篠辺のお狐様

新米共

　篠辺神社の一日
         午後16時　　　　起床。両者、禊をする。
　　　　　　　　　　　 本殿の掃除。　
   　         16時半　　　本殿にて、巫女が神替り（御座替わり）を行う。
　　         17時　　　　神主が西鳥居の置石を外し、篠辺門を開門。
　　　　　　　　　　 　湧泉ゆうせんの掃除。手水舎ちょうずやの水を入れ替え。　
                                 季節によっては灯籠に火を灯す。 
　　　　　18時　　　　一食
　　　　　　　　　　　 境内の掃除。小滝の掃除。　　
                                 社務所、神楽殿の掃除。
　　　　　　　　　　　 一日おきに書庫と宝物庫の掃除。
                                 形代かたしろ、縁切り札作り。
　　　　　　　　　　　 祓い等の予約案件。
　　　　　24時　　　　二食
　　　午前  2時　　　　御焚き上げ
　　　　　  4時    　     巫女が西鳥居に置石して、篠辺門を閉門。
　　　　　　　　　　　 両者、禊をする。
　　　　　　　　　　　 拝殿の掃除。　
　　　　　  4時半      　本殿にて、神主が神替り （御座替り）を行う。　
　　　　　  5時            篠辺庵(住居)の掃除。
　　　　　  6時            三食
      　7時～8時　　　　就寝。　

　大体、こういう流れになるが、季節や、神事、依頼の内容や、予約によって多少の変更はある。　

　篠辺に来てからは、何もなければ大体こうじゃ。
じゃが、此処は篠辺、日に2件までとしておるが、祓いや呪詛返しの類もある。
様々な事を毎日、実践で覚えて行った。練習などしておる暇など無かったからのぉ。
　あやつらの負けず嫌いな所にも驚かされたが、何より勘の良さに狐も舌を巻いた。

　恐らく一月ひとつきで弱音を吐くか、体を保持するのが難しくなるだろうと考えておったが、この狐を読み違えさせる程の、頑固者達じゃった。
　それ程、体力的にも精神的にも、追い込まれた状態が続いたが、あやつらは音を上げる事はなかった。

　午前4時に閉門し、4時半に神替りをした後は、夜中に多めに炊いておいた飯の残りで、握り飯を作り何とか腹に入れて、早ければ5時半か6時には、二人共死んだように寝ておった。長丁場になった時ほど、三食、風呂、睡眠のみで精一杯じゃ。
　この狐でさえ、時折、心配になる程じゃった。
本来なら、6時に三食、篠辺庵と廊下、厠#__かわや__#等を掃除した後、7時～8時頃に就寝なのだが、細かい事は目を瞑つぶっておった。

　あやつらの庵がいかに汚れていようが、狐には全く支障がない故、構わん。
それくらい大雑把に見てやらねば、無理じゃ。食事と睡眠だけで精一杯という最低限の生活でも、手堅く仕事を務めておったのが出来過ぎなんじゃ。更に、あやつらの暮らしぶりまで口出しなど出来ようか。
　狐が呼んだとはいえ、弱音一つ吐かん、あやつらを、正直見ておれんかった。

　今から思えば、15歳で緊張続きの慣れん仕事を任され、へとへとの頭と体、心も含めてじゃが、ただ寝る事で凌しのぎ貫いた事の方が信じられん。
今でこそ式神達がおるが、当初は二人きりで全てを熟しておったんじゃ。

　左京の攻めは、双短刀じゃ。
外で妖などと対治たいじする時は、火薬を使ったりもしておる。
補助的なものとしては、鏡などを用いて反射を使い、跳ね返す事もあったのぉ。
　夕霧の攻めは、薙刀なぎなたと弓じゃ。主に外での対治で使っておった。
補助的なものとしては、相手の力を抑え込んだり、力を吸収出来る故、多くはこちらを使って、左京の補助をしておるようじゃった。
　慣れるまでは、互いの呼吸も読めず、苦戦しておった。
式神を使えるようになり、怪異も祓いも、呪詛の類も、短時間で片付けられるようになって行った。
　　
　因みに、猿豆は小柄こづか。鴉山椒は弓と羽根刀はねがたな。
柚子は刀と苦無くない。杏は影踏みと呪文じゃ。
　左京と夕霧は良く話し合い、協力し合い、何より互いを信頼しておる。式神達も同様じゃ。今では余程の案件でなければ、こやつらに任せても問題ない。

　あの時、左京と夕霧を呼んだ狐の判断は、間違ごうてなかったようじゃ。
ガキ共の成長は、危なっかしいが早いものじゃ。何より狐を飽きさせん。