上 下
3 / 31
出会い編!

結成

しおりを挟む
「俺は英雄になりてぇ!!」

 大声でそう言ったドンキホーテの近くでジェーンは耳を塞ぎながらため息をついた。そして落ちた、藁でできた買い物カゴを拾うと言った。

「そこまで言うなら、私は何も言わない、でもねドンキホーテもし、夢を追うのが辛くなったり、嫌になったらいつでもこの「冒険者の宿」に来てね! 雇うようにお父さんに口利きするから!」

「じゃあ私、買い物行ってくるから」とジェーンはドンキホーテに別れを告げた。ドンキホーテは手を振り見送る。
 さてと、とドンキホーテは自室に戻ることにした。今日は疲れた、何もしていないと言うのに。
 冒険者の宿のロビーに入るとジェーンの父が「どうしたドンキホーテ、今日は早いな」なんて声をかけてくる。
 ドンキホーテは「クビになっちゃってさ」と軽く言い放つと父は驚きジェーンとほぼ同じこと言い出した。ジェーンの父を「はいはい」と受け流しながら。ドンキホーテは自分の部屋に戻る。
 ガチャリと扉を開けるとそこには騎士道物語しかない巨大な本棚とベット、そして小さな机が備えられたドンキホーテの部屋があった。

「ただいま、マイホーム!」

 ホームというよりルームではあるが、そう言いながら、ドンキホーテはベットの中に飛び込む。枕に顔を埋めて大きく息を吐く。顔が暖かい。
 明日からどうすればいいのだろうか、ジェーンの前ではあっけらかんとできたが、こうして一人になるとやはり不安というものはやってくるものである。
 しかしドンキホーテは自らの背中を押す様に言った。

「俺は……夢を諦めるためにここに来たのか……?」

「違うだろ」と自然に口が動く。とにかく明日こそは依頼を受けなくては。今度は一人でできることを探さなきゃな。
 ドンキホーテはそう思い、今日を休暇の日にして、1日を傷心の慰めに使った。



 次の日、ドンキホーテは朝早くから起き、準備を始める。昨日、寝る前に脱いだ皮鎧を着て、左手に小型の円盾を、左腰に剣を差した。
 なぜ荷物持ちである彼ががこんな装備を揃えているのかといえば、護身のためという理由のほかに、ドンキホーテの目指す英雄というものは、すべからく騎士だからに他ならない。

 ドンキホーテにとって英雄といえば騎士であり、騎士とは英雄の卵なのだ。

 故にドンキホーテも騎士の真似事をすれば英雄に近づけると思っている、荷物持ちの分際で剣と盾を装備してるのはそのためでもあるのだ。
 後はマントさえあればな、などと考えながらドンキホーテは冒険者の宿を出る。目指すは冒険者ギルドだ。



 冒険者ギルドの扉の前に朝早くついたドンキホーテは早速、中に入る。出迎えてくれたのは昨日の喧嘩騒ぎを止めてくれた、若い女性の職員だった。

「あら、ドンキホーテ、今日も朝早くから練習?」
「そうだぜ、アロマさん! あ! そういえば昨日はごめんな!」

 ドンキホーテは昨日の喧嘩を止めてくれたアロマに謝罪の言葉を口にする。

「全く、謝るくらいなら喧嘩を起こさないでちょうだい、止めるの大変だったんだから!」
「う……すまねぇ、俺も最初は口で諭そうとしたんだけどさぁ、どうにもあいつらが失礼なやつで……」

「言い訳はいいの!」とドンキホーテはアロマに言われてしまう。そして彼女は続けた。

「まあ、いいわ! トレーニング場、行ってらしゃい、あ、そうそう今日は先客がいるわよ」

 ドンキホーテは不思議に思った、いつもならこの時間帯で冒険者ギルド内にあるトレーニング場を使うのは、自分だけだと思っていたからだ。
 アロマに分かれを告げてドンキホーテは例のトレーニング場に向かう。するとトレーニング場に近づくにつれて、風を切る音がしてきた。

 ――剣を振る音だ。

 ドンキホーテはそう思うと、トレーニング場の中を覗いてみる。冒険者ギルドの中の広い一室を改造し、剣の稽古や、はたまた冒険者同士のレクリエーションなどにも使える、そんなトレーニング場の中、音の主はいた。

「お前は……」

 剣を振っていた者は、ドンキホーテに気がつくと、そう呟き、剣を振るのをやめた。
 ドンキホーテはその者をみると驚いて、声を上げる。

「あ! あんたは確か、えっと……!」
「レーデンス、レーデンス・ゲクランだ、ドンキホーテ」

 レーデンスはそう名乗った。

「覚えてくれてたのか!」
「恩人の名をそう忘れん」

 レーデンスはそう言うとドンキホーテは照れ臭そうにこう返す。

「恩人?! よしてくれよ、あれは俺が勝手にやっただけなんだ!」
「いや、そう言うわけにもいかん、改めて礼を言わせて欲しい、ありがとうドンキホーテ、昨日は助かった」

 ドンキホーテは「ど、どういたしまして」と照れて言う。
 今まで喧嘩をしてきて、礼を言われたことはあまりない為ドンキホーテにとっては予想外すぎる結果だった。

「そういえば、レーデンスもこんな時間から練習か早いな!」

 照れを隠すためにそう言いながら、ドンキホーテはレーデンスの隣に行き、剣を張り出す。

「ああ、いつもは人のいない深夜にやっていたのだが、今日は気分を変えて、早朝からやることにしたのだ」

 レーデンスの言葉に「そうなのか」とドンキホーテは呟きながら剣を振るう。レーデンスもそれを見て素振りを再開した。

「俺はいつも早朝からやってるんだ、なにせ早朝ぐらいしか素振りする時間がなくてさ、いつも素振りした後、ここの食堂でご飯食ってからすぐ仕事に……」

 そこまで言いかけた後ドンキホーテは、思い出す。自分はパーティから追い出されたことに。剣を振るのをやめ落ち込み、しゃがみこむ。

「あ、俺、パーティから追い出されたんだから、別に無理して早朝から、素振りやらなくてもよかったんじゃ……」

 パーティから追い出されたと言うことは、それにプラスして仕事も無くなったと言うことでもあるのだ。
「はぁ」と思わずため息をついたドンキホーテにレーデンスは話しかける。

「追い出されたのか、パーティから……?」
「そうなんだよなぁ追い出されちまった」

 それを聞くとレーデンスは一瞬、考えるそぶりを見せた後、言った。

「なら……私とパーティを組まないか?」

 ドンキホーテは、レーデンスの顔を見て驚いた顔を見せる。

「え、いいの?」

 それはこちらのセリフだ、とレーデンスは言いたかった。

「ちょうど私も、パーティを組んでいなくてな、仲間が欲しかったんだ」
「おおー俺とおんなじじゃん!」

 ドンキホーテは、喜びに喜んだ後、宣言するかのように言った。

「じゃあ、決まりだぜ! レーデンスと俺の黄金コンビ結成だな!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 ご感想へのお返事は、執筆優先・ネタバレ防止のため控えさせていただきますが、大切に拝見しております。 本当にありがとうございます。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...