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レイモンドの勘違い
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レイモンドの勘違いの発端は婚約が決まった直後までさかのぼる。
ヴィオーラ侯爵家において当主同士で行われた婚約の話し合いは滞りなく終わったその日の夜。
レイモンドの父ヴィオーラ侯爵は自室にて妻と他愛のない会話を楽しんでいた。
「特に問題もなく婚約は成立した。これで肩の荷が一つ降りたよ」
「レイモンドも順調に成長していますし、私たちが隠居するのも意外と早いかもしれませんね」
軽食とワインを軽く飲みながらの穏やかな時間。ヴィオーラ侯爵夫妻はこの時間が好きだった。
「そうだな…特に問題なく進めば半年後には籍を入れても良いかもしれぬな」
「まあ、それは良いですね。ふふふ」
半ば冗談交じりの侯爵の言葉に合わせる侯爵夫人。
これはあくまでうまくいった場合の最速での話。もちろんヴィオーラ侯爵夫妻も可能性の低い話であることは理解している。
そう、これは夫婦の会話のほんの些細な冗談。
だが、その冗談を偶然扉の前を通ったレイモンドが聞いていたのだ。
しかも不幸なことに扉越しで聞いたためにところどころ聞き取りづらくなっており「籍を入れても良いかも」が「籍を入れておく」と彼の耳には届いてしまっていた。
「(半年後には結婚するのか…ま在学中に籍を入れることは珍しくないからな)」
こうしてレイモンドはレンシア・サンフラワー伯爵令嬢と半年後に結婚すると勘違いしたまま過ごすことになる。
そして時は進み、シンシアが来る1日前。
執務室にてサポートを受けながら仕事をしていたレイモンド。
その日は色々と重なり普段よりも書類が多かった。
「…えっとこの書類は…ヴィオーラ公爵の…?」
それはシンシアが滞在することについての書類だ。
内容としてはシンシアがレイモンドのテストと教育のために滞在することについてのことで、すでに侯爵のサインが入っているものである。
そのため内容を確認するだけの書類であったのだが、その日は忙しかったため彼はサインをする必要のない書類を簡単にしか確認しなかった。
「重要な書類ではないし、細かく見なくてもいいか」
忙しかったとはいえ本来どんな些細な書類でもきちんと確認しなければならない。
こうして彼はシンシアが来ることを把握できなかったのだ。
ちなみに彼のそんなうかつな行動を知ったシンシアはお仕置きポイントをさらに50P増やした。
シンシアとレンシアの名前を間違えたことについては元々似ていて紛らわしいので仕方がないと不問にされた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「で、昨日屋敷にやってきたわたくしを輿入れしてきたサンフラワー伯爵令嬢だとおもった…と?」
「は”い”ぞの”どお”り”でず…」
「学生で籍を入れることはあっても一緒に住むのは結婚式を挙げたからよ?知らなかったの?」
「じり”ま”ぜんでじだ…」
四つん這いになったレイモンドに椅子のように腰かけてシンシアが話す。
レイモンドはかなりきつそうだ。
「…あ、あのシンシア様…」
「なあに?クレア」
「これは一体…なぜレイモンド様を椅子のように?」
「教育よ」
キリっとした顔で言い切ったシンシア。
クレアは困惑している。
「一方的に尊厳を否定される気持ちを理解させようと思ってね」
レイモンドがレンシアと思ってシンシアに放った言葉。「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」
これは大変な侮辱である。
貴族は政略結婚が当たり前、恋愛結婚できることなど稀。貴族にとって夫婦の愛とは初めからあるものではなく育むものであるのだ。
「愛するつもりがないって言う言葉はね、いいかえれば愛を育む価値がないと言っていること。要は侯爵夫人としてお前は無価値だって宣言したのと同じになるの」
「ぼぐは”ぞんな”づもり”じゃ…」
「つもりがあろうがなかろうが、世間ではそうなってるのよ。勉強不足ね」
紅茶を一口飲むシンシア。
座っている者にさえ目をつぶればとても美しい姿だった。
ヴィオーラ侯爵家において当主同士で行われた婚約の話し合いは滞りなく終わったその日の夜。
レイモンドの父ヴィオーラ侯爵は自室にて妻と他愛のない会話を楽しんでいた。
「特に問題もなく婚約は成立した。これで肩の荷が一つ降りたよ」
「レイモンドも順調に成長していますし、私たちが隠居するのも意外と早いかもしれませんね」
軽食とワインを軽く飲みながらの穏やかな時間。ヴィオーラ侯爵夫妻はこの時間が好きだった。
「そうだな…特に問題なく進めば半年後には籍を入れても良いかもしれぬな」
「まあ、それは良いですね。ふふふ」
半ば冗談交じりの侯爵の言葉に合わせる侯爵夫人。
これはあくまでうまくいった場合の最速での話。もちろんヴィオーラ侯爵夫妻も可能性の低い話であることは理解している。
そう、これは夫婦の会話のほんの些細な冗談。
だが、その冗談を偶然扉の前を通ったレイモンドが聞いていたのだ。
しかも不幸なことに扉越しで聞いたためにところどころ聞き取りづらくなっており「籍を入れても良いかも」が「籍を入れておく」と彼の耳には届いてしまっていた。
「(半年後には結婚するのか…ま在学中に籍を入れることは珍しくないからな)」
こうしてレイモンドはレンシア・サンフラワー伯爵令嬢と半年後に結婚すると勘違いしたまま過ごすことになる。
そして時は進み、シンシアが来る1日前。
執務室にてサポートを受けながら仕事をしていたレイモンド。
その日は色々と重なり普段よりも書類が多かった。
「…えっとこの書類は…ヴィオーラ公爵の…?」
それはシンシアが滞在することについての書類だ。
内容としてはシンシアがレイモンドのテストと教育のために滞在することについてのことで、すでに侯爵のサインが入っているものである。
そのため内容を確認するだけの書類であったのだが、その日は忙しかったため彼はサインをする必要のない書類を簡単にしか確認しなかった。
「重要な書類ではないし、細かく見なくてもいいか」
忙しかったとはいえ本来どんな些細な書類でもきちんと確認しなければならない。
こうして彼はシンシアが来ることを把握できなかったのだ。
ちなみに彼のそんなうかつな行動を知ったシンシアはお仕置きポイントをさらに50P増やした。
シンシアとレンシアの名前を間違えたことについては元々似ていて紛らわしいので仕方がないと不問にされた。
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「で、昨日屋敷にやってきたわたくしを輿入れしてきたサンフラワー伯爵令嬢だとおもった…と?」
「は”い”ぞの”どお”り”でず…」
「学生で籍を入れることはあっても一緒に住むのは結婚式を挙げたからよ?知らなかったの?」
「じり”ま”ぜんでじだ…」
四つん這いになったレイモンドに椅子のように腰かけてシンシアが話す。
レイモンドはかなりきつそうだ。
「…あ、あのシンシア様…」
「なあに?クレア」
「これは一体…なぜレイモンド様を椅子のように?」
「教育よ」
キリっとした顔で言い切ったシンシア。
クレアは困惑している。
「一方的に尊厳を否定される気持ちを理解させようと思ってね」
レイモンドがレンシアと思ってシンシアに放った言葉。「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」
これは大変な侮辱である。
貴族は政略結婚が当たり前、恋愛結婚できることなど稀。貴族にとって夫婦の愛とは初めからあるものではなく育むものであるのだ。
「愛するつもりがないって言う言葉はね、いいかえれば愛を育む価値がないと言っていること。要は侯爵夫人としてお前は無価値だって宣言したのと同じになるの」
「ぼぐは”ぞんな”づもり”じゃ…」
「つもりがあろうがなかろうが、世間ではそうなってるのよ。勉強不足ね」
紅茶を一口飲むシンシア。
座っている者にさえ目をつぶればとても美しい姿だった。
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