篠辺のお狐様

梁瀬

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依頼と代償 Ⅳ 神託 R

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 この篠辺で、この物言いは狐の思うツボだと分かってはいたが、依頼者が自ら切り出した事なので、左京も夕霧も、取りあえず笑顔を向けた。
 一際、嬉しそうにしていたのは狐だった。
狐は、左京に夕霧の額に手を当てさせて、如何にも、何かの儀式に取り掛かっているかのように、何かブツブツと声にならない位に唱えさせた。
 
 暫くして、夕霧は突然、肩をガクリと落としたかと思うと、
「男には沢山の猫が憑いているが、鳴き声は親子のもので、最初は子猫の腹をナイフで切り、側に来た母猫も一緒に殺した。二度目は怒りと苛立ちを、偶然、目の前を
横切った身重の母猫を、車道へ蹴って殺した。三度目は段ボールの中に親子三匹が
入っているのを見て、段ボールを閉め、川へ沈めて殺した。四度目は子猫の舌を
切って、父猫と一緒に生きたまま埋めて殺した。最後は子猫と親猫の両眼をエアガンで打ち抜いて殺した様じゃ。鳴き声を止めさせたくば、五組の猫、それぞれに代償を払い、猫達に怒りを納めて貰うのが一番じゃが、さっき口にした事に、一切偽りは
ないか?」
巫女に神託しんたくしているかのように言わせた。

 神託(託宣たくせんとも言う)とは、神が人や物に憑依し、或いは夢に託して神意を告げる
ものだが、篠辺の狐と神主、巫女の間では、神託など必要ない。
 ただ、それらしい雰囲気というか、それっぽく演じて見せながら、狐が言った言葉を巫女が復唱しただけだが、言い当てられた男は、巫女の顔を穴が開く程に、ジッと
見続けていた。

「すげぇ…アタリ!まるで見てきたみたいに言いやがった。ヤバイ鳥肌立った。」
興奮した様子で、捲し立てた。
 恐らく当たっていた事以外は聞いていなかったようなので、再度、
「鳴き声を止めさせたくば、五組の猫、それぞれに代償を払い、猫達に怒りを納めて貰うしかないが、さっき口にした事に、一切偽りはないか?」
巫女は確認した。

「さっき口にした事?…あー言い値でいいってヤツ?それならOK問題なし。それと、猫の声が
止まったら、仕事と命以外なら何でもやるってのもマジだから。」
男はそう言い切った。
「では五組の猫達と話し合い〝仕事と命〟以外で代償を決めさせ、猫達の鳴き声が
止んだら、そなたに代償を支払って貰う。後で口約束だなどと、世迷言を言うなよ。それでよいな!」
「それから鳴き声が止みましたら、お祓い料として一組、二百万円。五組で一千万円頂きます。勿論、成功したらで結構です。よろしいですか?」
と神主も重ねて確認した。

 男は満足そうに、
「そんなんでいいなら、早いとこ片付けてくれ。」
確認が取れた所で、狐が猫達と話し、それぞれが代償を決めたので、
「猫達の声、代償を聞くか?」
と問うと、面倒そうに眉間に皺を寄せ、首を振った。

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