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第十三話
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両親に手厚く看病されて全快したクリスティーナ。
外を歩いていると、遠くから動物の鳴き声が聞こえてくる。
(羊の鳴き声…?私が休んでいる間に連れてきたのかしら?)
鳴き声に向かって歩いて行くと、そこにはウィルがいた。
あんな別れ方をしてしまって気不味くて、クリスティーナは踵を返そうと一歩後退る。
「元気になったみたいだな」
ウィルは何事もなかったかのように話しかけて、クリスティーナに近付いた。
もう一歩下がると、クリスティーナの手に柔らかい何かが当たった。メ~と鳴いて、シャツの裾を噛んでいる。
「ちょっと…、これは食べ物じゃないのよ?離して」
シャツを引っ張っても、羊はどんどん口の中にシャツを入れて離れない。
ウィルは「馬鹿だな」と笑ってクリスティーナの横に立ち、羊の口からシャツを引っ張り出してくれた。
(今日は煙草の香りはしないのね…)
クリスティーナは殿方の匂いを嗅ぐなんて痴女じゃないかと、そんな事を考えてしまった自分を恥じた。
「この羊はどうしたの?」
自分の気持ちを誤魔化すように、ウィルに尋ねる。
「めん羊だよ。奥に牧草が生えていたから羊を育てて、刈った毛を使って何か作って売れるだろう?」
ウィルは簡単に言ってのけるが、クリスティーナは畑のことに頭がいっぱいで、思い付きもしなかった。
「ウィルは凄いのね…」
「俺はなんでも屋だからな。色々とやってきたんだよ。ちょっと奥に来いよ」
ウィルがクリスティーナを奥に連れて行くと、そこには何頭もの羊がいた。
「ちゃんと教えるから、羊の世話が出来るように覚えろよ。これは今のクリスがみんなの為にやれることだ」
クリスティーナはウィルの説明を聞きながら考えていた。
ウィルは焦る自分の為に羊の案をジェームズに言ってくれたんだろう。
王都までの道中で稽古をつけてくれたのもそう。
狼や盗賊達に抗えなくて悔しく思っていたところに、さり気なく教えてくれた。
きっと、両親にも何か言ってくれたんだろう。
以前だったらやると言ったら何でもやらせてくれて、自分を止めてまで休むようになんて、言われた事はなかった。
そのお陰で家族の距離が縮まって、二人が色々と聞いてくれるようになって、少しずつだけど自分の気持ちも言えるようになってきた。
本当はずっと思っていた。
「もう止めていいよ」「休んでいいんだよ」って言って欲しい…
でも、誰も言ってくれなくて……
自分でなんとかするしかなかった。
(どうして偶然会っただけの私にそこまでしてくれるの…?)
「おい、聞いてるか?」
クリスティーナが考え込んでいると、ウィルが振り返って聞いてきた。
「ごめんなさい。少し考え事をしていたの…」
「いや、一気に詰め込もうと思って話しすぎたな。病み上がりなのに悪かった。また明日教えるよ」
ウィルに送られて、クリスティーナは屋敷に戻った。
次の日からクリスティーナはウィルの元に通い、一緒に羊の世話をするようになる。
羊をよく歩かせて土や草を踏ませ、草を食べさせているうちに土が肥えると聞き
羊乳の絞り方や世話をする際の注意する点など、一緒にやりながら教えて貰った。
乳を絞る作業が上手くできなくて戸惑っていると、ウィルが手を取って優しく教えてくれた。
上手くできて喜ぶクリスティーナの頭をガシガシと撫でて
「良かったな」と言ってくれるウィル。
一緒にいればいるほど惹かれていく。
早く時間が経って欲しい。大人になりたい。
クリスティーナはそんな事を考えるようになっていた。
その日の夕食の時間
イディオにいた頃よりも質素な食事だけど、家族3人で楽しく話せる時間。
難しい話も悲しい話もない、他愛のない今日の出来事を話しながら食事をしていると、ジェームズの仕事が始まると言う。
「明日から登城することになったよ。夕食前には帰ってくるから、こうやってみんなで食事をしよう」
「以前は遅くまで働いていたから一緒に食事を取れる時間も無かったのよね…。それを聞いて安心したわ」
仕事で忙しいジェームズと王子妃教育で忙しいクリスティーナは、ゆっくり食事を取れる時間が無かった。
アメリアは不満も漏らさずに、いつも一人で食事をしていたのだ。
家族で過ごせる時間が増えて嬉しい。
3人が感じていることだった。
「ウィルが来てくれて助かったよ。彼がいてくれるから安心して仕事に行ける」
ジェームズがそう言うと、アメリアが尋ねる。
「本当ね。オリバー卿が寄越してくれたのよね?」
「あぁ、暫く使ってくれと言ってくれてね。いつまでもいて欲しいくらいだよ」
二人が嬉しそうに笑う中、クリスティーナは笑えずに話を聞いていた。
「いつかいなくなってしまうの…?」
クリスティーナの問いに、二人は顔を見合わせる。
「ずっと居てほしいと思うけれど、それはウィルが決めることだもの」
「彼がここに住みたいと言ってくれれば歓迎するが、無理強いはできないからね…」
二人にそう言われたクリスティーナは、食事の手を止めて俯いてしまった。
『また明日』
そう言って別れたから、クリスティーナはそれがいつまでも続くと思っていた。
「クリスティーナ…」
ジェームズもアメリアも何も言えなかった。
フォーリュまでの道中で、ウィルに対するクリスティーナの態度は年相応の子供らしい姿だった。
今まで見たことがないクリスティーナを見て、無理をさせていたんだと後悔した。
怒鳴ったり我が儘を言える相手ができて良かった
兄のような存在ができて良かった
そう思っていた。
クリスティーナが熱を出している時にウィルに怒られたお陰で家族の距離が縮まって
少しずつではあるが
クリスティーナが自分達に我が儘を言えるようになってきた。
開拓の手伝いも請け負ってくれて
命を助けてくれただけではない、家族みんなの恩人だ。感謝してもしきれない。
最近のクリスティーナは本当に楽しそうで、食事中もウィルの話をよくしていた。
なんとかしてやりたい…。
そう思いながら、ジェームズは俯くクリスティーナを見ていた。
外を歩いていると、遠くから動物の鳴き声が聞こえてくる。
(羊の鳴き声…?私が休んでいる間に連れてきたのかしら?)
鳴き声に向かって歩いて行くと、そこにはウィルがいた。
あんな別れ方をしてしまって気不味くて、クリスティーナは踵を返そうと一歩後退る。
「元気になったみたいだな」
ウィルは何事もなかったかのように話しかけて、クリスティーナに近付いた。
もう一歩下がると、クリスティーナの手に柔らかい何かが当たった。メ~と鳴いて、シャツの裾を噛んでいる。
「ちょっと…、これは食べ物じゃないのよ?離して」
シャツを引っ張っても、羊はどんどん口の中にシャツを入れて離れない。
ウィルは「馬鹿だな」と笑ってクリスティーナの横に立ち、羊の口からシャツを引っ張り出してくれた。
(今日は煙草の香りはしないのね…)
クリスティーナは殿方の匂いを嗅ぐなんて痴女じゃないかと、そんな事を考えてしまった自分を恥じた。
「この羊はどうしたの?」
自分の気持ちを誤魔化すように、ウィルに尋ねる。
「めん羊だよ。奥に牧草が生えていたから羊を育てて、刈った毛を使って何か作って売れるだろう?」
ウィルは簡単に言ってのけるが、クリスティーナは畑のことに頭がいっぱいで、思い付きもしなかった。
「ウィルは凄いのね…」
「俺はなんでも屋だからな。色々とやってきたんだよ。ちょっと奥に来いよ」
ウィルがクリスティーナを奥に連れて行くと、そこには何頭もの羊がいた。
「ちゃんと教えるから、羊の世話が出来るように覚えろよ。これは今のクリスがみんなの為にやれることだ」
クリスティーナはウィルの説明を聞きながら考えていた。
ウィルは焦る自分の為に羊の案をジェームズに言ってくれたんだろう。
王都までの道中で稽古をつけてくれたのもそう。
狼や盗賊達に抗えなくて悔しく思っていたところに、さり気なく教えてくれた。
きっと、両親にも何か言ってくれたんだろう。
以前だったらやると言ったら何でもやらせてくれて、自分を止めてまで休むようになんて、言われた事はなかった。
そのお陰で家族の距離が縮まって、二人が色々と聞いてくれるようになって、少しずつだけど自分の気持ちも言えるようになってきた。
本当はずっと思っていた。
「もう止めていいよ」「休んでいいんだよ」って言って欲しい…
でも、誰も言ってくれなくて……
自分でなんとかするしかなかった。
(どうして偶然会っただけの私にそこまでしてくれるの…?)
「おい、聞いてるか?」
クリスティーナが考え込んでいると、ウィルが振り返って聞いてきた。
「ごめんなさい。少し考え事をしていたの…」
「いや、一気に詰め込もうと思って話しすぎたな。病み上がりなのに悪かった。また明日教えるよ」
ウィルに送られて、クリスティーナは屋敷に戻った。
次の日からクリスティーナはウィルの元に通い、一緒に羊の世話をするようになる。
羊をよく歩かせて土や草を踏ませ、草を食べさせているうちに土が肥えると聞き
羊乳の絞り方や世話をする際の注意する点など、一緒にやりながら教えて貰った。
乳を絞る作業が上手くできなくて戸惑っていると、ウィルが手を取って優しく教えてくれた。
上手くできて喜ぶクリスティーナの頭をガシガシと撫でて
「良かったな」と言ってくれるウィル。
一緒にいればいるほど惹かれていく。
早く時間が経って欲しい。大人になりたい。
クリスティーナはそんな事を考えるようになっていた。
その日の夕食の時間
イディオにいた頃よりも質素な食事だけど、家族3人で楽しく話せる時間。
難しい話も悲しい話もない、他愛のない今日の出来事を話しながら食事をしていると、ジェームズの仕事が始まると言う。
「明日から登城することになったよ。夕食前には帰ってくるから、こうやってみんなで食事をしよう」
「以前は遅くまで働いていたから一緒に食事を取れる時間も無かったのよね…。それを聞いて安心したわ」
仕事で忙しいジェームズと王子妃教育で忙しいクリスティーナは、ゆっくり食事を取れる時間が無かった。
アメリアは不満も漏らさずに、いつも一人で食事をしていたのだ。
家族で過ごせる時間が増えて嬉しい。
3人が感じていることだった。
「ウィルが来てくれて助かったよ。彼がいてくれるから安心して仕事に行ける」
ジェームズがそう言うと、アメリアが尋ねる。
「本当ね。オリバー卿が寄越してくれたのよね?」
「あぁ、暫く使ってくれと言ってくれてね。いつまでもいて欲しいくらいだよ」
二人が嬉しそうに笑う中、クリスティーナは笑えずに話を聞いていた。
「いつかいなくなってしまうの…?」
クリスティーナの問いに、二人は顔を見合わせる。
「ずっと居てほしいと思うけれど、それはウィルが決めることだもの」
「彼がここに住みたいと言ってくれれば歓迎するが、無理強いはできないからね…」
二人にそう言われたクリスティーナは、食事の手を止めて俯いてしまった。
『また明日』
そう言って別れたから、クリスティーナはそれがいつまでも続くと思っていた。
「クリスティーナ…」
ジェームズもアメリアも何も言えなかった。
フォーリュまでの道中で、ウィルに対するクリスティーナの態度は年相応の子供らしい姿だった。
今まで見たことがないクリスティーナを見て、無理をさせていたんだと後悔した。
怒鳴ったり我が儘を言える相手ができて良かった
兄のような存在ができて良かった
そう思っていた。
クリスティーナが熱を出している時にウィルに怒られたお陰で家族の距離が縮まって
少しずつではあるが
クリスティーナが自分達に我が儘を言えるようになってきた。
開拓の手伝いも請け負ってくれて
命を助けてくれただけではない、家族みんなの恩人だ。感謝してもしきれない。
最近のクリスティーナは本当に楽しそうで、食事中もウィルの話をよくしていた。
なんとかしてやりたい…。
そう思いながら、ジェームズは俯くクリスティーナを見ていた。
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