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√ナルニッサ57

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 宿に戻るとリオネット様は居なかった。雨情もいなくて、ぐったりしているアッシャーのみ。
 聞けば、私たちとほぼ同じ事を一人でやり切ったらしい。

「怨嗟を防ぐ機械は?」
「あれは、まぁ、念のためだ。リオンの予測した通りに事態が動くほど、公は馬鹿じゃねぇと……願ってる」

 語尾が弱気ですよ、お兄様。

 そこにバタバタと雨情が入ってきた。

「おう、おつかれさん!俺とリオネット様の荷物運ぶん手伝ってもろてもええか?」

 私とナルさんは顔を見合わせる。

「移動するの?」
「まぁ、来いや」

 疲れ切ったアッシャーは免除で私とナルさんは、荷物……、例の本だけで無く、関連グッズを運ぶ。
 自分達をモチーフにした関連グッズを運ぶなんて、どんな罰ゲーム。

 ついた先は病院?というか診療所だった。
 裏手に回って荷物を運び入れる。

「リオネット様、ご病気?」
「いや、あの人がここを占拠した」

 占拠?それにしては、診療所の人達は慌ただしく働いてるし、近隣の人は炊き出し見たいな事をやっている。広めの庭には簡易テントが貼られていて、それは魔石ハンターっぽい人達がガンガン組み立ている。

 「見た方が早いで」と言われて、雨情が診察室の中を透視、それを魔石で使ったスクリーンに映し出した。多機能雨情。

『これは……酷い。腕を失ったのはいつですか?』
『3年前です。農作業中に倒れてきた農具に挟まれて』
『こちらの病院の白魔道士は?』
『病院なんて、我々には!診療所で腐らないよう手当と痛みは止めてもらいました』
『信じられないですね。民は貴族の宝。すぐに処置すれば失う必要は無かった。……すみません、再生する事はできません。手と同じように動く義手で許していただけますか?失ってそのままという例を知りませんでした。いつか再生する様な技術を、……探し出してみせます』

 迫真の演技で、リオネット様は涙ぐんでる。しかし、その後にペラペラ義手の多機能性を語り始めて台無し。
 絶対義手の方が便利だと思ってるでしょ、リオネット様。と思ったのは見ている私達だけらしく、診察を受けていた患者さんは泣いて喜んで跪いていた。

『そんな、膝をつかないで、貴族の勤めを果たしているだけですから』

 まだやるか。一緒に膝をついて立ち上がらせる。

「まぁ、この辺で。手術シーンは見ん方がええ。患者さんらも後でそこだけ記憶落とさせるし」

 後で記憶を落とすという事は。
 直後断末魔の様な悲鳴がこだました。

「診療室とここ以外はぐるっと防音魔法も透視不可もかけてあんねん」
「リオネット様って、白魔道士だから残虐なのダメじゃ?」

 ナルさんは首を振る。

「治療や回復に関しては無制限です」
「ショック死はせぇへんような魔法はかけた方がええって言うたら聞いてくれはったで。俺ん時は何も無くてやばかった」

 麻酔……、麻酔の概念は無いの……?

 外に出ると、すでに治された人達がテントで休憩していた。可愛らしいフォルムの話せる使令達が、キビキビと手伝いの人達に指示を飛ばしている。

「そちらの患者さんは患部を冷やして。あちらの患者さん、目はしばらく開けない様に。……お手伝いの方々ありがとうございます。こちらの薬を運んでいただけますか?」

 優秀すぎるうさぎだ。

 流石に騒ぎに気がついたのか、お役人さんが現れた。もう少し早くきたら結果は違ったかもしれない。ナルさんの色香でやられた後言いくるめられて、回れ右。所要時間十分。

「何か手伝える?」
「今んとこは特に。またいつリオネット様が何言いださはるか分からへんから、今のうちに部屋戻って休んどき」

 私達はナルさんの使令を伝書鳩代わりに預けて宿に戻った。

 次の日、リオネット様は朝には宿にいた。ロイヤルグレイス公に今日も会いに行くのかと思ったら「え?行きませんよ?いそがしいですから」と笑顔のお答え。

 それよりも、と私達はまた本を配りに違う方向の村々へ。今度はアッシャーも一緒に。

 アッシャーは昨日私達と同じ事をやりながら、特定の地域で機械を配っていた。

「ここんとこに怨嗟を避ける機械埋めてあるだろ?うちのリオネットが埋めたんだが、逆にここは元々怨嗟の元が溜まりやすい場所だ。だから、壊れるこたぁねぇと思うけど、万一何かあった時はこの機械を使ってくれ」

 仲良くなってから、レクチャーを始める。平民、村の有力者、役人全員集めてそれぞれに充分量を渡す。

 役人や有力者は取り分多くして管理したい。平民は自分達で持ちたがる。

「民は各自ひとつずつ。これは上のもんが奪っちゃいけない。村長は村人本人が使えなかったり、無くしたりした時に助けてやってくれ。最後の砦は役場だ。魔王を倒すまで、苦労をかけるがよろしく頼む」

 色香ありです。御神託でも聞いてる顔ですよ、皆さん。アッシャー教にご入信。
 さくさく作業は済んで、ほぼ領内全てに本は行き渡った。

 更に翌日、朝からロイヤルグレイス公の使いの方が『面会のお許し』を言いにきた。

「すみません。あいにく体調が優れないので、また後日」

 リオネット様は顔色良くにこやかにお断りをして、宿屋の窓から診療所にご出勤。

 今日は街の調査をして欲しいと言われたので街を出ると……。

「グッズに溢れてる……」

 そこもかしこも、ナルさんと私モチーフの物だけで無く、アッシャーや雨情関連商品が溢れていた。

「マンチェスターからこちらに届く品の量も事前に増やしていたのでしょう。リオネットは商才もありますね」

 ナルさんは感心しているが、周りの目が……。

「カリン様っ、この度はご婚約おめでとうございます!」

 親戚のおばちゃんかと思う勢いで、涙ぐまれながらお祝いを言われた。その服装から熱烈なファンだと分かる。

「ありがとうございます。他領地の民あなたがたに祝われるのは光栄だ」

 ナルさんは本気で喜んでるらしかった。
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