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キャロライン覚醒!

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 スノヒス国の聖都プリャに入都してからレイナス王国まで立て続けに問題が起きすぎて、ろくに休息も取れずに動き続けた事もあり、私も含めて同行者達は皆心身ともに疲れてしまっていた。

 一晩宿屋の一室で休んだが、特に老体のロブルバーグ様と箱入り神子のセイン様は疲労の色が濃い。

 ずっと何者かに命を狙われ続け、今回の亡命劇と負担が大きかった事もあるのだろう。

 レイナス王国の国境を越えた事で安堵したのか高熱を出してセイン様が寝込んでしまった。

「ロブルバーグ様! セイン様の容態は!?」

 連絡を受けて急ぎセイン様の借り受けている部屋へ踏み込めば、荒い息遣いと上気した赤い頬、額に濡れた手布をのせて力なく寝台に横たわるセイン様の白い手をロブルバーグ様が握りしめている。

「あんまりよろしくはないのぅ、もともと神子は身体から弱いものが多い、すまんが出来るだけ早く、宮廷医師に見せ療養させてられんかの」

「最短でと言うならサクラで数時間あれば城まで飛べますが、衰弱が激しければ病状が悪化しかねません」

「この状態で辺境から数日掛けて馬車で移動するよりはマシだろう、ましてや医者や薬、医療器具をこちらに運ぶよりセイン様を運んだほうが早いからの」

 ロブルバーグ様の依頼を受けて先にロブルバーグ様と護衛としてカークを乗せてサクラに城まで飛んでもらい、次にセイン様を身体に括り付けたフライサルを連れて空を飛んだ。

 国境からレイナス王国へ越してきた者達は、突然現れたら大きく変化したサクラの姿に恐慌状態に陥りかけている。

「わぁ、殿下の飛竜様だ!」

「綺麗ねぇ」

 しかしサクラの姿を見慣れている自国民は、私と一緒に空を飛ぶサクラの姿を見知っているものも多く、側に私がいる事もあり不用意には近づくことは無いものの大きく混乱する様子はない。

 そんな国民達になだめられ一応はサクラが危害さえ加えなければ安全だと判断したようだ。

 今回は短時間飛行ではなく数時間飛ばなくてはならないので、落下の恐れもありうるため今回は皆命綱を着けてもらう。

 街で市場が開かれるほどの敷地面積ががある広場から飛び立ち、意識が朦朧としているセイン様を城へ運び込めば、既に到着を待ち構えていた宮廷医師達の手によって素早く治療が開始される。

 到着の知らせを受けたのだろう、政務を抜け出してやってきたのかアルトバール陛下とシリウス宰相が私に駆け寄ってきた。

「シオル良く無事で戻った、ロブルバーグ聖下もお久しゅうございます。かのお方が神子様でございますか?」

「おう、アルトバール陛下またお会いできて光栄じゃ。 この方はセイン様と申される」

 簡素に帰還の挨拶を告げればロブルバーグ様と陛下が挨拶を始めた。 

 今回レイナス王国は双太陽神教会の内部抗争に巻き込まれた形になったため、今後お二人を保護するにしても、考えたくはないが引渡すにしても、国主としてロブルバーグ様にと相談しなければ多々あるはず。

 話し合いの邪魔にならないようそばから離れると、医師たちが治療のため出入りしやすいように開け放っていた扉をくぐり抜け、勢い良く飛びかかってきた妹のキャロラインを抱きとめる。

「お兄様~! で、伝説の神子様が我が国にいらっしゃったとは真実ですの!?」
 
 興奮冷めやらぬ様子で聞いてきたキャロラインの口を手で慌てて塞ぐ。

「キャロ静かに! いまセイン様は慣れぬ長旅の影響でお加減が思わしく無い、回復したら必ず紹介してあげるから今日は諦めなさい」
 
「もっ、申し訳ありません」

 私の叱責にショボンと項垂れてしまったキャロラインの髪を優しく撫でる。

「キャロの気持ちもわからないではないんだ、私もまさか双太陽神の末裔である神子様に会えるとは思ってなかったからね」 

 まぁ遠くから様子を伺うくらいなら良いだろうと判断した私が間違っていたのだろうか。

 キャロラインからセイン様の姿が見えるように少しだけ身体を横にずらす。

 私の意図に気が付いたのか嬉しそうにセイン様が横たわる寝台に顔を向けたキャロラインが両眼を見開き見る見る青褪めていく。

「そんな、嘘……嘘よ」

 唇を戦慄かせ一歩、また一歩後ずさる。

 様子がおかしい。

「キャロライン?」

「嘘よ、嘘、嘘だと言って!」

 悲鳴に近い声を聞いて、父上とシリウス伯父様が話を切り上げ慌てたようにこちらへと走り寄る。

「キャロ! どうしたしっかりしろ!」

 何かに怯えるように暴れだしたキャロラインを無理やり抱き上げ部屋から出た。

「イヤっ、離して怖い!」

 ジタバタと暴れるキャロラインの頭を自分の肩に押し付けるようにして身動きを封じる。

「キャロライン、キャロライン、キャロ? 私は誰?」

 ゆっくりと落ち着かせるように後頭部を撫で、背中をやさしくあやすように叩きながらなるべく優しく声を出しキャロラインに届くまで名前を呼び続ける。

「キャロ? 私は誰?」

「……シオル・レイナス」

 私の名前を呼ぶ声が硬い。

「そう、キャロライン・レイナスのお兄ちゃんのシオル・レイナスだよ。 大丈夫怖いものが来たら私が助けてあげる。 だから落ち着いて?」

「私はキャロライン……」

「そうだよ」

「レイナス王国の第一王女キャロライン・レイナス?」

「そうだよ。 落ち着いたかな?」

「うん……」

 良い子だねと言いながら顔を上げたキャロラインを見ながら微笑む。

 良く私がキャロラインに向ける笑顔を見て、亡きロンダークがデレデレしていると言っていたけれど、可愛い妹に砂糖多めの笑顔を向けて何が悪い?

 私の腕の中でピキッとフリーズしたキャロラインの顔がみるみる赤く染まっていく。

 それはどこか水銀計を見ているよう面白い。

 そうこうしているうちにどうやら何かの限界を超えたらしい。

「ぶはっ!」

 突然両手で鼻から口に掛けて覆い隠した事で、キャロラインの姿勢が背面に崩れる。

「イケメンやばい萌死ぬ……」

 そう言いながらキャロラインは意識を飛ばしてしまったため、慌ててなんとか抱きとめる。

「キャロ、いきなり離したら危な……血!?」

 キャロラインに注意しようと顔を見ば顔の中央付近がべったりと血で汚れてしまっている。

「キャロ!?」

 懐から自分でリスの刺繍を施したハンカチを取り出して顔を拭えば、どうやら出血元はキャロラインの鼻のようで吹いた先からタラリのと垂れてきた。

「シオル、キャロラインはいったいどうしたんだ?」

 追い掛けてきた陛下がキャロラインの顔を覗き込み額に触って熱を診たり首筋に指を当てて、どうやら脈を図っているようだった。

「わかりません、この汚れたまま人目に晒しておくわけにも行きませんから、キャロラインの部屋に運びます。 セイン様の診察が終わり次第医師を派遣していただければと思います」

「分かった、私達もすぐに行く。 長旅で疲れているところ悪いがキャロラインを宜しく頼む、すぐにリステリアに連絡を入れるから、キャロラインの着替えは侍女に任せなさい」

 陛下の指示に返事を返し、私はキャロラインを抱いたまま城内をひた走ったのだった。 
 
 

 
 
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