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第一〇章 結び集まるイシ

結び集まるイシ(03)

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『ぶ、ぶぶっ――』

 一斉に襲いかかる数本の触手――
 真由乃たちが躱した床に強く叩きつけられ、その跡から粉塵が舞う。触手は柔軟な動きでいながら、コンクリートを打ち砕くほどの堅さも兼ね備えていた。それが10本も怪物から生えている。

「近づけないっ……」

 数体の種人と同時に戦っている感覚で、知性は無いはずなのに隙も見当たらない。
 距離を取って攻撃を避けることしかできず、お互い近距離武器しか持ち合わせていない真由乃たちにとっては不利な状況が続く。

「マユノ、斬れないノ?」

「構えさえできればっ、でもっ――」

 怪物は、その一瞬でさえ余裕を与えない。
 やがて真由乃たちは、1階の壁にまで追い詰められていく。

「ワタシと同じね」

 らちが明かないメアリは勝負に出る。
 真由乃よりも前、廊下の真ん中に堂々と立ちはだかる。

「来なさい、まとめて相手してアゲる」

 触手はすぐにメアリに迫る。一斉に襲い掛かる4、5本の触手に対し、メアリは腕を引き千切る勢いで横一直線に斧を振るう。

『ぶぶっ!』

 斧は伸びてきた触手の1本を斬りつぶすだけでなく、風圧で残りの触手の動きを止める。怪物は思わぬ反撃に呻き声をあげる。
 だが、派手な動きをしたメアリにも当然大きな隙が生まれる。

 怪物はその隙を狙い、手元に控えていた同数の触手をメアリに向かって振り回す。

「頼んだワ」

 メアリは、すぐに体勢を低くした。すぐ後ろで炎環かたなを構えていた真由乃が目を見開く。

「――やぁあっ!」

 メアリの頭越しに炎環を流す。
 メアリに襲い掛かる触手、そのすべてを斬り落とす。

『ぶぶーっ!』

「今よ、突き進むワ!」

「うん――」

 先端を失った触手が暴れ回り、そこをい潜って根元へと向かう。ただ振り回されるだけの触手は、躱すのも簡単だった。
 あとは、本体を斬るだけ――
 あと1歩のところで、怪物は10本の触手を引っ込める。10本をギチギチに絡ませ、1本の触手に「纏めて」本体から飛び出してくる。

「マユノ、飛びナサい!」

「メアリちゃん、ありがとう!」

 メアリは冷静に斧を振るう。
 10本分の衝撃がメアリの腕にも掛かり、斧は後ろに吹き飛ばされてしまう。しかし、触手の動きを止めることには成功する。

 その間に真由乃は宙を舞う。
 図太くなった触手を足場にして、一気に根元へと駆け上がる。

「えいっ!」

 まずは触手の根っ子に炎環を振るう。全部までは行かなかったが、およそ半数の触手を切り裂く。

『ぶぐぁっ!』

 怪物は、大きな呻き声とともに残った触手を大きく広げる。お陰で怪物の懐はガラ空きになる。

「――ごめんね」

 空いた懐の前に降り立ち、怪物の胴体目掛けて炎環を振る。
 怪物の胴体は切り裂かれ、中にあったタネまで真っ二つに分かれる。

「マユノ、逃ゲナさい!」

 怪物のイノチは1つじゃない――
 1つのタネを斬ったところで、怪物の動きは止まらなかった。

「――うくっ……!」

 残っていた触手を再び1本に纏め、真由乃の体目掛けて突き出してくる。咄嗟に炎環をかざして直撃は防ぐが、メアリとは反対側の遠くまで飛ばされてしまう。

「マユノっ!」

 メアリの声を聞いてすぐに起き上がる。
 しかし、真由乃が体勢を整えるよりも早く、怪物の図太い触手が迫る――




 ***




「町角ゆあんっ、どうして……っ」

「あーっ、この前スタジオまで押しかけてきた人たちだよね?!」

 ゆあんから伸びた触手に吊り上げられる明里――
 自力では抜け出すこともできず、明人も突如現れた宿敵を前に、おいそれとは動けない。

「もーっ、急だからびっくりしちゃったよ~ 言ってくれてたら、たくさんサービスしたんだよ?」

「町角ゆあん、お前もこいつと同類か?」

 明人は廊下で野垂れ苦しむ怜央琉を指差し、ゆあんをまっすぐに睨む。

「キンニクと一緒にしないで欲しいよ~ そんなに体付きいいかなあ?」

 自身の二の腕をつまみ、わざとらしく困った顔をする。隣で吊るされる明里も徐々に感情を剥きだしていく。

「あなたがやったのよね?」

「え? なにを~?」

「全部よ! 都合の悪い人間を何人も殺したんでしょ!」

「あー、昔はお金が必要だったんだよ~」

「お金?」

「身を隠して動くにはお金が必要なの。そこのキンニクは全然稼いでこないしねー」

「うる、せぇ……」

「どうやって殺した? お前らはどこでタネを――」

「あのさあ、いいのお?」

 怜央琉は明人の『毒』に苦しめられる。
 だが、苦しそうなのは明里もだった。顔が赤いのは感情のせいだけではなく、頭を下にしてどんどん血が偏っていく。

 ゆあんは、挑発するように明里の前に立つ。
 吊るされた明里を見下し、口元を歪ませる。

「この子、もう限界だよ?」

「くっ……宗太のことも、あなたが?」

「そうた? 誰そいつ?」

「うくっ――」

 明里は、今まで以上の怒りを顔に滲ませ、涙を流しながらゆあんを睨む。

「もしかして恋人、とか? わたしのせいで別れちゃった?」

 ゆあんは全て気付いている。
 明里には、それが悔しくて憎らしい。

「よくも、そうた、を……」

「ごめんね? わたしのせいだよね?」

「うっ……あなただけはっ、ゆるさ、ないっ……!」

「……あ、っそ」

 ゆあんは触手をさらに伸ばしていき、明里の足元から首にかけて巻き付けていく。
 怜央琉に絞められた痕に、覆いかぶさるように触手が巻き付いていく。

「う、ぐっ……!」

「明里っ!」

 明人は我慢ならず、ゆあんに向かって飛び出していった。
 だが、すぐに足を止める。

 背後に怜央琉とは違う気配を感じたからだ。

「――久しぶりね、アキ・・ちゃん?」

 怜央琉の後ろ、廊下の曲がり角から紫色の髪を下げた女が現れる。女は、植器を持たないあおいを捕らえていた。

「アキったら、相変わらず女の子にモテモテなんだから」

「依子、ねえさんっ……!」

 依子は、捕らえていた葵の体を廊下に投げ捨てる。葵は意識を失っているようで、廊下の真ん中で無防備に倒れてしまう。

「葵っ!」

「明人っ、ごめ……」

「……でも、浮気はダメよ。アキは私だけを見ていれば良かったのに」

「姉さん、何をっ……」

 葵の手足は、凍ったように地面とくっついて逃げられそうにない。依子が右手を上げると、その手先からパキパキ音を鳴らして『氷』が出現する。
 氷は氷柱つららの形を成し、先を尖らせて依子の武器になる。

「明人っ――」
「あき……と――」

「アキ、どっちを助けたいの?」

 目線の先には、依子の氷柱で今にも突き刺されそうな葵――
 背後には、ゆあんの触手で首を絞められる明里――

 明人は、すぐに動き出せない。

「迷うなら、どっちも救えない――」

「やめろっ!」

 依子は、葵に向かって氷柱を振り被った。ゆあんも触手の絞める力を強める。
 依子もゆあんも、口元に笑みを浮かべる。

 怜央琉との戦闘で体力を消費した明人には、成す術がない。

「やめてくれ、姉さんっ!」

 明人は声高く叫び、実姉の依子に向かって必死に手を伸ばす――
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