭うだけでしょ。」
「私ならバース達に命令してあげてもいいわよ?」
甘味が無いカークはどうやら暇らしい。
「却下。何言ってるの。」
「あながち的外れな話では無いがな。」
これまた、なんで谷に来ているのか分からないけどDも口を出してきた。
「将来的にはどこかのタイミングでバース達は糧になる。レベルだけでなく、スキルが確実に相手のモノになるはずだ。あんまり早くに消費されると後々のレベルアップが難しくなるが、な。」
ギリギリ私のフォロー、なのかな。
「でしたら、彼らがちょっかい出しやすそうな所に私が出ます。上級聖獣を凶暴化させて当たらせるのが良いかと。」
「上級聖獣?」
「…普通の獣はその使える力で聖獣か魔獣に便宜的に分けられている。そうではなくて、世界に力が満ちた時に谷から上がってくる聖獣だ。生物学的な生き物ではない。」
「生物学的な生き物じゃ無いってとこを更に詳しく。」
「飲食や生殖は行わない。聖力の溜まりで生まれ、バンなどのモンスターに使われる為だけの生き物だ。」
つまり、聖女一行のレベルアップ用に用意されている敵キャラって事ね。
「祠とこちらを繋げてもらえれば上級聖獣が減っても供給可能ですしね。送ってもらえた聖獣を私が祠で凶暴化させます。」
「そう、ですね。魔法陣は設置しないと、何かあった時の避難口にもなるし。」
話していると、Dの視線が刺さった。
「分かってる。いつかはバン達も戦いで散るのは。でも、まだ早いでしょ?」
そのいつか、が来る覚悟はまだ無い。そして、そのいつかは私が帰った後だろうとも思っていた。
街からの近さや、聖力の濃度、各国の反応などを考慮して、誰をどこに配置するか当たりをつけておく。実際現地を見てから最終決定だ。いきなり全配置でなく、人口の少ない谷と山の間の辺りから徐々に始めて、トラブルを確認しながら進めていくことにした。
「ところで、その大地君とやらは、いい人なんか?」
バンやD達が配置についてけんけんがくがくやっていると、バースが私に聞いて来た。
「善人かどうかって言うとすごく親切ないい人ですよ。基本的に優秀だし。人望も厚いです。」
「うん、そう言うこっちゃないんだけどな。まぁ、でも優秀なら、こんな事にはならん気もするんだけどな。」
「うーん、でも、来訪者だし、魔法の無い世界からこっちに来て2年で次期魔王に推される人ですよ。人望も実力も申し分ないんじゃないかと。面倒見が良すぎて自分の鍛錬まで回ってないだけだと思います。こっちに飛ばされた私達が困らないように闇の国で働いちゃうくらい面倒見がいいんですよね。ちょっと抜けてるところもあるけど、仲間想いで誠実で…」
何故か私を特別に想ってくれる人。
「それは漢だな。いい女が付いてりゃ完璧だ。」
「今のところはいないはずですよ?私の知ってる限り、女遊びはやらない人だし。」
なんとも答えづらい事をおっしゃる。
「ほっほーう。そんな漢がいるもんだなぁ。そんなら、大地君とやらは特別強くなってもらった方が良いな。」
「なぜですか?」
「討伐の経験値はパーティ皆にそれなりに割り振られるんだよ。ぶっちゃけ、強いやつにくっついてるだけでそれなりに強くなれる。一人引っ張ってくれる奴がいれば、かなり違う。」
そう言えばそんなシステムだった記憶がある。
「ところで話を戻すが、アキにいい人はいるんか?」
再び問われて、ようやく意味が分かった。
「いい人ってそう言う意味なの…いないですよ。というか必要ないです。」
「まぁ、そんな事言わずに聞け。」
ニンマリと単眼が細められる。
「わしがこの世界で、こいつはいい漢だなって思った剣士がいる。わしに娘ができたら嫁がせたいくらい良い漢だ。わしはアキを気に入ってるからな、教えてやる。」
「いや、いいです。なんなんですか、突然。」
コソコソ話されて、思わず釣られてコソコソ言い返す。
「Dもカークも辞めとけ。顔は良い。性格も意外と良いところもない事はない。だが、危険な男達だ。アキみたいな娘っ子は心を弄ばれて終わりだ。」
キリッとした顔で言われたけれど、脱力してしまった。
「大丈夫です。それは無いですから。」
「そうなのか?わしの昔の同僚にめちゃめちゃ男勝りの強い剣士がいたが、『女という生きモンは強い漢を求めるもんさ。』って言ってたぞ。後、『心細い時はころっとやられっちまう。』とも。言った本人は、睨まれるだけで固まっちまうくらいおっかない女だったが。」
意外そうな顔で目をパチクリされて、笑ってしまった。
「もしかして、その同僚さん、デューというお名前じゃ?」
「そうだが…もしかして、山の方に?」
「うん。」
バースは山の方を三度見した。
「…、わしは超カッコいい獅子のモンスターに生まれ変わったと伝えといてくれ。」
「は?」
「頼む!後生だ!いい漢紹介するから!」
「だから~紹介は~いいですってば~。」
両肩をブンブン揺さぶられて目が回る。彼らに何があったのだろうか。
「はぁ、デューもこっちにいたのか。そりゃそうさな。」
思った以上に何故か落ち込んでいるが、ちょっと件の剣士が気になった。もちろん、聖女一行の戦力になりうるかどうかも言う点で。
「ところで、オススメの剣士さんって相当強いですか?」
話が戻ったせいか、バースの表情はまたぱっと明るくなった。
「おお!なかなかだぞ!パーティではやられた事があるが、ついぞサシではやってないんだよなぁ。やりたいなぁ。わしが元の姿なら試合を申し入れていただろうに。それにな、イケメンだし、絶対いい奴だ。」
「戦った相手なのにいい人か判ったの?」
「…我が王に似てた。あの眼は何かやってくれる目だ。」
ソウデスカ、としか言えない。その後しばらく、バース達が仕えていた王様を褒め称えるエピソードを聞かされた。そして、最後の一言でずっこけた。
「まぁ、その剣士の名前しか教える事は出来ねぇんだけどな。名前はテルラって呼ばれてた。」
「すみません。大地君という人はこちらではテルラと名乗ってます。ただ、彼は世界が繰り返される度に記憶が消されているので、今は弱いんです。」
「なんと!では、きっかけがあれば強さは戻るはずだな。」
「戻った後の強さでも、多分まだ世界を救うには足りるかどうか。」
思わず不安を口走ったが、バースは爪の先で私の髪をすいた。
「大丈夫だ。わしらにも管理者からの指示が天啓みたいに来てるって今確信したさ。みんなでゴールを目指そうや。」
この時の私にはその天啓とやらが分かっていなかった。
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