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XXVI
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ギャーギャー騒ぎながら店から追い出されるクロードとハリーを見て、エマは不思議で仕方がない。
「サマンサはそれで良いの?」
「そうね…。最初は嫌だと思ったのだけど、絆されてしまったのかしらね?」
訳のわからない自分の主張ばかりをするクロードを欝陶しいと思っていたのだが、少しずつ変わっていく姿に気を許してしまった。
自分を気遣い知ろうとするクロードは、以前とは比べ物にならないほど威圧感もない。
サマンサを従わせようとするのではなく自分が従おうとする姿勢は、公爵当主になった事を考えるとかなり善処したと言っていいだろう。
そんなクロードが絶対に頷かないことがある。
それは離縁届けの提出。
「一度受理されてしまうと、二度と復縁出来なくなるんだよ。もう少し時間をかけて考えよう?」
公爵家は大丈夫なのかとも思ったが、本人がそれで良いなら言うこともない。
サマンサは誰かと結婚する予定もないので、無理強いしないなら放っておくことにした。
それをよく思わない男がいる。
「別にいいじゃん。早くサマンサを開放してよ。いい大人が縋りついてみっともない」
ハリーは不貞腐れていた。
元旦那だと思っていたクロードが現在進行系で旦那のままだ。
我が儘を言って離縁しないことにも苛立っている。
「君には関係ないだろう!」
「関係あるよ!サマンサは俺のサマンサなんだ!なんだよ、サムって。男みたいな名前じゃないか!」
「サムがそう呼んで欲しいって言ったんだよ」
得意気な顔をするクロードに、悔しそうな表情のハリー。
毎度の事ながら、サマンサに店から追い出された。
このやり取りは店の名物になってしまい、常連客は楽しんで見ている。
「相変わらずだねぇ。店長さんはどっちを選ぶの?」
客が笑いながらサマンサに聞くまでがお決まりの流れだった。
(束の間の自由だったわね…)
サマンサは二人の猛突進に疲れていたのだが、それをどこか楽しくも思っている。
そんなある日、クロードが大きな花束を抱えてやってきた。
「今日は結婚記念日だから…」
そう言って差し出したのは、サマンサの好きなチューリップの花束。
契約結婚をしてから2年、サマンサが屋敷を出てから半年以上も経過していた。
「覚えていたんですね…」
二人が夕食を共にするようになった日に、クロードがサマンサに尋ねたことがあった。
その時は「そうか」と言うだけで何もしなかった。
しかし、実はクロードは庭にチューリップの種を埋めていて、自らの手で育てた花を持ってきたのだ。
「サム、もう一度初めからやり直せないか?私は君と過ごしたいんだ」
自分の為に変わっていくクロードを半年見ていたサマンサは、結局絆されてしまったのだろう。
今、屋敷に向かう馬車にいる。
喫茶店はエマに任せることになった。
遊びに行くうちに店の常連客が気になるようになっていたエマには渡りに船だった。
それを機に庭師のフレッドが屋敷を辞め孤児院でサラと一緒に責任者を務めることになる。
ハリーは「結局もとに戻っちゃうのかよ…」と不貞腐れていたが、サマンサが幸せならと言って送り出してくれた。
「そうじゃなかったら俺が連れ出すからね!いつでも頼ってよ!」
クロードにひと睨み聞かせたのは言うまでもない。
サマンサが久しぶりに公爵家の屋敷に足を踏み入れると、使用人の顔ぶれが変わっていた。
クロードが屋敷の使用人を両親の屋敷で働く使用人とで総入れ替えをしたのだ。
拒否しようとした公爵夫妻だったが、ことのあらましを聞いてすぐに変えさせた。
「そんな事があったなんて…。あなたは何をやっていたのよ!」
あまりの出来事に憤るオリビア夫人だったが、息子を思いっきり叩いて溜飲を下げる。
「今度こそ幸せにしてあげなさい。使用人達は私達が躾け直すから任せなさい」
自分勝手に職務を放棄した使用人達には、厳しいイビリが待っていることだろう。
クロードが前もって伝えていたのか、身支度の世話をする侍女達はサマンサが一人になりたい時は側を離れてくれる。
サマンサの家族が訪ねてもクロード自ら追い返し、権力を見せつけて脅した。二度と来ることはない。
夜は一緒に食事を取る約束をし
朝から昼の忙しい時間までは喫茶店で働いて
昼食は週に一度訪れるクロードと食べてから一緒に帰る。
午後からは孤児院に行ったり、オリビアに教わりながら公爵夫人としての仕事も覚えていった。
そして休日の今日、クロードと公園を歩いている。
綺羅びやかドレスではなく、サマンサの好きな緑色の普段着を着て…。
「サムは今の生活を息苦しく感じていないかい?」
「えぇ。こんなに堂々と自由に過ごせるだなんて夢みたいだわ」
二人はゆっくりと歩きながら色んなことを話した。
誰かに見せつける為の笑顔ではなく、心からの笑顔で話す二人の姿は社交界を再び騒がせる。
屋敷に戻ると、エマやハリーに孤児院の子供達
サラやフレッドまで、サマンサの大好きな人達がいた。
「サマンサはこっちよ」
エマは驚いているサマンサを引っ張って部屋まで連れていき
サマンサはあっという間に綺麗な青いドレスに、化粧までされる。
「とても似合っているわ!」
オリビアが入ってきて、サマンサを見て感激したいた。
「さぁ、みんなお待ちかねよ」
階段の下にはタキシードを着たクロードが立っており、エスコートをされて玄関口を出る。
すると、みんなが両脇に並んでいて
「おめでとう!」
花びらを二人にかけた。
これはクロードが企てた二度目の結婚式。
サマンサのために気心の知れた友人達を招待して、祝って貰いたかった。
一度目の時とは違う。
公爵家に代々伝わるドレスを着て、みんなに祝福されて
サマンサはもう職業でもお飾りでもない。
本当の妻としてクロードの横に立ち、みんなに認められた。
もう誰かの顔色を伺う必要もない。
隠れてコソコソする事もない。
嫌な事をする人も、それを忘れて無かった事にする人もいない。
サマンサは本当の意味で、自由に過ごせるようになった。
サマンサの喫茶店『リベルタス』では
エマが意中の常連客と恋仲になったり、ハリーがそこで運命の出会いを果たしたり…
大恋愛の末に再び結ばれたと噂されるサマンサの経営する喫茶店。
令嬢たちの間で『縁結びの喫茶店』と囁かれるようになり、お忍びで訪れる者が後を絶たないという。
化粧もしていない地味な店員がサマンサだとは誰も気付かなかった。
サマンサは今日も自由に過ごしている。
「サマンサはそれで良いの?」
「そうね…。最初は嫌だと思ったのだけど、絆されてしまったのかしらね?」
訳のわからない自分の主張ばかりをするクロードを欝陶しいと思っていたのだが、少しずつ変わっていく姿に気を許してしまった。
自分を気遣い知ろうとするクロードは、以前とは比べ物にならないほど威圧感もない。
サマンサを従わせようとするのではなく自分が従おうとする姿勢は、公爵当主になった事を考えるとかなり善処したと言っていいだろう。
そんなクロードが絶対に頷かないことがある。
それは離縁届けの提出。
「一度受理されてしまうと、二度と復縁出来なくなるんだよ。もう少し時間をかけて考えよう?」
公爵家は大丈夫なのかとも思ったが、本人がそれで良いなら言うこともない。
サマンサは誰かと結婚する予定もないので、無理強いしないなら放っておくことにした。
それをよく思わない男がいる。
「別にいいじゃん。早くサマンサを開放してよ。いい大人が縋りついてみっともない」
ハリーは不貞腐れていた。
元旦那だと思っていたクロードが現在進行系で旦那のままだ。
我が儘を言って離縁しないことにも苛立っている。
「君には関係ないだろう!」
「関係あるよ!サマンサは俺のサマンサなんだ!なんだよ、サムって。男みたいな名前じゃないか!」
「サムがそう呼んで欲しいって言ったんだよ」
得意気な顔をするクロードに、悔しそうな表情のハリー。
毎度の事ながら、サマンサに店から追い出された。
このやり取りは店の名物になってしまい、常連客は楽しんで見ている。
「相変わらずだねぇ。店長さんはどっちを選ぶの?」
客が笑いながらサマンサに聞くまでがお決まりの流れだった。
(束の間の自由だったわね…)
サマンサは二人の猛突進に疲れていたのだが、それをどこか楽しくも思っている。
そんなある日、クロードが大きな花束を抱えてやってきた。
「今日は結婚記念日だから…」
そう言って差し出したのは、サマンサの好きなチューリップの花束。
契約結婚をしてから2年、サマンサが屋敷を出てから半年以上も経過していた。
「覚えていたんですね…」
二人が夕食を共にするようになった日に、クロードがサマンサに尋ねたことがあった。
その時は「そうか」と言うだけで何もしなかった。
しかし、実はクロードは庭にチューリップの種を埋めていて、自らの手で育てた花を持ってきたのだ。
「サム、もう一度初めからやり直せないか?私は君と過ごしたいんだ」
自分の為に変わっていくクロードを半年見ていたサマンサは、結局絆されてしまったのだろう。
今、屋敷に向かう馬車にいる。
喫茶店はエマに任せることになった。
遊びに行くうちに店の常連客が気になるようになっていたエマには渡りに船だった。
それを機に庭師のフレッドが屋敷を辞め孤児院でサラと一緒に責任者を務めることになる。
ハリーは「結局もとに戻っちゃうのかよ…」と不貞腐れていたが、サマンサが幸せならと言って送り出してくれた。
「そうじゃなかったら俺が連れ出すからね!いつでも頼ってよ!」
クロードにひと睨み聞かせたのは言うまでもない。
サマンサが久しぶりに公爵家の屋敷に足を踏み入れると、使用人の顔ぶれが変わっていた。
クロードが屋敷の使用人を両親の屋敷で働く使用人とで総入れ替えをしたのだ。
拒否しようとした公爵夫妻だったが、ことのあらましを聞いてすぐに変えさせた。
「そんな事があったなんて…。あなたは何をやっていたのよ!」
あまりの出来事に憤るオリビア夫人だったが、息子を思いっきり叩いて溜飲を下げる。
「今度こそ幸せにしてあげなさい。使用人達は私達が躾け直すから任せなさい」
自分勝手に職務を放棄した使用人達には、厳しいイビリが待っていることだろう。
クロードが前もって伝えていたのか、身支度の世話をする侍女達はサマンサが一人になりたい時は側を離れてくれる。
サマンサの家族が訪ねてもクロード自ら追い返し、権力を見せつけて脅した。二度と来ることはない。
夜は一緒に食事を取る約束をし
朝から昼の忙しい時間までは喫茶店で働いて
昼食は週に一度訪れるクロードと食べてから一緒に帰る。
午後からは孤児院に行ったり、オリビアに教わりながら公爵夫人としての仕事も覚えていった。
そして休日の今日、クロードと公園を歩いている。
綺羅びやかドレスではなく、サマンサの好きな緑色の普段着を着て…。
「サムは今の生活を息苦しく感じていないかい?」
「えぇ。こんなに堂々と自由に過ごせるだなんて夢みたいだわ」
二人はゆっくりと歩きながら色んなことを話した。
誰かに見せつける為の笑顔ではなく、心からの笑顔で話す二人の姿は社交界を再び騒がせる。
屋敷に戻ると、エマやハリーに孤児院の子供達
サラやフレッドまで、サマンサの大好きな人達がいた。
「サマンサはこっちよ」
エマは驚いているサマンサを引っ張って部屋まで連れていき
サマンサはあっという間に綺麗な青いドレスに、化粧までされる。
「とても似合っているわ!」
オリビアが入ってきて、サマンサを見て感激したいた。
「さぁ、みんなお待ちかねよ」
階段の下にはタキシードを着たクロードが立っており、エスコートをされて玄関口を出る。
すると、みんなが両脇に並んでいて
「おめでとう!」
花びらを二人にかけた。
これはクロードが企てた二度目の結婚式。
サマンサのために気心の知れた友人達を招待して、祝って貰いたかった。
一度目の時とは違う。
公爵家に代々伝わるドレスを着て、みんなに祝福されて
サマンサはもう職業でもお飾りでもない。
本当の妻としてクロードの横に立ち、みんなに認められた。
もう誰かの顔色を伺う必要もない。
隠れてコソコソする事もない。
嫌な事をする人も、それを忘れて無かった事にする人もいない。
サマンサは本当の意味で、自由に過ごせるようになった。
サマンサの喫茶店『リベルタス』では
エマが意中の常連客と恋仲になったり、ハリーがそこで運命の出会いを果たしたり…
大恋愛の末に再び結ばれたと噂されるサマンサの経営する喫茶店。
令嬢たちの間で『縁結びの喫茶店』と囁かれるようになり、お忍びで訪れる者が後を絶たないという。
化粧もしていない地味な店員がサマンサだとは誰も気付かなかった。
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