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式神 8
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【左京。小猿に〝夢〟が出来たそうじゃが、どうする?】
そう尋ねると、小猿をじっと見つめた左京は、
「オレにも、その夢を叶える手伝いが出来るなら、喜んで手伝わせて貰う。」
真っ直ぐな言葉を聞き、
【狐の式神ではない故、本来の式神の枠から外れていようが、式神の分際で〝夢〟など持とうが、主と式神の間で決めれば良い事で、そんな事まで狐は口出しはせぬ。】
小猿は少し驚いた様子だったが、頭を下げた。顔を上げた小猿の瞳には、凛とした光が宿っていた。
「オレには色んなものが足りないから、面倒も迷惑もかけるし、何より直ぐには擬人化した姿にしてやれそうにない。ゆっくり関わるうちに、必ず擬人化させるとしか、今は言えない。それでも受け入れてくれるか?」
小猿は、何処までも格好悪いが嘘のない左京の言葉に、少し照れたように頭をかきながらも頷いた。
「家族になってくれて、ありがと。一生、大事にする!」
左京は小猿を抱きしめた。
小猿も驚いておったが、正直、狐も驚かされた!
まだ式神の儀式も済ませておらぬ、仮の姿の小猿を抱きしめられるとは思いもしなかったが、儀式などせずとも、すでに心の繋がりが出来ておるとは…。実に分からぬ男よのぉ。この左京という男は狐の読みを狂わせ、飽きさせぬ男じゃと、ほくそ笑んだ。
「真淵左京、今は使えない神主だが、努力次第で少しは伸びしろもあると思う。そして全力で努力する事を誓う。〝猿豆〟この左京の式神になる事を命ずる。」
片膝をついた状態の猿豆も、命じた左京も、何かを待つように動かなかった。
【すでに儀式は終わったぞ。いつまでそうしておる?】
「えっ終わったの?何もなさ過ぎて実感が…音も光もないんだ…。」
酷く戸惑い、残念そうな左京に
【何を期待してたか知らぬが、その音も光もない無感動の儀式に、おぬしは何日費やした!】
「お狐様のおかげで猿豆を式神として、家族として迎え入れる事が出来ました。本当にありがとうございました。」
左京が頭を下げると、隣に並んだ猿豆も頭を下げた。
【しかし左京…悪趣味よのぉ。誓いの言葉に求婚の言葉とは…更に男同士良く恥ずかし気もなく抱き合えるものよ!】
いつもの狐のいじりが始まると、左京は猿豆を肩に乗せ
「はいはい。何をどういう風に捉えられても構いません。オレにとって猿豆は特別なんです。だから、へそ曲がりの狐に冷やかされても、恥ずかしいなんて少しも思いません。」
【開き直ったか!性別どころか、種族をも超えるとは…若いというか、見境がないというか。】
「お狐様が天邪鬼なのは知っていましたが、素直になれない狐だったんですね。」
狐を見て、左京はフッと笑った。
「篠辺の神主である左京が、式神の猿豆に取られてしまうのでは…と不安になって…いや寂しくなっちゃったんですか?それなら、素直に狐も寂しいと仰ってくださ…」
言い終えぬうちに
【出来の悪い神主の一人や二人、いや左京なら喜んで、妖にでも魔物にでもくれてやるわ。勝手に狐が寂しいみたいに言われるのは、心外じゃ。】
狐は、九尾の一つを地に叩き付けながら、そっぽを向いた。
左京はクスッと笑いながらも
「お狐様が寂しい時は声を掛けてくだされば、美酒をご用意して駆け付けますから!物足りなければ、お世辞の一つや二つ…」
【左京からの世辞など、毛が逆立つ。世辞は要らぬが美酒は良いのぉ。いつでも呼びつけてやるぞ。】
「近いうちに、ご用意しておきます。」
左京は狐に頭を下げたが、すでに狐の姿はなかった。
そう尋ねると、小猿をじっと見つめた左京は、
「オレにも、その夢を叶える手伝いが出来るなら、喜んで手伝わせて貰う。」
真っ直ぐな言葉を聞き、
【狐の式神ではない故、本来の式神の枠から外れていようが、式神の分際で〝夢〟など持とうが、主と式神の間で決めれば良い事で、そんな事まで狐は口出しはせぬ。】
小猿は少し驚いた様子だったが、頭を下げた。顔を上げた小猿の瞳には、凛とした光が宿っていた。
「オレには色んなものが足りないから、面倒も迷惑もかけるし、何より直ぐには擬人化した姿にしてやれそうにない。ゆっくり関わるうちに、必ず擬人化させるとしか、今は言えない。それでも受け入れてくれるか?」
小猿は、何処までも格好悪いが嘘のない左京の言葉に、少し照れたように頭をかきながらも頷いた。
「家族になってくれて、ありがと。一生、大事にする!」
左京は小猿を抱きしめた。
小猿も驚いておったが、正直、狐も驚かされた!
まだ式神の儀式も済ませておらぬ、仮の姿の小猿を抱きしめられるとは思いもしなかったが、儀式などせずとも、すでに心の繋がりが出来ておるとは…。実に分からぬ男よのぉ。この左京という男は狐の読みを狂わせ、飽きさせぬ男じゃと、ほくそ笑んだ。
「真淵左京、今は使えない神主だが、努力次第で少しは伸びしろもあると思う。そして全力で努力する事を誓う。〝猿豆〟この左京の式神になる事を命ずる。」
片膝をついた状態の猿豆も、命じた左京も、何かを待つように動かなかった。
【すでに儀式は終わったぞ。いつまでそうしておる?】
「えっ終わったの?何もなさ過ぎて実感が…音も光もないんだ…。」
酷く戸惑い、残念そうな左京に
【何を期待してたか知らぬが、その音も光もない無感動の儀式に、おぬしは何日費やした!】
「お狐様のおかげで猿豆を式神として、家族として迎え入れる事が出来ました。本当にありがとうございました。」
左京が頭を下げると、隣に並んだ猿豆も頭を下げた。
【しかし左京…悪趣味よのぉ。誓いの言葉に求婚の言葉とは…更に男同士良く恥ずかし気もなく抱き合えるものよ!】
いつもの狐のいじりが始まると、左京は猿豆を肩に乗せ
「はいはい。何をどういう風に捉えられても構いません。オレにとって猿豆は特別なんです。だから、へそ曲がりの狐に冷やかされても、恥ずかしいなんて少しも思いません。」
【開き直ったか!性別どころか、種族をも超えるとは…若いというか、見境がないというか。】
「お狐様が天邪鬼なのは知っていましたが、素直になれない狐だったんですね。」
狐を見て、左京はフッと笑った。
「篠辺の神主である左京が、式神の猿豆に取られてしまうのでは…と不安になって…いや寂しくなっちゃったんですか?それなら、素直に狐も寂しいと仰ってくださ…」
言い終えぬうちに
【出来の悪い神主の一人や二人、いや左京なら喜んで、妖にでも魔物にでもくれてやるわ。勝手に狐が寂しいみたいに言われるのは、心外じゃ。】
狐は、九尾の一つを地に叩き付けながら、そっぽを向いた。
左京はクスッと笑いながらも
「お狐様が寂しい時は声を掛けてくだされば、美酒をご用意して駆け付けますから!物足りなければ、お世辞の一つや二つ…」
【左京からの世辞など、毛が逆立つ。世辞は要らぬが美酒は良いのぉ。いつでも呼びつけてやるぞ。】
「近いうちに、ご用意しておきます。」
左京は狐に頭を下げたが、すでに狐の姿はなかった。
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