143 / 192
98 私の心の中
しおりを挟む『ペンタメローネのシンデレラ、お母さんを殺したの。グリム童話のシンデレラ、お姉様は目玉をくり抜かれ、最後に姫は微笑むの。
めでたしめでたし大団円。そのお話の前と後。そこには何があるのでしょう?』
初めはただのゲームの世界だと思った。モブだけどゲームに参加して、友達と世界を救いつつ元の世界に帰ろうと思っていた。
けれど、この世界がそんなにぬるくない事に気がついたのはいつからだろう?闇の国の図書館でヒナタさんの物語を読んだ時?サンサンを助けた時?いるんだかいないんだかわからない神様が私に何かさせようとしている事に気がついたのはそのあたりだった気がする。
この世界がゲームの中なら、自分は本来この世界に来てはいけない存在だった。つまりバグである。バグは普通、システム内の自己防衛プログラムに消されるはずだ。私はこの世界に入れず消えるか、圧倒的に弱く設定されて序盤で処理されるべき存在だった。けれどいろんな偶然が重なり、今は生かされている。
システムが支配する世界で本当の意味での偶然なんか無い。私はシステムの意思によって生かされている。そして、それは私に何かをさせようとしているのだと思い至った。
サンサンを助け、ウランさんを助け、モートンさんが月子ちゃんの敵にならないようにした。大量のフラグを回収しながら、私はシステムが私にさせようとしている事を推し量った。
だって、推し量って成功させなければバグとして処理されると『確信していた。』から。
この『何故だかわからないけれど確信している』感覚を私はよく知っている。これは忘れた記憶だ。秋穂の記憶が蘇る前に大地くんや海里くんの性格を知っていたのと同じだった。
わたしがあの中庭でそれに気づいた後、システムは、この世界は呼応するように次々と分かりやすいフラグを立てていった。それは、私の推測が正しいのだと教えるようだった。
ヒナタさんの物語は圧倒的な強さでモンスターをなぎ倒すだけで、冒険らしい冒険はしていない。けれど、大地くん達が幼い頃に聞いたのは『胸踊る冒険譚』だった。
ゲーム中で月子ちゃんがこちらに来る日は、あちらを立った日と同じだ。あちらとこちらで月日はズレていない。なのにヒナタさんは帰ると10年もたっていた。
これはつまり、ヒナタさんも何度も『強くてニューゲーム』をしたと考えられる。ヒナタさんは大地くん達に10回の物語を上手く繋げて話したのだろう。
そして、この事はまた一つ私にヒントを与えるものだった。
『強くてニューゲームをすれば時間が戻るのではない。』
時間は過ぎるが、記憶が消されて少し若返るだけ。レベルも落ちる訳ではなく、記憶が消されて使えなくなるだけで、少し練習すればまた戻る。ゲーム中の最強アイテムは二回目には宝箱の中には入っていない。何故かゲーム開始時には所有者の手に入っている。攻略対象の月子ちゃんへの好感度は、始めから高くなる。
だから、逆にまだ来ていないはずの海里くんのメガネは既に遺跡に落ちていたのだ。海里君の攻略イベントで落としたメガネは、回収されずにニューゲームが始まった証拠だった。
月子ちゃんがゲームに現れた後も私がいる事をシステムは許さないだろう。だから月子ちゃんが来る日までに、いつも私はいなくなる。それはいつも私がそれまでに死んでいたからだ。バグの私は消されるのが仕事だった。けれど、今回は生かされている。
月子ちゃんがノーマルエンドと9人の攻略が済んだから、私にチャンスが来たのだ。
システムは大団円エンディングを迎える準備を私にさせている。
使えなければまた消される。システムからすれば居なくてもなんとかできるけれど、私を脅して動かす方が都合が良かったのかもしれない。
理由はわからないけれど、そうなっているとしか思えなかった。
一つのヒントから一つの真実を見つけると、後はドミノが倒れるように理由が分かった。
悪の精霊がシーマに似ていたのは、悪の精霊が私だったからだと気がつく。何度目かの私が失敗した話を誰かが絵本にし、人々の記憶から消されたけれど本だけ残ったのが引き継がれたものだ。
そうやって私はうっかり誰かの魔法で殺されたり、民の前でギロチンの刑に処されたりして来たのだと、システムに遠回しに脅されて来た。
記憶はなくても身体は覚えている。感情全てがリセットはされない。
闇の国の過保護ブラザーズ、特に大地君の眼の前で、私はガラスより脆くうっかり魔法で死んでしまったのだろう。だから、大地君は私が死ぬ事を恐れていた。眼の前でバラバラになるのを見るのは辛かっただろう。責任感の強い彼はその思いを持ち越して、私を保護しようとしている。何度も保護されて、闇の国で過ごした時間はきっと長くて、私達が忘れた記憶の中でウランさんや大地君は私を愛するようになった。
一志の事はとっくに整理がついている。心残りはあるけれど、諦めなければならない事だと納得している。けれど攻略対象を好きにならないように中庭で決意した。それは、月子ちゃんが既に攻略している相手だから。
私が大団円のお膳立てを上手くやって元の世界に帰れても、今、誰かと両想いになっても、月子ちゃんが来る前に私は世界に戻され、彼等の私の記憶は消されるだろう。彼等が月子ちゃんを想わなくては破壊神に勝てないから。
だから、私の元に転生してくる事はあり得ない。月子ちゃんと結ばれなくても彼等は私の事を死の間際に思い出すことすら無い。
それに何より、私自身が彼等に好かれる事を恐れている。
ウランさんも大地君もキュラスも、私に対しての好感度の上がり方が異常だったのは、過去の私達の関係のせいだと思う。
私がサタナさんを見て切なくなるのは、過去の私がサタナさんを好きだったからかもしれない。なのに、キュラスやサタナさんが私を好きになる事に、私は恐怖さえ覚えている。何故か彼等が傷付くと思ってしまい、それを恐れている。別れるのが辛い以上の恐怖が、私が恋愛しないようにさせている。
記憶は消せるのだから、システムがそう感じさせてるわけでは無いはずだ。
理由が思い至って、サタナさんと行動を共にする事を辞めようと決めた。それから、たった一回と決めて彼とデートした。
少し以前よりぎこちない彼が、パンケーキを買う背中に向かって私はたくさん質問した。
過去の貴方は私を守るために死にましたか?
過去の私達は両思いでしたか?
私がギロチンの露になった時、貴方はそれを見ていましたか?本当は優しくて繊細な貴方を傷つけましたか?
愛した人が死ぬのも、愛した人の眼の前で死ぬのもどちらも辛い事を私は『確信していた』
多分、サタナさんの私への好感度は高くなっている。
多分、キュラスの好感度も高くなっている。
魔法を覚えれば、一人で後は大団円を作ることができる。離れてしまえば、彼等が私のために死ぬ事くらいは避けられるはず。
大丈夫。私にはマリちゃんがいる。マリちゃんは取り上げたりされない。
弱くてニューゲームは、これで最後でいい。
0
お気に入りに追加
1,000
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する
春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。
しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。
その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。
だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。
そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。
さて、アリスの運命はどうなるのか。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
麗しの勘違い令嬢と不器用で猛獣のような騎士団長様の純愛物語?!
miyoko
恋愛
この国の宰相であるお父様とパーティー会場に向かう馬車の中、突然前世の記憶を思い出したロザリー。この国一番の美少女と言われる令嬢であるロザリーは前世では平凡すぎるOLだった。顔も普通、体系はややぽっちゃり、背もそこそこ、運動は苦手、勉強も得意ではないだからと言って馬鹿でもない。目立たないため存在を消す必要のないOL。そんな私が唯一楽しみにしていたのが筋肉を愛でること。ボディビルほどじゃなくてもいいの。工事現場のお兄様の砂袋を軽々と運ぶ腕を見て、にやにやしながら頭の中では私もひょいっと持ち上げて欲しいわと思っているような女の子。せっかく、美少女に生まれ変わっても、この世界では筋肉質の男性がそもそも少ない。唯一ドストライクの理想の方がいるにはいるけど…カルロス様は女嫌いだというし、絶対に筋肉質の理想の婚約相手を見つけるわよ。
※設定ゆるく、誤字脱字多いと思います。気に入っていただけたら、ポチっと投票してくださると嬉しいですm(_ _)m
嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。
季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。
今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。
王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。
婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!
おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。
イラストはベアしゅう様に描いていただきました。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる