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貧乏神 約束
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【此処で、何をしておる?】
急に声を掛けられて、反射的に立ち上がり、振り向き様に後退った黒闇天様は
(ぁの…ご迷惑はお掛けいたしません…ので、ここに…この場所で良いので…そっと
隠れさせ…いえ、暫く居させて貰いたい…のですが、やっぱりアタシじゃ…ダメです
よね…。別の居場所を探し…。)
最初こそ、お狐様を見て話されていた黒闇天様だったが、そのうち俯き、髪に指を
差し込んでみたり、口元に手を持って行ったり、額に掌を置いてみたりと、忙しなく
動かし、仕舞いには肩を落として項垂れ、諦めたように立ち去ろうとした。
【何処か当てはあるのか?】
お狐様は思案顔で聞いたが、黒闇天様は足を止めたまま、呆然と立ち尽くしていた。
【…その様子だと行く当てなど無さそうじゃな。二つ名を知っておる故、安請け合い
して境内の中まで招き入れる事は出来ぬが、此処の裏山で良いのであれば…恐らく支障は無かろう。】
お狐様の言葉に、振り返って大きく目を見開いた黒闇天様は、
(有難い。…決して害悪は与えぬと誓う。そうだな…この石のところに居場所を決めて、動き回るような事は致さぬ。暫しの間、厄介になっても良いか⁈)
少し早口で話し出した黒闇天様は、縋るような眼でお狐様に問うた。
【それならば…じゃが、別段何も出来ぬぞ。…それに事情は知らぬが、吉祥天が
探して居ると聞いた。どのように致すつもりじゃ?】
お狐様は受け入れるお積もりのようだが、基本的に面倒な事を嫌う質なので、先んじて黒闇天様に釘を刺し、現状の対策と大雑把な期限の見通しを立てようとなされているようだ。
(…聞き及んでたか。巻き込む気はないが、出来れば暫く知らない振りをしていて
欲しい。今、姉に居場所を知られれば、元の木阿弥となる…。別々に居る方がお互いの為なのだ。)
此処に来た時に思い悩んでいる様子だった事と、今の内容から推測して吉祥天様と
何かあった事だけは分かった。
正直、式神には何の決定権もないし、口を挟む事など許されない。
だから口にはしないが、裏山も一応、敷地内なのだから…黒闇天様を受け入れるのは
如何なものでしょう…。見方を変えれば、神の国の方を裏山に住まわせるのも、どうなのだろう…いまいち腑に落ちない。
でも、行く当てもなく途方に暮れていた黒闇天様が、今は裏山とはいえ、安堵して
いる様子を見る限り、お狐様のご判断は素晴らしかったのだろう。
黒闇天様を裏山に残して、境内に戻って来ると
【杏。この事は一切、他言無用じゃ。黒闇天の存在を気付かれる事が無いように、
十分に注意してくれ。…あと黒闇天の様子を、時々見に行ってやってくれぬか?巻き
込んですまぬが、よろしく頼む。】
「承知致しました。お任せください。」
それからの杏は、数日置きに黒闇天様の様子を、お狐様に報告した。
訪ねる際に、黒闇天様の好物〝焼き味噌〟や〝味噌を付けて焼いたおにぎり〟を運ん
で行くようになった。
急に声を掛けられて、反射的に立ち上がり、振り向き様に後退った黒闇天様は
(ぁの…ご迷惑はお掛けいたしません…ので、ここに…この場所で良いので…そっと
隠れさせ…いえ、暫く居させて貰いたい…のですが、やっぱりアタシじゃ…ダメです
よね…。別の居場所を探し…。)
最初こそ、お狐様を見て話されていた黒闇天様だったが、そのうち俯き、髪に指を
差し込んでみたり、口元に手を持って行ったり、額に掌を置いてみたりと、忙しなく
動かし、仕舞いには肩を落として項垂れ、諦めたように立ち去ろうとした。
【何処か当てはあるのか?】
お狐様は思案顔で聞いたが、黒闇天様は足を止めたまま、呆然と立ち尽くしていた。
【…その様子だと行く当てなど無さそうじゃな。二つ名を知っておる故、安請け合い
して境内の中まで招き入れる事は出来ぬが、此処の裏山で良いのであれば…恐らく支障は無かろう。】
お狐様の言葉に、振り返って大きく目を見開いた黒闇天様は、
(有難い。…決して害悪は与えぬと誓う。そうだな…この石のところに居場所を決めて、動き回るような事は致さぬ。暫しの間、厄介になっても良いか⁈)
少し早口で話し出した黒闇天様は、縋るような眼でお狐様に問うた。
【それならば…じゃが、別段何も出来ぬぞ。…それに事情は知らぬが、吉祥天が
探して居ると聞いた。どのように致すつもりじゃ?】
お狐様は受け入れるお積もりのようだが、基本的に面倒な事を嫌う質なので、先んじて黒闇天様に釘を刺し、現状の対策と大雑把な期限の見通しを立てようとなされているようだ。
(…聞き及んでたか。巻き込む気はないが、出来れば暫く知らない振りをしていて
欲しい。今、姉に居場所を知られれば、元の木阿弥となる…。別々に居る方がお互いの為なのだ。)
此処に来た時に思い悩んでいる様子だった事と、今の内容から推測して吉祥天様と
何かあった事だけは分かった。
正直、式神には何の決定権もないし、口を挟む事など許されない。
だから口にはしないが、裏山も一応、敷地内なのだから…黒闇天様を受け入れるのは
如何なものでしょう…。見方を変えれば、神の国の方を裏山に住まわせるのも、どうなのだろう…いまいち腑に落ちない。
でも、行く当てもなく途方に暮れていた黒闇天様が、今は裏山とはいえ、安堵して
いる様子を見る限り、お狐様のご判断は素晴らしかったのだろう。
黒闇天様を裏山に残して、境内に戻って来ると
【杏。この事は一切、他言無用じゃ。黒闇天の存在を気付かれる事が無いように、
十分に注意してくれ。…あと黒闇天の様子を、時々見に行ってやってくれぬか?巻き
込んですまぬが、よろしく頼む。】
「承知致しました。お任せください。」
それからの杏は、数日置きに黒闇天様の様子を、お狐様に報告した。
訪ねる際に、黒闇天様の好物〝焼き味噌〟や〝味噌を付けて焼いたおにぎり〟を運ん
で行くようになった。
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