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第二十八話
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ウィルフレッドの執務室。
いつでも自分の姿を確認できるように至る所に鏡が配置されてあり、机の上には数枚の書類のみが置かれている。
「思った通りクリスティーナは僕のために励んでいるようだね。マリーも僕と一緒に過ごせる時間が増えて幸せを感じているんだろう。聖女の力が遺憾無く発揮されているようだ」
国民たちの不平不満の陳情書が無くなった事により、聖女の力で国が豊かになってきたのだと一人で喜ぶウィルフレッド。
クリスティーナの髪が伸びるまであとどれくらいの時間が必要だろうか?
長いと思っていたが
マリーとゆっくり過ごせる時間が増えて更に国が良くなって行くのなら、こうして待つ時間も悪くない。
あの時のクリスティーナの笑顔を見ることができるのなら、待つ価値も大いにある。
「いや、それよりもマリーとの間に子を儲ける事が先か…。僕とマリーの子供なら可愛い姫が生まれるだろうな。クリスティーナとの間なら聡明で美しい王子かな?まぁ、どちらにしても僕の血を受け継ぐ子供なのだから美しいに違いない」
ウィルフレッドは書類に目を通すこともせず、次々に署名を書いていく。ほんの数回名前を書くだけで終わる簡単な仕事だ。
ひと仕事終えたウィルフレッドはいつものようにマリーの元へと向かった。
「待たせたね」
「ウィルフレッド様!お仕事はもう終わったの?」
「マリーのために早く終わらせたんだよ」
可愛らしい笑顔で自分を迎えるマリーに満足しながらウィルフレッドはソファに腰掛け、出されたお茶を優雅に飲む。
「僕たちの最初の子は可愛い姫が良いと思わないか?」
ウィルフレッドが尋ねると、マリーの目から涙が溢れる。
「まだ兆しは見えないの。私も大好きなウィルフレッド様の子供が欲しいと思っているんだけど…」
「マリー…」
ウィルフレッドはマリーを優しく抱きしめる。
「子は授かりものだからね。聖女の君でも人の命までは作り出せない事はわかっているさ。焦らなくても大丈夫だよ」
「ウィルフレッド様」
見つめ合っていた2人だったが、ウィルフレッドは鏡を見つめながら呟いた。
「この際クリスティーナの子が先に生まれても仕方がないか…」
「………」
その後はロザリア王妃の元へ行き、3人でドレスや美容品を買い漁り、新しい宝石を身に着けて自分の部屋に戻ったマリー。
1人になった瞬間に真新しい宝石をベッドに投げ捨てた。
「なんなのよ!子供は産みたくないけどウィルフレッド様があの女の所に通うだなんて絶対に嫌よ!側室なら黙って仕事だけしていれば良いじゃない!」
マリーは歳よりも若く見られる自分の容姿に自信を持っていた。妊娠して体型が崩れることも、出産の痛みも経験したくない。だからウィルフレッドには言わずに密かに避妊薬を処方していたのだ。
これでウィルフレッドといつまでも2人で過ごせる。自分は聖女なのだから誰よりも優先されるべきだ。
子供は養子をとるか王妃のロザリアがもう1人産めば良い。ウィルフレッドを産んでるのだから、歳はいっていてもあと1人くらい産めるだろう。
それが無理ならそれはもうマリーの知るところではない。
王族の掟も成り立ちも知らないマリーは自分の物差しでしか物事を測れなかった。
「それにしても本当に邪魔よね…」
ウィルフレッドはどうしたらクリスティーナに興味を無くすだろうか…?マリーは足りない頭で考える。
「そうだわ!」
いい事を閃いたと、マリーは侍女を呼び出して2つの頼み事をした。
翌日、マリー付きの侍女はクリスティーナのいる別棟に足を踏み入れていた。
ワゴンを押しながら人のいない廊下をゆっくりと進んでいくが、その足取りは重い。
扉を叩くと中から聞こえてくるクリスティーナの優しい声。
自分が今から成すべき行動に罪悪感を感じつつ、侍女は部屋の中へと入っていく。
「クリスティーナ様、こちらは聖女様からのお気持ちでございます」
差し出したのは甘い香りの漂うバスケット。上に被っている布を取ると、バターのたっぷり入ったマフィンやクリームのはみ出たケーキがたくさん入っている。
「ありがとう。後で頂くわね。聖女様にお礼のお手紙を書くから少し時間を貰えるかしら?」
そう言って手紙を書き始めたクリスティーナに、侍女は近付いていく。
「あの…」
「どうしたの?」
「聖女様の贈り物はまだあるのです…」
「まぁ、何かしら?」
純粋無垢な顔で尋ねられ、侍女は心が痛んだ。
「御髪を綺麗に整えて差し上げるように申し使っております…。綺麗に伸ばしてウィルフレッド様に喜んで頂けるようにと…」
「聖女様はお優しいのね。ずっと伸ばしっぱなしだったから嬉しいわ」
侍女は鏡のない場所にクリスティーナを連れていき、櫛で髪の毛を梳かしていく。艶のある綺麗な髪。鎖骨辺りまで伸びた髪の毛を整える振りをして、肩の上までバッサリとハサミで切っていった。
鏡を確認されないように話し続けながら落ちた髪を綺麗にして、そのまま足早に別棟から逃げ帰るように出ていく。
「そこまで怯えなくても怒ったりしないのに…」
軽くなった髪を触りながら1人になったクリスティーナは苦笑する。
伸びてきた髪の毛をどうしようか悩んでいたところ、今回の話を聞いていたクリスティーナはずっと待ち続けていたのだ。
夜になるとケーキの入った籠と手紙を机の上に起き、クリスティーナはベッドに入って朝になるのを待った。
朝になると籠の中の菓子は全て無くなっており、代わりに手紙が入っていた。菓子は孤児院の子どもたちに届けられたと書いてある。
(無駄にならなくて良かったわ)
クリスティーナは情報をくれた事と、それを有効活用してくれた手紙の主に感謝した。
それからというもの、定期的にマリーからクリスティーナ宛に甘い砂糖たっぷりの菓子が贈られてくるようになり、聖女からの有り難い物は捨てずに全部食べ切るようにという言伝てまで添えられるようになった。
全て貧しい子供たちの元へ届けられるのだが
クリスティーナが食べていると信じているマリーは、吹き出物だらけの脂ぎったクリスティーナの姿を想像してほくそ笑んでいる。
「醜くなったらウィルフレッド様に見向きもされないわよ」
王都に住む貧しい子供たちに菓子が行き渡り、国の状況が少し良くなったように見えたクリスティーナ。
しかし、見えていない場所で様々な事が起こっていることはまだ知らない…。
いつでも自分の姿を確認できるように至る所に鏡が配置されてあり、机の上には数枚の書類のみが置かれている。
「思った通りクリスティーナは僕のために励んでいるようだね。マリーも僕と一緒に過ごせる時間が増えて幸せを感じているんだろう。聖女の力が遺憾無く発揮されているようだ」
国民たちの不平不満の陳情書が無くなった事により、聖女の力で国が豊かになってきたのだと一人で喜ぶウィルフレッド。
クリスティーナの髪が伸びるまであとどれくらいの時間が必要だろうか?
長いと思っていたが
マリーとゆっくり過ごせる時間が増えて更に国が良くなって行くのなら、こうして待つ時間も悪くない。
あの時のクリスティーナの笑顔を見ることができるのなら、待つ価値も大いにある。
「いや、それよりもマリーとの間に子を儲ける事が先か…。僕とマリーの子供なら可愛い姫が生まれるだろうな。クリスティーナとの間なら聡明で美しい王子かな?まぁ、どちらにしても僕の血を受け継ぐ子供なのだから美しいに違いない」
ウィルフレッドは書類に目を通すこともせず、次々に署名を書いていく。ほんの数回名前を書くだけで終わる簡単な仕事だ。
ひと仕事終えたウィルフレッドはいつものようにマリーの元へと向かった。
「待たせたね」
「ウィルフレッド様!お仕事はもう終わったの?」
「マリーのために早く終わらせたんだよ」
可愛らしい笑顔で自分を迎えるマリーに満足しながらウィルフレッドはソファに腰掛け、出されたお茶を優雅に飲む。
「僕たちの最初の子は可愛い姫が良いと思わないか?」
ウィルフレッドが尋ねると、マリーの目から涙が溢れる。
「まだ兆しは見えないの。私も大好きなウィルフレッド様の子供が欲しいと思っているんだけど…」
「マリー…」
ウィルフレッドはマリーを優しく抱きしめる。
「子は授かりものだからね。聖女の君でも人の命までは作り出せない事はわかっているさ。焦らなくても大丈夫だよ」
「ウィルフレッド様」
見つめ合っていた2人だったが、ウィルフレッドは鏡を見つめながら呟いた。
「この際クリスティーナの子が先に生まれても仕方がないか…」
「………」
その後はロザリア王妃の元へ行き、3人でドレスや美容品を買い漁り、新しい宝石を身に着けて自分の部屋に戻ったマリー。
1人になった瞬間に真新しい宝石をベッドに投げ捨てた。
「なんなのよ!子供は産みたくないけどウィルフレッド様があの女の所に通うだなんて絶対に嫌よ!側室なら黙って仕事だけしていれば良いじゃない!」
マリーは歳よりも若く見られる自分の容姿に自信を持っていた。妊娠して体型が崩れることも、出産の痛みも経験したくない。だからウィルフレッドには言わずに密かに避妊薬を処方していたのだ。
これでウィルフレッドといつまでも2人で過ごせる。自分は聖女なのだから誰よりも優先されるべきだ。
子供は養子をとるか王妃のロザリアがもう1人産めば良い。ウィルフレッドを産んでるのだから、歳はいっていてもあと1人くらい産めるだろう。
それが無理ならそれはもうマリーの知るところではない。
王族の掟も成り立ちも知らないマリーは自分の物差しでしか物事を測れなかった。
「それにしても本当に邪魔よね…」
ウィルフレッドはどうしたらクリスティーナに興味を無くすだろうか…?マリーは足りない頭で考える。
「そうだわ!」
いい事を閃いたと、マリーは侍女を呼び出して2つの頼み事をした。
翌日、マリー付きの侍女はクリスティーナのいる別棟に足を踏み入れていた。
ワゴンを押しながら人のいない廊下をゆっくりと進んでいくが、その足取りは重い。
扉を叩くと中から聞こえてくるクリスティーナの優しい声。
自分が今から成すべき行動に罪悪感を感じつつ、侍女は部屋の中へと入っていく。
「クリスティーナ様、こちらは聖女様からのお気持ちでございます」
差し出したのは甘い香りの漂うバスケット。上に被っている布を取ると、バターのたっぷり入ったマフィンやクリームのはみ出たケーキがたくさん入っている。
「ありがとう。後で頂くわね。聖女様にお礼のお手紙を書くから少し時間を貰えるかしら?」
そう言って手紙を書き始めたクリスティーナに、侍女は近付いていく。
「あの…」
「どうしたの?」
「聖女様の贈り物はまだあるのです…」
「まぁ、何かしら?」
純粋無垢な顔で尋ねられ、侍女は心が痛んだ。
「御髪を綺麗に整えて差し上げるように申し使っております…。綺麗に伸ばしてウィルフレッド様に喜んで頂けるようにと…」
「聖女様はお優しいのね。ずっと伸ばしっぱなしだったから嬉しいわ」
侍女は鏡のない場所にクリスティーナを連れていき、櫛で髪の毛を梳かしていく。艶のある綺麗な髪。鎖骨辺りまで伸びた髪の毛を整える振りをして、肩の上までバッサリとハサミで切っていった。
鏡を確認されないように話し続けながら落ちた髪を綺麗にして、そのまま足早に別棟から逃げ帰るように出ていく。
「そこまで怯えなくても怒ったりしないのに…」
軽くなった髪を触りながら1人になったクリスティーナは苦笑する。
伸びてきた髪の毛をどうしようか悩んでいたところ、今回の話を聞いていたクリスティーナはずっと待ち続けていたのだ。
夜になるとケーキの入った籠と手紙を机の上に起き、クリスティーナはベッドに入って朝になるのを待った。
朝になると籠の中の菓子は全て無くなっており、代わりに手紙が入っていた。菓子は孤児院の子どもたちに届けられたと書いてある。
(無駄にならなくて良かったわ)
クリスティーナは情報をくれた事と、それを有効活用してくれた手紙の主に感謝した。
それからというもの、定期的にマリーからクリスティーナ宛に甘い砂糖たっぷりの菓子が贈られてくるようになり、聖女からの有り難い物は捨てずに全部食べ切るようにという言伝てまで添えられるようになった。
全て貧しい子供たちの元へ届けられるのだが
クリスティーナが食べていると信じているマリーは、吹き出物だらけの脂ぎったクリスティーナの姿を想像してほくそ笑んでいる。
「醜くなったらウィルフレッド様に見向きもされないわよ」
王都に住む貧しい子供たちに菓子が行き渡り、国の状況が少し良くなったように見えたクリスティーナ。
しかし、見えていない場所で様々な事が起こっていることはまだ知らない…。
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