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殿下の外出

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 ナタリアの与えられた部屋に刺客が放たれて以来、特に大きな混乱もなく日々ゼインの看病にせいを出していた。

 ゼインは信じられない速度で回復していく。

「先生が治りの早さにビックリしてたわよ?」

「へっ!早く治さないと脱出できないからね。ここにいたらねぇちゃんが虫にかじられる」

 虫にはかじられてはいないなぁと思いながらナタリアは手に持ったナイフで器用に林檎の皮を剥いていく。

「元気そうだな」

 その日、久し振りにナタリアの部屋を訪れたカイルはナタリアの剥いたばかりの林檎を口に頬張った。

 大きめの林檎を一口で放り込み咀嚼している。

「なっ!それは俺の林檎だぞ!?」

 この城に来てから、と言うよりもカイルと出会って以来、すっかり口が悪くなったゼインはナタリアの剥いた林檎ののった皿を隠すように抱いてしまう。

「ケチ臭い男は嫌われるぞ」

「弱い者虐めはねぇちゃん嫌いだぜ」

 今回はゼインの勝ちのようだ。林檎で噎せたカイルの背中をロデリックが叩いている。

「ところで殿下、なんの御用ですか?」

 いつもの衣装と違うような気がする。

「所用で城を少し離れる。一緒に」

「行きませーん」

「行かせません」

 息がぴったり合うナタリア達にカイルは苦笑いを浮かべる。

「わかった、おとなしくしていてくれよ。お姫様」

 もっと粘ると思っていたのだが、カイルは意外とあっさり引き下がった。

「レオンハルト、二人を頼む」

 すっかりこの部屋の住人とかしたレオンハルトに声を掛けると、レオンハルトはカイルとしばし視線を合わせた後、頷いた。

「なんでレオンハルトだけなんだよ!」

「怪我人はおとなしくしてろ、寝言は寝て言え」

 部屋を出ていくカイルに言い負かされて、ゼインは枕を投げ付けた。

 扉に阻まれた枕はそのまま床に転がっていく。

「ねぇ、ゼイン。あんたそんな性格だっけ?」

 カイルと関わるようになってから、随分と印象が変わってしまった弟に、ナタリアは反抗期かなぁと心配になってくる。

 昔から外面が良すぎるような気がしていたが、カイルに対してだけ真逆を行っている。

「あんなやつ相手に愛想振り撒くなんて無駄なことしたくない、こっちが素だよ」

「なんか僕から俺に変わってない?」

「僕を使ってた方が女性受け良かったから使ってただけ」

「あっ、そう」

 上目使いも、甘えたようなしゃべり方も全部計算づくだったか。うーん我が弟ながら女に産まれていたら大変だったろう。

 いつもと違うカイルのいない食事を取ると、いつも道理の就寝がやってきた。
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