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設計図を各主要都市に同時に売る。そう決めて、値段設定や売る相手の選定はサタナさん、『ナツ』に任せた。こちらは各都市に1組相手にしか売らないと宣言し、相手は商品を作って、好きなように売ってもらう。あまり高くで売ると製品がよその都市から入るから、高騰はしないだろう。関税も独占禁止法も無ければ権利がゆるゆるなので可能な方法だ。
「でしたら、アフターフォローも込みにされては?」
「せやな、作り方が分からへんとかの質問だけやのうて、予想外のトラブルあった時に使えるで。他に売った奴に注意喚起できてええわ。」
私の提案にフユやナツが補っていってくれる。
「カークはんは売り買いの経験は?」
「実地はあらへんけど、商人言語使えるくらいはわかるで?」
特に興味はなさそうにしていたカークだが、話はちゃんと聞いてくれていたらしい。カークの言葉にフユやナツは驚いていた。
「商人言語って何?」
ハルがナイス質問をする。
「言葉の方に魔法の縛りがある言葉や。交渉やらの基本ルールが込められとって、軽い契約が常に発動しとる。せやから、よっぽど売買に詳しないとそもそも喋れへん。使える、ゆうことは売買のイロハはもちろん商売の本質に通じてるっちゅうこっちゃ。」
へー。
「かーく、すごいんだねー。」
「崇めてもいいわよ?」
「すごーい!すごーい!」

ハルとカークで盛り上がっている間に、今までの事をざっとナツに説明した。
「ほなら、シェルターがいくつか余っとんねんな。」
「うん。谷のモンスターが元人間だとか、カークに命令権があるとか知らなくて。」
「それ、宣伝に使えるな。」
「宣伝に使うの?」
普通に販売以外では思いつかなかった。ぶっちゃけいまのところ需要が無いものなので使えるなら助かる。
「えー、まぁ、せやな。」
けれど、私の問いにナツは、何かに気づいたようで言い淀んだ。
「採用されるかどうかは、主人様が決める事だ。」
何故かフユとナツが視線で会話しているように見える。
「…村に無償で何機か提供すんねん。モニターに使ってくれ、ゆうてな。ほんで、そこを使令に襲わす。」
「それって自演っていう奴だね。」
成果を元に他所へ売り込む、といったところか。
「実際に凶暴化した獣に襲われるのは時間の問題なので、村にとっても悪くない話かと。」
確かに無いよりはあった方がいいだろう。全ての村や町に必要なシェルターを無償で提供するのは流石に予算が無い。こちらで裕福な街を弾いて提供し、余力のある街には最低価格で買ってもらうのが一番普及するのに近道だ。その方法は汚いが。

ナツとフユを見ると、二人とも同じような事は考えていたように見える。

提案したナツは、その方法を私が好まない事に気がついていた。もし今私が『その方法は正義では無いから』と却下すれば、強要はしないと思う。
でも、フユは必要な事なら悪事でも実行する事に躊躇いは無いし、わたしの手が汚れなければ良いと解釈して彼自身の責任において実行するだろう。

そして、その先が失敗する事を私は確信していた。実行犯が誰であっても、村を襲った犯人として私は処刑される。管理者からのギフトは過去の私の記憶の一部なのかもしれない。ならいっそ全ての記憶を返してくれても良いのに。

「使令に襲わせるのは、ちょっと待って。まずはシェルターを配るところまでにしよう。フユ、私に考えがあるから先走らないでね。」
名指しで牽制されて、フユは少し驚いた風であった。
「承知いたしました。」
考えがある、と伝えているので流石に勝手はしないはずだ。そのくらいの信頼は彼にある。

シェルターを配る候補地は力の濃度が高くて、かつ山と谷の間の魔獣や聖獣が多い場所から提供する。カークから力が満ち始めた時に危なくなる村、彼女曰く祭が起きやすい場所も聞き出した。事業や家計に響かない範囲でこれからも、ちまちま魔法の鍛錬代わりに作っては配っていこう。家電を作らなくなるが、この内職の効果はなかなか侮れないから悪くない方法だと思う。

方向を決めた後はダヤンの営業やシェルターの提供の話をつける等々結局ナツとフユに任せた。カークは人手がいる時に出て、基盤がしっかりしたらハルにも出てもらう事になった。

で、みんなが頑張っている間私は何をするかというと、山の主とあった時に死なないよう魔法の鍛錬だ。

ナツとフユが出かけた後、カークとDから指導を受けた。
始めにされたのは、回路を開くこと。詳しい理論もDから説明されたけど、ちんぷんかんぷんだった。
カークのニュアンス説明だと、 魔法を鍛錬で極めていくと、体の中にある力の回路が少しずつ開いて行って力のコントロール力が大きくなる。だから魔法で色々な事ができるようになるそうだ。
それを今回は逆にする。先に回路に力をねじ込んで開かせて、いろんなスキルを身につけやすくするんだとか。

ドキドキ緊張したけれど、カークから聖の力を、Dから魔の力を流し込まれても、ふーん、ここに力が流れるのね、と気づくぐらいで痛くも痒くもなかった。そのどこに流れるか、が大事らしい。

なんだ、楽じゃん、と思ったのが甘かった。「じゃあ行くわよ。」とカークに谷に連れられて、とある場所を一人で歩かされた。

かぶっ。
痛ったー。痛い。

トカゲのような何かに右足を噛まれた、とそこが徐々にセメント化して行く。

「アキ!」
「ほら、ハル、さっさとアキの石化解除しないと石像になっちゃうわよ。」
「石化解除は、えっとえっと、えい!」

右足が元に戻りホッとした瞬間、違うのに左足がかぷり。
痛い。そして、見てないけど足が重くなり石化してると分かる。
「きゃー!アキ!えい!」
噛まれる治してもらう、を10回ほど繰り返すと余裕ができて初めて、噛まれた瞬間に入ってくる何かに気がついた。
すると、いきなりストンと石化の仕方が分かって自身は石化されなくなった。無論、噛まれたところはちゃんと痛いが。

「普通はね、100回くらい噛まれないと石化耐性と石化のスキル身につかないのよ。おまけに、石化耐性じゃなくて石化無効が身につくなんて、ほんとズルいわよね。回路開くのって。」

どや顔でカークは説明してくれたが、私も隣のハルも涙目だ。
「ハル、ありがとう。お疲れ様。」
「ふえぇ。」
私に抱きつこうとするハルの襟首をカークはひょいと持ち上げた。
「ふえぇ。じゃないわよ。今日中に他の耐性も付けてもらうんだから。」
「他の耐性…?」
恐る恐る聞くと、ニンマリとカークが微笑んだ。
「毒、暗闇、幻覚、気絶、麻痺と睡眠。大丈夫よ。他も噛まれたり鱗粉やガスを吸い込むだけだからカンタンよ。」

だいじょばない。

けれど為すすべもなく、ハルをぶら下げたカークの後を追うしかなかった。

死ぬかと思いながら、二日をかけてスキルを習得した。けれどもそれで終わりな訳はなく、次に聖力と魔力の自動中和を身につけることになる。

これも、最初の一歩は簡単でした、ええ。
耳の辺りにDに魔法文字を刺青してもらう。墨&針です。チクチクチクチク、痛い。しかし、辛いのはその先でした。試しに、魔力と聖力で軽い攻撃をしてもらう。個々の攻撃は確かに無効だ。問題は切り替わる時でんぐり返しをするくらい、気持ち悪くなる事。

「実際の攻撃はもっと出力大きくなるからもっと影響大きくなるわよ。」
と、キョトンとしながらカークに言われて、いや、気持ち悪くなって行動不能になるからと主張したけれど、刺青を消す技術は無いそうだ。

ばかー。墨入れる前にペンかなんかでお試ししようよー。
「慣れろ。」とDに言われて、はい終了。
実際は両方の属性攻撃なんて同時に受けることはないだろうけれど、そんな機会に遭ったらと思うと泣きたくなる。

最後に素早さをアップするD特性謎の薬を飲まされた。味は大変不味いけれど、ここまでくれば怖いものなんて無いわ!

と思っていた事もありました。

三日腹痛と下痢に悩まされて、快復した時は確かに信じられないくらい素早く反応できるようになった。
けれど、私の様子を見ていたハルもナツもフユもその薬を飲む事を固辞した。

「そんなに痩せたから、早く動けるようになっただけだよ。」とハルに言われて見た鏡に映った姿は確かに酷かった。けど、普通こんな目に遭ったら動けない気がするから効果はあったと思う。素早くなったとはいえ、元が元だからお察しだけど。

こうやって最低限を整えて、まずは谷のモンスター達に会いに行った。
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