職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.

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XVI

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サマンサは疲れていた。

休日にエマ達と過ごしていい気分転換になったのに、夕方にクロードに呼び出された。

孤児院に行きたいと言うクロードをなんとか説得し、夕食も食べずに夜は寝てしまった。


それからというもの
クロードはサマンサの前に現れるようになり、仕事の邪魔をする。

掃除をしていると話しかけ
お茶を持って行くと話しかけ
庭園でフレッドと花の世話をしていると「男と二人でいるな!」と怒鳴る。

ナタリーや女中達はサマンサとクロードを二人きりにしようと模索して、色々とやり過ぎだ。


契約結婚のことは誰にも言えない。
説明しようにも、上手い言い訳は思い付かなった。
違うと言いたくても言える状況じゃなくて…

何でも受け入れていたサマンサだったが、流石に疲れてしまう。

(もっと自由に過ごしたいわ。少し前までが懐かしい…)



クロードに正体が気付かれているとも知らずに、サマンサは今日も執務室までお茶を持って行く。

「そういえば今度夜会があるんだったな」

クロードは誰に向けて言ったのか、いきなり話し始めた。

「夜会のドレスは何色が好ましい?流行りの物が良いか?それとも私の色を使った物が良いだろうか?」

「いつものように商人に任せれば良いのでは?優れた品を持って来るでしょうし…」

セバスチャンが答えると、クロードは首を横に振り、顎でサマンサを指す。
セバスチャンは何事かとクロードを凝視した。

もう一度クロードがサマンサを顎で指した。
お茶を淹れているサマンサは何も見えていない。

「最近の女性は何を好むのだろうか?あぁ、サミー。丁度良いところに居るな。君は何色が好きなんだ?」

突然話を振られたサマンサは手を止め、天井を仰ぎ見る。
そして、ひと呼吸置いた。

「殿方の選んだ物なら何でも喜ぶ物だと、母はよく言っておりました」

淹れたお茶を机に置き、すぐさま退室する。

何を考えているかわからないクロードに無理難題を言われても、応えられる自信がなかった。
それに、なんとなくだが、嫌な予感がした。


(私に選んで欲しいのか。女中達の言う通り、健気な女だな)

クロードの勘違いも止まらない。

商人を呼び寄せ、初めて真剣にドレスを選んだ。
流行りの色も良いが、自分の色の方が喜ぶだろう。

何がなんだかわからないセバスチャンは、張り切るクロードを見て唖然としていた。

(奥様をあれと呼ばなくなったのはいつからだ…?)

急な展開に頭が追いつかない。


そして、ドレスが屋敷に届いた翌日

「サミー、またドレスを奥様に届けてくれるね?」

セバスチャンはいつものようにサマンサに頼んだのだが、そこに待ったがかかった。

「いや、夜に私が届けよう。サミー、サムに部屋で待っているように伝えてくれ」

「かしこまりました…」


何故サムと呼ぶのか。
何故ドレスを自分で持って行くのか。
サマンサはわけがわからない。

(干渉って何処までが干渉なのかしら…。確認しておけばよかったわ)

結局午後の仕事も中途半端に、ナタリー達に頼んで化粧をしてもらい、オリビアの買った服を着て部屋で待機していた。



コンコン

ノックの後すぐに扉が開く。

「やぁ、サム。これを着て夜会に参加するように。私が選んだんだ」

「かしこまりました」

サマンサがドレスを受け取って扉を閉めようとすると、クロードが止める。

「今日はお茶を淹れてくれないのか?」

それは契約違反にあたる。サマンサは了承できなかった。

「お互いに干渉しないお約束ですので…」

「ドレスは気に入ったか?」

「まだ見ていませんが、きっと素敵なドレスでしょうね」

クロードを締め出して、サマンサはベッドに寝転ぶ。


(はしたないって怒られてしまうかしら?今日くらい許してくれるわよね…)

サマンサは心の中で誰かに謝り、そのまま眠りについた。
顔を洗う気力も、着替える体力も、既に尽きていた。


翌日から気を引き締めて女中仕事に取り組むサマンサの目の前に、早速クロードが現れる。

「ドレスは気に入ったか?」

「夜会には公爵家の者として恥じないように参加すると仰っていました…」

「そうか」

クロードは満足したのか、執務室に戻って行った。



そして迎えた夜会当日

「今日のドレスもクロード様のお色だわ!」

ナタリー達が騒いでいるが、サマンサは聞き流して微笑んだ。
手を動かしながら口も動かす女中達の話は加速する。


「クロード様の拗らせ具合は見ていて可笑しいわよね」

「そうよね。用もないのにサミーの前に現れるんですもの」

「知っているのに知らないふりをする姿がいじらしいわ」


聞き流してはいけない言葉が聞こえた。

「何を知っているの…?」

「あ…」

女中達はばつの悪い顔をして謝り倒す。


「ごめんなさい。わざとじゃないのよ?」

「そうなの。偶然聞かれてしまったのよ」

「あの冷たい表情で睨まれたら仕方がないじゃない」


契約違反になりかねない事をしているサマンサにとっては、ごめんじゃ済まされない。

「でも、そのお陰でクロード様との接点も増えたじゃない」

「そうよ。私達は二人を応援しているのよ?」

「感謝しても罰は当たらないわよ」


サマンサはそっと目を閉じた。

「そう…。仕方がないわね」

微笑むサマンサを見た女中達は誇らしげ。

「美しい仕上げるから期待してね。クロード様も惚れ直すわ」

気合を入れて化粧をした。


「頑張ってね」

ナタリー達に見送られ、サマンサは馬車に乗り込む。

(私はお飾りの妻。何かを言われない限り、最後まで立派に務めましょう)

中に入ると、既にクロードが座って待っていた。

「良く似合っているよ」

「ありがとうございます…」

そして馬車は会場に向けて出発する。
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