篠辺のお狐様

初めての合同実戦練習 鬼縛り

　スタート地点のテントから裏山へ向かって直ぐに、気配を消した柚子が、何処から
どうやって放つか、全く予想も、想定も出来ない苦無くないが12本。スタート直後の最初の
洗礼にしては、厳しい攻撃から始まる。
　次は、半径10mという中範囲の呪文で、足を踏み入れた者に幻影をみせて、惑わせ
迷わせている間に、杏が短刀で12手攻撃する。相手が手負いになるか、杏が12手出し
終えた時点で終了。
　三番は、鴉山椒が裏山に居るカラスに紛れた獣の姿で、羽根刀10枚の攻撃をした
あと、人の姿に戻り、相手が少し離れたところで、弓矢での攻撃２射。
　最後は、気配を消したオレが身軽な小猿姿で、何処からともなく狙いを定めて、
感覚を失う毒を仕込んだ、吹き矢12針の攻撃で締めくくる実戦練習となった。

　実際に相対するのは、杏の短刀だけだが、他も手数が多く、広範囲から狙える攻撃
なので、初めての式神達は苦戦するだろう。
　何より攻撃を躱かわしながら、制限時間内に戻って来なければ、終わらない。
慎重過ぎても間に合わないし、強行突破するにしても、深手を負えば戻れなくなる。

　最初の鬼縛りがテントから出た。
篠辺の戦闘練習は熟しているだけあって、初動は落ち着いて気配を探っている。
　だが、杏や鴉山椒の気配すら読み取れなかったはずだ。
日頃、外巡回を最短40分で戻れる鬼縛りだが、境内の巡回も入る上に、4人の攻撃を
躱したり、受けて反撃したりしているうちに、時間は過ぎる。
　さて、どうやって切り抜けるか、見せて貰おう。

　柚子からの苦無12本中6本は、掠かすたり、刺さったりしたようだが、初めてにしては
上手い事、体の動きを切り替えながら、木立を使って避けていた。
　裏山を歩き慣れているから、足元に注意を向けなくても、おおよそ感覚で分かって
いるのも、有利なのだろう。
　最初の頃は、体が大きいので力技は得意だったが、キレが悪かった。だが今回は、機敏な動きが出来るようになったな。あの柚子の攻撃を半分躱せたんだ…っていうか、柚子も12本も良く投げたな！

　
　杏のテリトリーの手前で何かを感じ取った鬼縛りは、足場は悪くとも最短ルートを
選んで、読経しながら進む事にしたようだ。
　考えたな…読経をしている事で、杏の呪文を少しでも防ぎ、幻影を見せられたとしても、日常見慣れたルートなら、木立の並びも分かる。それに集中して行けば走り抜けられると思ったのだろう。悪くはないが、杏が攻撃して来ないと踏んだのが、間違いだ。案の定、12手中4手目で手傷を負った。鬼縛りの考えの甘さもあったが、立て直しが早かった事は評価出来る。