109 / 178
前線まで
しおりを挟む
盆地で多湿な祖国レイナス王国とは違う渇いたレイス王国の大地を月明かりを頼りに私たちを乗せた馬達が砂塵をその強靭な蹄と馬脚で巻き上げながらひた走る。
この世界に転生してから知り得たのだけど、馬の目は夜の暗がりでもピカピカと猫のように光るのだ。
つまり暗闇でも目が見えるため、昼夜にわたって放牧していても危険を察知すれば真っ暗な中を馬は支障なく走り抜ける。
とはいっても私たち人間は馬に比べれば夜目が効かない。
それでも今夜は双太陽の光を反射していると思われる惑星が夜空を照らしているため比較的周りの景色が見えやすい。
惑星は双太陽の位置によってはまるで林檎の芯に近い部分だけを食べ残したような不思議な満ち欠けの仕方をするから面白い。
煌々と松明が焚かれた防衛拠点基地となる関所が何ヵ所か有ったが、その全てを夕闇に紛れて突破した。
この世界にも地球と同じく北極星と同じ役割をしてくれる星が有るため方角はわかるから、大体の方角を示してあとは馬達任せだ。
空に広がっていた闇は薄れ、暖かな太陽が地平線から顔を出す頃、一段高くなった丘の上にたどり着いた。
私たちの眼下に広がっていたのはドラグーン王国の旗を掲げた一軍とレイス王国の国旗が、双方にらみ合うように陣を敷いている。
「これからどうなさいますか? 使者を立てるおつもりならばご用意いたしますが」
後ろから声をかけてきたのはゼスト殿だ。
ほぼ一晩中馬で走り通したと言うのに、ゼスト殿も追従の騎士達も疲れた様子は見られない。
最年長のロンダークは少しだけ疲れが見え隠れしている。
やはり年齢には敵わないのか、昔ほど体力がもたないらしく、今回の旅でロンダークは引退するらしい。
今後はミリアーナ叔母様と共に領地へ行き家族四人で暮らしながら子ども達の教育していくようだ。
私は視線を真っ直ぐに両陣営へと向けた。
「使者は出さないよ、自分で行く。 レイナス王国の国旗出して」
そう告げれば、丁寧に折り畳まれていたレイナス王国の国旗を差し出される。
馬具に固定していた荷物から短い筒四本が纏められている袋を取り出し次々と筒と筒を繋げるようにして連結していく。
本皮に細工を施した刃物入れから笹の葉に形がにている穂と呼ばれる刀身を取り出して筒に嵌め込み、外れないように細工を施す。
臨時の武器としても使用できる短槍が出来上がった。
基本的には有事の際には愛剣であるシルバを使用するけれど、もし剣が使用できなくなったりした時のためにレイナス王国の騎士達は剣と組立式の短槍を携帯し、どちらも使用できるように訓練を受けている。
先程受け取った国旗を短槍の太刀打ちと呼ばれる部分にある銅金と言う複数嵌められた輪状の金具に国旗をくくりつけた。
石突(いしつき)と呼ばれる柄の底につける金具を帯剣に使用する本皮のベルト付けられた細長い筒に差し込み、ぐらつかないようにしっかりと固定する。
準備を終える頃、他の騎士たちも数名が私と同じように旗を掲げて騎乗している。
私がレイナス王国の国旗を掲げてアルフォンスを走らせ始めれば、それに続く形でゼスト殿とロンダーク、追従の騎士達が馬を駆け始めた。
一直線に向かうのはレイス王国軍の陣営。
「絶対にアールベルトに会ってやる!」
この世界に転生してから知り得たのだけど、馬の目は夜の暗がりでもピカピカと猫のように光るのだ。
つまり暗闇でも目が見えるため、昼夜にわたって放牧していても危険を察知すれば真っ暗な中を馬は支障なく走り抜ける。
とはいっても私たち人間は馬に比べれば夜目が効かない。
それでも今夜は双太陽の光を反射していると思われる惑星が夜空を照らしているため比較的周りの景色が見えやすい。
惑星は双太陽の位置によってはまるで林檎の芯に近い部分だけを食べ残したような不思議な満ち欠けの仕方をするから面白い。
煌々と松明が焚かれた防衛拠点基地となる関所が何ヵ所か有ったが、その全てを夕闇に紛れて突破した。
この世界にも地球と同じく北極星と同じ役割をしてくれる星が有るため方角はわかるから、大体の方角を示してあとは馬達任せだ。
空に広がっていた闇は薄れ、暖かな太陽が地平線から顔を出す頃、一段高くなった丘の上にたどり着いた。
私たちの眼下に広がっていたのはドラグーン王国の旗を掲げた一軍とレイス王国の国旗が、双方にらみ合うように陣を敷いている。
「これからどうなさいますか? 使者を立てるおつもりならばご用意いたしますが」
後ろから声をかけてきたのはゼスト殿だ。
ほぼ一晩中馬で走り通したと言うのに、ゼスト殿も追従の騎士達も疲れた様子は見られない。
最年長のロンダークは少しだけ疲れが見え隠れしている。
やはり年齢には敵わないのか、昔ほど体力がもたないらしく、今回の旅でロンダークは引退するらしい。
今後はミリアーナ叔母様と共に領地へ行き家族四人で暮らしながら子ども達の教育していくようだ。
私は視線を真っ直ぐに両陣営へと向けた。
「使者は出さないよ、自分で行く。 レイナス王国の国旗出して」
そう告げれば、丁寧に折り畳まれていたレイナス王国の国旗を差し出される。
馬具に固定していた荷物から短い筒四本が纏められている袋を取り出し次々と筒と筒を繋げるようにして連結していく。
本皮に細工を施した刃物入れから笹の葉に形がにている穂と呼ばれる刀身を取り出して筒に嵌め込み、外れないように細工を施す。
臨時の武器としても使用できる短槍が出来上がった。
基本的には有事の際には愛剣であるシルバを使用するけれど、もし剣が使用できなくなったりした時のためにレイナス王国の騎士達は剣と組立式の短槍を携帯し、どちらも使用できるように訓練を受けている。
先程受け取った国旗を短槍の太刀打ちと呼ばれる部分にある銅金と言う複数嵌められた輪状の金具に国旗をくくりつけた。
石突(いしつき)と呼ばれる柄の底につける金具を帯剣に使用する本皮のベルト付けられた細長い筒に差し込み、ぐらつかないようにしっかりと固定する。
準備を終える頃、他の騎士たちも数名が私と同じように旗を掲げて騎乗している。
私がレイナス王国の国旗を掲げてアルフォンスを走らせ始めれば、それに続く形でゼスト殿とロンダーク、追従の騎士達が馬を駆け始めた。
一直線に向かうのはレイス王国軍の陣営。
「絶対にアールベルトに会ってやる!」
0
お気に入りに追加
897
あなたにおすすめの小説
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?
田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。
受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。
妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。
今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。
…そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。
だから私は婚約破棄を受け入れた。
それなのに必死になる王太子殿下。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる