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弥生 四年に一度の入れ替わり
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此処、篠辺と東雲の両神社も同様に、別れの時が迫ってきたようじゃ。
以前にも何度か話した事があるが、両神社は四年に一度、神主と巫女が入れ替わる。
双方の神社を行き来する事で、精神的にも肉体的にも負担を軽減させる。
東雲が充電〝蓄える〟期間なら、篠辺は消耗〝擦り減らす〟期間という事じゃ。
齢15だった双子の兄弟と姉妹が、両神社へ来たのは、つい最近と思うておったが、
もうじき4年になるという事か、時の流れは残酷なほどに早いものじゃのぉ…。
取り分け真淵左京、真瀬夕霧は、篠辺にて慣れない仕事を常に精一杯熟し、完璧に近づけるように努力をし続けて来おった。
これは資質を持った者だからとか、老若に関わらず、あやつらの質であろう。
真似ようとて、そう容易に出来るものではない。それ故、思い起こせば冷や冷やさせられた事も、一度や二度ではなかったのぉ。
そのうち、あやつらが家族と呼ぶ式神達が増えて行き、そやつらも手堅い仕事をし
主達を常に支えて来た。
二人の式神共は見た目だけで言えば、交わる事が無さそうに見えるが、互いを尊重し合う家族というか、有りのままを受け入れてきた幼馴染のような、そんな関係が築けておる。
最近の篠辺では、何かしら起こっておって、騒々しくも賑やかな日常がある。
以前なら煩わしく思えていたじゃろうが、今は狐を退屈させぬし、見ていて飽きぬ。
この篠辺で多くの神職者と関わってきたが、左京や夕霧のような者はおらん。
若過ぎた故、人恋しさから式神達と、家族ごっこような接し方をしておるのかと、
最初は思うておった。
これまでの者共は、式神を使う時だけ呼び出し、終われば仕舞うのが当たり前で、
式神とずっと一緒に過ごそうとする者など居らんかった。
それ故、この狐でさえ、式神が自ら学び、様々な事を習得出来るなどとは、考えも
しなかった。悠久の時を生きた狐に、未だ知らぬ事があろうとは驚きじゃった。
とはいえ此度の別れは、四年に一度必ず訪れるのじゃ。
別れなどというと左京と夕霧に、二度と会えぬようにも聞こえるが、単に両神社内で
交代するだけじゃ。
もっと言えば、性格こそ違えど同じ顔の兄と姉との入れ替えで、大きく変わるとは
思えぬ。
右京と朝霧は、四年分の充電期間があるんじゃ、この篠辺の狐がきっちり仕込んで
やろう。
以前、弟や妹より自分たちは劣っておると、この狐に話した事があった。
この入れ替えの時にも
「弟のようには上手く出来ない事も多いので、お狐様の目には〝月と鼈程の違いがある〟と映るでしょうが、精一杯務めさせて頂きます。」
そんな事を言って、深々と頭を下げおった故、
【右京、最後の意気込みが持続すれば十分じゃ。跛鼈千里の言葉があるように、努力を続けておれば、少々能力が劣っておっても、追いつく事も出来るじゃろう。さらに続ける事が出来れば、一歩先を歩む事も出来よう。右京も朝霧も失敗を恐れ構えて、出遅れてしまう事が多いが…決して能力の差ではない。正直、狐には〝亀と鼈〟程度の違いじゃ。大きく違うようで違いが分からずとも支障はない。篠辺に来てから狐がみっちり仕込んでやるから任せておけ。】
そういって狐は九尾で、右京の背中を押した。
以前にも何度か話した事があるが、両神社は四年に一度、神主と巫女が入れ替わる。
双方の神社を行き来する事で、精神的にも肉体的にも負担を軽減させる。
東雲が充電〝蓄える〟期間なら、篠辺は消耗〝擦り減らす〟期間という事じゃ。
齢15だった双子の兄弟と姉妹が、両神社へ来たのは、つい最近と思うておったが、
もうじき4年になるという事か、時の流れは残酷なほどに早いものじゃのぉ…。
取り分け真淵左京、真瀬夕霧は、篠辺にて慣れない仕事を常に精一杯熟し、完璧に近づけるように努力をし続けて来おった。
これは資質を持った者だからとか、老若に関わらず、あやつらの質であろう。
真似ようとて、そう容易に出来るものではない。それ故、思い起こせば冷や冷やさせられた事も、一度や二度ではなかったのぉ。
そのうち、あやつらが家族と呼ぶ式神達が増えて行き、そやつらも手堅い仕事をし
主達を常に支えて来た。
二人の式神共は見た目だけで言えば、交わる事が無さそうに見えるが、互いを尊重し合う家族というか、有りのままを受け入れてきた幼馴染のような、そんな関係が築けておる。
最近の篠辺では、何かしら起こっておって、騒々しくも賑やかな日常がある。
以前なら煩わしく思えていたじゃろうが、今は狐を退屈させぬし、見ていて飽きぬ。
この篠辺で多くの神職者と関わってきたが、左京や夕霧のような者はおらん。
若過ぎた故、人恋しさから式神達と、家族ごっこような接し方をしておるのかと、
最初は思うておった。
これまでの者共は、式神を使う時だけ呼び出し、終われば仕舞うのが当たり前で、
式神とずっと一緒に過ごそうとする者など居らんかった。
それ故、この狐でさえ、式神が自ら学び、様々な事を習得出来るなどとは、考えも
しなかった。悠久の時を生きた狐に、未だ知らぬ事があろうとは驚きじゃった。
とはいえ此度の別れは、四年に一度必ず訪れるのじゃ。
別れなどというと左京と夕霧に、二度と会えぬようにも聞こえるが、単に両神社内で
交代するだけじゃ。
もっと言えば、性格こそ違えど同じ顔の兄と姉との入れ替えで、大きく変わるとは
思えぬ。
右京と朝霧は、四年分の充電期間があるんじゃ、この篠辺の狐がきっちり仕込んで
やろう。
以前、弟や妹より自分たちは劣っておると、この狐に話した事があった。
この入れ替えの時にも
「弟のようには上手く出来ない事も多いので、お狐様の目には〝月と鼈程の違いがある〟と映るでしょうが、精一杯務めさせて頂きます。」
そんな事を言って、深々と頭を下げおった故、
【右京、最後の意気込みが持続すれば十分じゃ。跛鼈千里の言葉があるように、努力を続けておれば、少々能力が劣っておっても、追いつく事も出来るじゃろう。さらに続ける事が出来れば、一歩先を歩む事も出来よう。右京も朝霧も失敗を恐れ構えて、出遅れてしまう事が多いが…決して能力の差ではない。正直、狐には〝亀と鼈〟程度の違いじゃ。大きく違うようで違いが分からずとも支障はない。篠辺に来てから狐がみっちり仕込んでやるから任せておけ。】
そういって狐は九尾で、右京の背中を押した。
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