篠辺のお狐様

梁瀬

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霜月の新月

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 今日は、小春日和じゃ。
普段と変わらず、左京と夕霧は境内の掃除を早々に終えると、この時期には欠かせ
ない落ち葉集めに勤しんでおった。
 湧泉の水も冷たくなり、手水舎の水替えも堪える季節になったのぉ。
狐にとって、秋の行楽ともいえる〝七五三〟も過ぎ、一雨ごとに寒さが増し、冬の
足音が近づいておった。
 
 今夜は、新月故、篠辺は休みじゃ。
左京も夕霧も休みだからと掃除などせずとも良いのだが、すっかり日課になっておる
のじゃろう。
 そして、掃除が終われば、久しぶりの休みなんじゃが、あやつらが出掛ける事は
ほとんど無い。
 筆文字の書物を読んで過ごすか、宝物庫の掃除と整理などをしておるうちに、
いつの間にか休日を終えておる。
 何が楽しいのか、狐には全く分からん。

 休日でも主人が出歩かず、神社で仕事と変わらぬような事をしておれば、
式神達も、自然といつもと変わらぬ生活を送っておる。
 左京の式神、猿豆と犬枇杷は近隣の見回り、鴉山椒は空からの見回りと、
主人同様、抜かりない。
 夕霧の式神も、杏と鬼縛りは拝殿前で仁王立ちで警戒し、柚子は相変わらず
夕霧の側で手伝っておる。こっちも主人同様、心任せじゃな。

「みんなが手伝ってくれるようになってから、やっと宝物庫の掃除と整理に、
手が掛けられる余裕が出来て、数年掛かってしまいましたが、あと少しで終わり
そうです。本当にありがとう。」
「夕霧さんと左京さん、私と猿豆が、この宝物庫に初めて入った時は、神楽のお道具が置いてある一番手前の棚以外、埃が積もっている状態でしたよね…。
皆、頭にタオル、マスク、手袋、履物と完全防備で、コツコツ掃除をしましたね。」
 夕霧も柚子も、共に悪戦苦闘した長い年月を振り返った。
「柚子が言うように、埃が被ってるっていう状態じゃなく、積もっていたものね!
新たに宝物庫の備品として、購入した空気清浄機2台も、強い味方になったね。」
「既に、両方稼働させてあります。宝物庫のお品は、全て年代物ですので、
取扱いには十分注意して行いましょう。」

 手馴れた柚子と一緒だと、私より先に来て、高い位置にある換気窓を開けて、
空気清浄機を付けてくれていて、掃除用具、替えの布や和紙の準備をしてくれて
いたりと、すぐに取り掛かれる状態になっている。

 式神をイメージした時、まず男の人である事、次は年上である事を重要視した。
私では考え付かない目線から、意見を言ってくれる存在が欲しかったから。
見落としてしまいそうな事を、指摘してくれる存在がいてくれたら、心強く、仕事のミスも減らせると考えたからだったが、今は日常の七割を柚子が熟してくれている。
「私の役目は、夕霧さんの補佐ですから。」
そう言ってくれる言葉に、甘えてしまっている。

 杏や夏に、仕事を分担するように言っても、神社の敷地や、境内の防犯を任せる
だけで、私の身の周りの雑多な事は、柚子が全て先にやってくれている。
 凄く頼れて、過保護すぎるお兄さんみたいな…式神なんです。

「夕霧さん、先に重たい物は台の上に降ろしておきますね。一番、重そうな物から
取り掛かりましょう。」
そう言って柚子は、何重にも布で包まれている、大きくて重そうな木箱を、
棚から降ろし、台の中心にそっと置いた。

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