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CHAPTER_03 心の乱れは災いのもと ~whoever lives hold wave of heart~

(07)取締4日目 ~protect~

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「もーいいーですわよー!」

 シャエラは妹のシャエルが大好きだ。

「おねえちゃーん! どこー?」

 シャエルも姉のシャエラが大好きだ。

 2人はいつも一緒だった。
 2人は広い廊下をはしゃいで回る。

「――あぅ゛」

 シャエルは、しつけ役の執事にぶつかってしまう。
 赤っ鼻を押さえながら見上げると、鬼の形相の執事が立ち構えていた。

「無用に走らないと、前にもお話しましたね」

「あぅっ……ご、ごめんなさい――」

「エル! こちらですわー!」

 シャエラは、その横を全速力で走って通り過ぎる。

「シャエラさんっ!」

 執事の怒号が鳴り響いた。


 食事中、シャエルが音を立てて怒られたときは、シャエラはもっと大きな音を立てる。
 シャエルが勉強中には、励ましてやろうと窓の外からシャボン玉を吹く。

 シャエラは、いつだってシャエルのことを守ってくれた。


 ある日、シャエルは冷たいおりに閉じ込められていた。
 寒さと空腹、寂しさに耐えていた。

 目を閉じて、必死に耐えていた。

「……エル?」

 静かに名前を呼ぶ姉の声――
 シャエルはゆっくりと顔を上げる。

「……おねえちゃん?」

「またお婆様に怒られたのね」

「うん……」


 エイブリン家は由緒正しき魔法家系――

 シャエルには魔法の才能が皆無だった。
 どれだけ勉強を頑張っても、どれだけ稽古を頑張っても、どうしても魔法が使えなかった。
 そのせいで祖母に怒られることが多かった。

「エル、これ……」

 シャエラは檻の外から手を伸ばし、シャエルに銀のネックレスを手渡す。

「おねえちゃん、これは……?」


 ――シャラララ……


 優しい鐘の音が鳴る。

「それはわたくしの宝物ですの。シャエルがまだ産まれる前、お母様に駄々をこねて買っていただきましたの」

「きれー」

 光り輝くハート形のネックレス――
 揺らすだけで、ネックレスからは優しい鐘の音が鳴った。

「辛いことがあったら、苦しいことがあったら、これを鳴らしますの……そしたら、わたくしがいつでも助けに参りますわ」

「おねえちゃん……」

 笑い合う2人――
 いつだって2人は仲のいい姉妹だった。


 しかし、エイブリン家は由緒正しき魔法家系――
 やがて2人は離れ離れになる。

 姉のシャエラに教育を集中するため、シャエルは家から追い出されてしまった。

「おねえちゃん……」

 別れを惜しむ間もなく2人の距離は遠ざかる。
 別れの言葉だって言えてない――

 シャエルは移動の車内で、大事なネックレスをギュッと握りしめた。




 ○○○○○○




 シャエラは登校して最初、生徒会室へと向かう。生徒会室では大勢の生徒会役員が出迎えた。

「シャエラちゃん! 平気だったの?!」

 いち早く存在に気づいたのは、書記のアドリーだった。
 周りにいつも気を配り、生徒会でもお姉さん的ポジションだ。

「会長っ! ご無事で何よりです」

 副会長のマイカも駆け寄ってくる。
 シャエラのことを尊重し、いつも助けてくれて頼りがいがある。

「平気ですわ、それより……」

 シャエラは生徒会役員の1人に目が行く。
 手首を包帯で巻いて痛々しい――怪我をしているように見えた。

「どうされたのですか?」

「いえ、これは……」

 怪我をした女の子は、どうにも歯切れが悪い。
 シャエラは無言で問いただす。

「……それが、取締で揉めてしまいまして」

「そうですか……」

 急がなくてはならない。
 覚悟は決まっていた。

 シャエラは自席に移動し、机の上に積まれている大量の誓約書を見つめる。

「本日、緊急で生徒総会をり行います。先生方には話を通しておきました。放課後、みんな集まるようご協力をお願いしますわ」

 ざわめく生徒会――
 不安なのは生徒会の面々だけではなかった。


 放課後になるまで、シャエラが教室に姿を現すことは無かった。
 今から始まろうとしている生徒総会の準備に付きっ切りだったらしい。シュウたちは、仮面の人物について話すこともできなかった。

「シャエラの奴め、逃げやがって」

 学園セントラルが有する大きなホールにはビッシリ椅子が敷き詰められていた。シュウとリン、リオラの3人が並んで座る。

 いったい何の話をするのだろうか――
 リオラはイラついている様子だが、きっと心配に違いない。
 他の生徒も怪訝けげんな顔で席につく。

 そして、ホール中の席が埋まったところで、シャエラはゆっくりと舞台上に姿を現した。
 緊急生徒総会が粛々と始まる――




 ○○○○○○




 マリー校長は重厚な自動車に乗り、厳重な門を潜り抜ける。
 門には「魔法軍中央基地まほうぐんちゅうおうきち」と掲げてある。

 マリー校長が乗った自動車は、厳重な警備に一度も引き留められることなく最短で奥の建物へと進んでいった。
 基地の中央に位置する大きなドーム型の建物――
 その入口付近で自動車は停まり、マリー校長は足早に中へと入る。校長とすれ違う軍人はみな立ち止まり、深々と頭を下げる。
 マリー校長は、周りを気に留めることなく歩き進む。

 そして『指令室』と書かれた扉の前に立つ。扉の前にいた見張りは、マリー校長に気づくとすぐに受話器を手に取った。

「指令、マリー殿がお見えです」

『通してちょうだいな』

 見張りがカードをかざすと扉が勢いよく開く。
 マリー校長は、臆することなく部屋の中へと進んだ。

「マリーちゃん、ご無沙汰ね。調子はどうかしら?」

 部屋の奥には、男性とも女性とも判別つかない人物が立っていた。
 派手な色の軍服には数多くの勲章くんしょうバッヂが取り付けてある。

「そちらこそ、最近事件が絶えないようですが……メンディス局長?」

 2人は会って早々にけん制し合う。見張りは気まずくなってすぐに出ていった。
 魔法学園の校長と魔法軍の基地局長――
 昔から付き合いのある既知の間柄だった。

「街の様子が怪しいようね……ブラッディ・ダイヤの件、ちゃんと進んでいるの?」

「あらっ、心配しないでちょうだい? どうせどっかのカルト集団がバラまいているんでしょ、すぐにツブしてみるわ。それよりも――」

 互いの睨み合いが続く。
 お互いがお互いの腹を探り合う。

「それよりも、学園で妙な「狂犬」を飼っているともっぱらのウワサよ。魔法省幹部に知れ渡るのも時間の問題だわ」

「事実を知っておいて言いふらさないなんて、ずいぶんとお優しいのね」

「国王陛下へいかも気にされているわ、本気でマリーちゃんのこと心配してるのよぉ?」

「ご心配ありがとう……それで、国王様と会うのはいつになりそうかしら?」

 立て続けに起きたブラッディ・ダイヤ絡みの事件――
 魔法軍のみならず、国王も気にし始めている。
 面倒なことに、第一の事件現場である学園のおさとして国王と面会し、事情を話す必要があった。

 局長との打合せは夕方まで続く。それだけコトは重大だった。


 マリー校長が建物を後にすると、アンナが自動車の前で待ち構えていた。

「お疲れ様です」

「アンナ、学園はいいの?」

「他の者に任せました。気になることでも?」

「……いえ、エリスがいれば平気でしょう」

 アンナは、マリー校長の肩にブランケットを掛ける。

「局長はなんと?」

「そうね、気づかれていたみたい。彼も勝手にさせたとは言え、派手に動いていたから」

「やはり、彼を学園に置いておくのは危険では?」

「何を言うの――」

 アンナは自動車のドアを開け、マリー校長を先に乗せる。その後、急いで反対側に回って自身も自動車に乗り込む。

「私は、このために校長になったのよ……」

 もう一度彼女サラに会うため――
 マリー校長は、ゆっくりと動き出す自動車の中で前だけを見つめていた。




 ○○○○○○




「――学園セントラルに通われる生徒の皆さま方、まずは勉学に励むところお集まりいただき、まことに感謝します」

 シャエラは大きなホールのまん前で深々と頭を下げ、そして神妙な面持ちで顔を上げた。

「そして、生徒会の取締に日々ご協力いただいていること――感謝申し上げますわ。
 しかし先日、不本意な映像が学園内に出回りました。監視カメラの映像を管理人に許可もなく持ち出し、不特定多数の人物に送り付ける行為は、到底許される行為ではありません。誠に遺憾いかんでございますわ」

 生徒たちは、ホールの中ですっかり静まり返る。
 シャエラは粛々と話を続けた。

「あの映像を見て不安な方も多いと思いますわ。なので、この場でわたくしから真実・・をお話しします」

 生徒たちが生唾なまつばを飲み込む音が響く。
 その場の全員がシャエラの声に耳を傾ける。

「彼女を――風紀を乱した女子生徒をはりつけに処したのは……わたくしでございます」

 そして、その場の全員が言葉を失った。驚きの発言にシュウとリンは顔を見合わせる。

「風紀は絶対、例外は許されません……風紀を乱すものにはバツを――」

 シャエラは覚悟を決めていた。
 すべてはみんなを、あの子シャエルを守るために――
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