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Ⅷ
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「つまり、サミーが奥様だったって言うこと?」
大まかに女中の仕事をしている経緯を説明したサマンサは、ナタリーに聞かれて頷いた。
「私達は同僚だけど、友達だとも思っていたわ。どうして何も言っ……」
どうして何も言ってくれなかったのか。
そう言いたかったのに、困った顔のサマンサを見て、ナタリーは最後まで言えなかった。
思い返してみると、サマンサは何も言っていなかった。
「どこに行けばいいのかわからない」と言われて、配属先がわからないと勘違いして
奥様について何も言わないから、酷い事をされていると思い込んで
勝手に決めつけていたのは自分だ。
サミーだってサマンサの愛称で、全くの嘘ではない。
みんなから嫌われている奥様が自分だなんて、誰だって言えない。
ナタリーはおろおろとしているサマンサに尋ねた。
「ごめんね。私達の所為よね…。でも、サミーが噂のような酷い女性だと思えないんだけど、本当に3度も婚約が破談になったの?言いたくなかったら言わなくてもいいわよ」
サマンサは事実だけを伝えた。
「みんなが話している内容とは少し違うのだけど、それは本当よ。もう後がないって言われていたの。でも、クロード様からお話を頂いて、ここに嫁ぐことになったの」
他言無用の契約結婚については、ナタリーには言えない。
「好きに過ごしていいと言われているから、女中の制服を着て屋敷を歩いていたの。勘違いさせてしまった私が悪いのよ。でも、このことはクロード様には言わないでくれるかしら?」
サマンサは食べ物を貰いに行こうと女中の制服を着た事を、恥ずかしくて言えなかったし
契約結婚で給金を貰っているのに、女中としても給金を貰っている事をクロードに知られたくなかった。
お金がたくさん欲しいわけではないが、なんとなく悪い事をしているような気がしていたのだ。
そして、ナタリーはまたもや勘違いをしていた。
クロードはみんなが憧れるほどの美貌の持ち主だけど、女性には冷たい。
会話も接点も無くて、二人が並ぶのは夜会だけなのも知っている。
後がない自分を助けてくれたクロードを慕っているのに、サマンサには話す機会もない。
どうにかしてクロードに近付こうと考えて、女中の仕事をしているに違いない。
「わかったわ。私に任せて!」
ナタリーはサマンサがクロードとの距離を縮められるように協力しようと誓った。
ナタリーの新たな勘違いに気付かないサマンサは、夜会当日の準備をお願いした。
「もちろんよ!クロード様が釘付けになるくらいに着飾りましょう!」
(そこまでしなくてもいいのに…)と思ったサマンサだったが、お飾りの妻として恥ずかしくないように、ナタリーに委ねることにする。
「私一人では出来ないわ。あと二人連れてきてもいいかしら?口が硬い二人を選ぶから大丈夫よ」
こうして無事に夜会当日を迎えることができたのだった。
「まさかサミーが奥様だったなんてね」
「本当よ。ドキドキして損したわ」
部屋に入って来た女中二人は、口を動かしながらテキパキとサマンサの身仕度を手伝う。
「それにしても綺麗なドレスね」
ほぅっとため息を吐いてナタリーが言った。
「ドレスも宝石もクロード様のお色だわ」
「ねぇ、もしかしたらクロード様はサミーのことをお慕いしているんじゃないかしら?」
女中達が勝手に話し始めた。
「きっとそうよ。クロード様は不器用なお方だもの。どう接して良いかわからなくて、サミーに会えないんだわ」
「大切にしたいから寝室も別なのね?拗らせているクロード様も素敵ね」
経緯で二人が結婚した経緯を知らない女中達は妄想を膨らませる。
実際のところは愛のない契約結婚で、商人に言われるがままドレスを購入したクロード。
自分の色だなんて意識はしていない。
公爵家の次期当主の自分が連れて歩くのに相応しいドレスと宝石を選んだだけだった。
クロードの色を纏ったサマンサは夜会で注目を浴び
参加した貴族たちの中では、二人が相思相愛であることは揺るぎない事実になった。
終始笑顔で夜会会場にいた二人だが、往復の馬車での会話は一切無い。
エスコートされるのは会場にいる間だけ。
屋敷に戻ってからは一人で馬車を降り、先を歩くクロードの後ろを歩いて部屋へと戻る。
久しぶりの夜会に疲れてしまったサマンサだった。
翌日、サマンサは女中の服を着て屋敷の掃除をしていた。
(ドレスよりも制服の方が動きやすくて楽だわ)
鼻歌を歌いながら窓を拭いていると、次々に女中が
「頑張ってね。応援してるわ」
「噂って当てにならないのね」と言って話しかけてきた。
不思議に思ったサマンサだったが、昼休憩で事の真相をしる。
女中達はみんなサマンサが奥様だと知っていたのだ。しかも、初恋を拗らせた相思相愛の二人というオマケ付き。
「口が硬いと言っていたじゃない」
サマンサがナタリーに訴えると
「口は硬いわよ。私達しか知らないもの」
「侍女たちや他の使用人達には言っていないわよね」
と、女中達が口々に言う。
「協力者は多い方が良いわ。私達に任せて」
ナタリーが胸を張って言うが、サマンサは不安しかなかった。
「絶対に他の人には知られないようにしてね」
それしか言えなかった。
結果として、みんなの協力の下
サマンサは自分の部屋の出入りがしやすくなり、休日の奥様不在の件もナタリー達が誤魔化してくれるので、気疲れもなくなって楽になった。
みんなは変わらずサミーと呼んでくれるし、態度も変わらない。
だが、問題が一つ出来てしまった。
「サミー、クロード様のお部屋の掃除を頼める?」
「クロード様がご帰宅されたわ。お出迎えに行きましょう」
みんなが揃ってサマンサにクロードの元へ行かせようとするのだ。
(どうか気付かれませんように…)
サマンサは俯いて顔を見られないようにしていたのだが
女中達は照れているのだと勘違いして、どんどん仕事を振っていくのだった。
大まかに女中の仕事をしている経緯を説明したサマンサは、ナタリーに聞かれて頷いた。
「私達は同僚だけど、友達だとも思っていたわ。どうして何も言っ……」
どうして何も言ってくれなかったのか。
そう言いたかったのに、困った顔のサマンサを見て、ナタリーは最後まで言えなかった。
思い返してみると、サマンサは何も言っていなかった。
「どこに行けばいいのかわからない」と言われて、配属先がわからないと勘違いして
奥様について何も言わないから、酷い事をされていると思い込んで
勝手に決めつけていたのは自分だ。
サミーだってサマンサの愛称で、全くの嘘ではない。
みんなから嫌われている奥様が自分だなんて、誰だって言えない。
ナタリーはおろおろとしているサマンサに尋ねた。
「ごめんね。私達の所為よね…。でも、サミーが噂のような酷い女性だと思えないんだけど、本当に3度も婚約が破談になったの?言いたくなかったら言わなくてもいいわよ」
サマンサは事実だけを伝えた。
「みんなが話している内容とは少し違うのだけど、それは本当よ。もう後がないって言われていたの。でも、クロード様からお話を頂いて、ここに嫁ぐことになったの」
他言無用の契約結婚については、ナタリーには言えない。
「好きに過ごしていいと言われているから、女中の制服を着て屋敷を歩いていたの。勘違いさせてしまった私が悪いのよ。でも、このことはクロード様には言わないでくれるかしら?」
サマンサは食べ物を貰いに行こうと女中の制服を着た事を、恥ずかしくて言えなかったし
契約結婚で給金を貰っているのに、女中としても給金を貰っている事をクロードに知られたくなかった。
お金がたくさん欲しいわけではないが、なんとなく悪い事をしているような気がしていたのだ。
そして、ナタリーはまたもや勘違いをしていた。
クロードはみんなが憧れるほどの美貌の持ち主だけど、女性には冷たい。
会話も接点も無くて、二人が並ぶのは夜会だけなのも知っている。
後がない自分を助けてくれたクロードを慕っているのに、サマンサには話す機会もない。
どうにかしてクロードに近付こうと考えて、女中の仕事をしているに違いない。
「わかったわ。私に任せて!」
ナタリーはサマンサがクロードとの距離を縮められるように協力しようと誓った。
ナタリーの新たな勘違いに気付かないサマンサは、夜会当日の準備をお願いした。
「もちろんよ!クロード様が釘付けになるくらいに着飾りましょう!」
(そこまでしなくてもいいのに…)と思ったサマンサだったが、お飾りの妻として恥ずかしくないように、ナタリーに委ねることにする。
「私一人では出来ないわ。あと二人連れてきてもいいかしら?口が硬い二人を選ぶから大丈夫よ」
こうして無事に夜会当日を迎えることができたのだった。
「まさかサミーが奥様だったなんてね」
「本当よ。ドキドキして損したわ」
部屋に入って来た女中二人は、口を動かしながらテキパキとサマンサの身仕度を手伝う。
「それにしても綺麗なドレスね」
ほぅっとため息を吐いてナタリーが言った。
「ドレスも宝石もクロード様のお色だわ」
「ねぇ、もしかしたらクロード様はサミーのことをお慕いしているんじゃないかしら?」
女中達が勝手に話し始めた。
「きっとそうよ。クロード様は不器用なお方だもの。どう接して良いかわからなくて、サミーに会えないんだわ」
「大切にしたいから寝室も別なのね?拗らせているクロード様も素敵ね」
経緯で二人が結婚した経緯を知らない女中達は妄想を膨らませる。
実際のところは愛のない契約結婚で、商人に言われるがままドレスを購入したクロード。
自分の色だなんて意識はしていない。
公爵家の次期当主の自分が連れて歩くのに相応しいドレスと宝石を選んだだけだった。
クロードの色を纏ったサマンサは夜会で注目を浴び
参加した貴族たちの中では、二人が相思相愛であることは揺るぎない事実になった。
終始笑顔で夜会会場にいた二人だが、往復の馬車での会話は一切無い。
エスコートされるのは会場にいる間だけ。
屋敷に戻ってからは一人で馬車を降り、先を歩くクロードの後ろを歩いて部屋へと戻る。
久しぶりの夜会に疲れてしまったサマンサだった。
翌日、サマンサは女中の服を着て屋敷の掃除をしていた。
(ドレスよりも制服の方が動きやすくて楽だわ)
鼻歌を歌いながら窓を拭いていると、次々に女中が
「頑張ってね。応援してるわ」
「噂って当てにならないのね」と言って話しかけてきた。
不思議に思ったサマンサだったが、昼休憩で事の真相をしる。
女中達はみんなサマンサが奥様だと知っていたのだ。しかも、初恋を拗らせた相思相愛の二人というオマケ付き。
「口が硬いと言っていたじゃない」
サマンサがナタリーに訴えると
「口は硬いわよ。私達しか知らないもの」
「侍女たちや他の使用人達には言っていないわよね」
と、女中達が口々に言う。
「協力者は多い方が良いわ。私達に任せて」
ナタリーが胸を張って言うが、サマンサは不安しかなかった。
「絶対に他の人には知られないようにしてね」
それしか言えなかった。
結果として、みんなの協力の下
サマンサは自分の部屋の出入りがしやすくなり、休日の奥様不在の件もナタリー達が誤魔化してくれるので、気疲れもなくなって楽になった。
みんなは変わらずサミーと呼んでくれるし、態度も変わらない。
だが、問題が一つ出来てしまった。
「サミー、クロード様のお部屋の掃除を頼める?」
「クロード様がご帰宅されたわ。お出迎えに行きましょう」
みんなが揃ってサマンサにクロードの元へ行かせようとするのだ。
(どうか気付かれませんように…)
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