篠辺のお狐様

双子の七五三 １ 童好き

　霜月、篠辺の狐が、最も生き生きとしている月である。
本来の篠辺(死を述)の意味からは、到底、結び付かないだろうが、
この時期の篠辺神社は、七五三のお祝いで参拝する方や、予約でいっぱいになる。
　七五三といえば、神社に参って子供の成長を祈願する行事である。
この篠辺で何故、七五三の祈願が多いのか、不思議に思われるだろう。

　昔から〝篠辺のお狐様は童好き〟と言われているからである。
その理由として、篠辺のお狐様は、身体の弱い子供や、疳かんの強い子供等々の邪気を
祓ってくれる。我がままや、悪さが過ぎた子供でも、七五三の後、ピタッと聞き分けの良い子になった等と言われ、知る人ぞ知る神社となっている。
　
　篠辺は、午後17時から午前4時の神社であるが、昨今では、昼間時間を作れぬ、
忙しない世の中になり、更に子供達も夜更かしときたものだから、夕方からの神社はなかなかの人気ぶりである。

〝邪気を祓う〟〝聞き分けが良くなる〟というのが、全くの噓とは言わないが、
篠辺の狐が、子供好きだからではない。寧ろ、狐は子供嫌いである。
　泣くし、我がままだし、理屈も言葉も通じない、聞き分けの悪い子供などは、
虫唾むしずが走る程だ。
　だが、無垢で無邪気な子供ほど、邪鬼を引き付けてしまうし、魔が差しやすい為、狐が飽きないってだけである。

　今では各地から、子供達が七五三のお祝いに集まって来るので、様々な珍しい邪鬼が、子供に憑いて集まって来るようになった。
　そうなると狐は、その邪鬼を子供から追い払い、追い詰め、追い立てて、楽しんでいるのである。

　子供を守っている訳でも、子供好きでもなく、暇つぶしの邪気祓いである。
更に、邪鬼が憑かぬ程の悪さをしている子供や、我がままし放題の子供は、
大抵、境内に入って来ても、やりたい放題をし、結果、狐に、こっ酷く叱られる。
　
　大人で狐の姿を見れる者や、感じる者は極めて僅かだが、七歳位までの子供には、見えずとも感じる者が多い。その上、あの狐を本気で怒らせたら、少々鈍い子供にも確実に見える姿で、現れる事は想像がつくと思う。
　故に〝聞き分けが良くなる〟これが事実であり、全貌である。
　
　篠辺の二人には〝狐が子供好き〟だろうが、そんな事はどうでも良かった。
二人にとっては、狐の我がままや暇潰しに、少しでも煩わされる事が減るだけで、
一日の仕事の半分は無くなるので助かる上に、七五三の予約や祈願の方が足を運んでくださるので、霜月は忙しいが、安定した収入もある。
　仕事の内容も、他の月とは全く違うので、遣り甲斐もある。
色んな意味で充実した月なのである。ただこの時期、一番大変なのは式神しきがみ達である。
　
　狐が追い立てた邪鬼共が、神社周辺で、再び悪さをしないとも限らないので、
見張っている。
式神の柚子ゆずと杏あんずは住宅地周辺。鴉山椒からすさんしょうは空から、猿豆さるまめは田畑や山を見張っている。

　式神も同様で、誰にでも見えるものではない。
式神の主が、式神を紹介した場合。式神の主の命で、姿を見せる場合。以前に怪奇に触れたり、怪事に関わった時に、抗体のようなものが出来ていて、見れる場合。
人ではない場合。の、ほぼ四つである。
　
　故に、住宅地で人と違わぬ姿をした、柚子や杏の姿が見られる事もないし、
空を飛んでいる鳥の中に、鴉山椒が混ざっていても見分けられぬし、田畑や山の中を
猿豆が走り回っていても、何の問題にもならない。

　勿論、篠辺の二人は忙しくて、邪鬼まで手がまわらないので、狐に追い払われて、
慌てて逃げ出した邪鬼達を見張るのは、式神達が一手に引き受けている。