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エミール様と先生
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彼がやってきた日、先生に言われた通り知らせると「今すぐ来て。絶対だよ」と物凄い圧で言われた。
「先生が今すぐ来てと」
「そうか。じゃあ、お邪魔しようか。どのあたりなんだ?」
彼の目をじっと見つめる。やっぱり色が違う。
「どうかしたか?」
「いえ。えーっと、場所ですよね。セントラル駅から……どう説明したらいいんだろう」
「とりあえずセントラル駅に行けばいいか?」
「はい、大丈夫です」
「掴まって」
「はい??」
「転移するから」
「おぉっ、転移!!」
まさか、転移を体験できるとは! 腕を広げる彼に近づくとギュッと抱き寄せられた。
「あの?」
「ごめん。近づいてもらわないと一緒に転移できないから」
「なるほど、そうなのですね」
距離が近くてドキドキしてしまう。鼓動を聞かれてしまいそうだ。
「目を閉じていてくれるか。すぐに着くから」
「分かりました」
ギュッと目を閉じてしばらく待ってみる。何も起きていないような……?恐る恐る目を開けると覗き込む彼と視線がぶつかった。
「え!?」
「ごめん。いや、あの、ちゃんと閉じてるか確認をと思って」
「そうでしたか。閉じてますから大丈夫です!!」
ビックリした。目の色が水色に見えた。念の為と思って見上げた彼の目は濃いめの青色だった。あれ、見間違いかな?
「じゃあ、もう一度」
「はい!」
目を閉じて彼の腕を掴んだ。ふわっと体が浮くような感じが一瞬した後に、地に足がついた。
「もういいよ」
目を開けると路地裏にいた。人通りは少なくて、人目につかない場所だった。
「わぁ、本当に一瞬ですね!」
興奮気味に言ったあとでくっついたままだと気づいて、慌てて離れた。
「ごめんなさい!」
「いや、全然いい」
「いっ行きましょうか」
「うん」
大通りに出て、いつも目印にしている建物を探す。ここは……えーっと……
「右へ進むと駅ですよね?」
「そうだな」
という事は左に進めばいい。
「こっちです」
真っ直ぐに歩きながら曲がり角を確認する。いつもとは違う通りだから、違和感がある。
「あっ、ここここ」
ようやく知ってる道に出ることができて意気揚々と歩き出す。目印の花屋さんが見えてきた。
「ここを右に曲がります」
「若干薄暗いな」
「確かにちょっと治安悪そうですよね」
「いつも大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ? 人に出くわしたことないし」
少し進んだところにある建物の扉の前で立ち止まり「せんせーい」と声を上げながら中に入った。
「ノックしないのか?」
「ノックじゃ小さくて、先生気付かないんです。いつも2階にいるし。まぁ、これでも気付かない事が多いんですけどね」
ドタバタと足音がして、2階から先生が慌ただしく降りてきた。
「やぁやぁ、いらっしゃい。待っていたよ」
対面した2人を紹介することにした。
「こちらが先生ことシャルルさん。で、こちらがエミールさんです」
「はじめまして、エミールと申します」
「シャルルです。初めてという感じがしないね?」
先生が意味ありげに微笑んだ。あれ、知り合いだったのかな?
「……いえ、はじめましてです」
そう言ったエミール様に「あはは、そうだったね」と先生が笑いかけた。
「お知り合いでしたか?」
「いやいや。なぜか懐かしい感じがしちゃっただけだよ」
「そうですか」
「今日はパウンドケーキを焼いたんだ。一緒に食べよう」
「その前に……またこんなに散らかして」
ため息をつきながら先生の方を見ると「ねー? どうしてこうなるのやら」と不思議そうな顔をした。めちゃくちゃ他人事だ。
「お茶の前に片付けますね。エミール様がいらっしゃるんだから少しはきれいにしてるのかと思っていたのに」
「ちょっと忙しくて」
「この魔法書は本棚に戻していいですか?」
「うーん、上から2番目のやつはダメ。それ以外はいいよ」
「わかりました」
本を持って移動しようとするとエミール様が「いつもこんな感じなのか?」と怪訝な顔をされた。
「そうですね。こんな感じです」
「別にこき使ってるわけじゃないからね? ちゃんと報酬も支払ってるからね?」
先生が慌ててエミール様に説明すると「ならいいんだが……」と少しだけ納得した顔になった。
「エミール様は椅子に……あぁ、座るところもぐちゃぐちゃだ。もう少しお待ち下さいね」
「うん……」
「そんな怖い目でこっちを見ないで。僕もやるから」
「俺は別に何も……。これはどこへしまえばいい……ですか?」
なぜかエミール様までもが手伝ってくれて、散らかり放題だった部屋はきれいになった。
「これでしばらくは大丈夫ですね。エミール様、ありがとうございました」
「ほんとありがとね。さてと、ケーキの用意するね」
先生はいそいそとこの場から姿を消し、残された僕たちは座ることにした。
「嫌なことは嫌だと言った方がいいぞ?」
「別に嫌じゃないですよ? 先生が忙しくて他のことに手が回らないっていうのは何となく分かるんで」
「ルシアンがいいなら構わないんだが。俺ならこんな事させないのに」
「また言ってる。誘って頂いても無駄ですよ?」
「いや、そうじゃなくて」
「永久就職って事ー?」
トレイを持った先生がニヤけ顔で入ってきた。
「永久に王宮で働く?……無理」
想像して倒れそうになった。
「あはは、1ミリも伝わってなーい」
「そうですね……」
「がんばりたまえよ」
「言われなくてもそのつもりです」
「おぉ、いいね。僕の目に狂いはなかったということだ」
「なんですか? ふたりとも。僕は先生のお手伝いで忙しいですからね!」
二人が顔を見合わせながら笑うから何だか面白くない。ケーキにフォークを突き刺して勢いよく食べているとまた笑われた。なんだよ、意気投合しちゃって。僕が紹介したのに。
「俺のも食べるか?」
「たくさん作ったから大丈夫だよ」
「頂きますっ!」
「うんうん、食べな? ルシアンくんの食いっぷりは見ていて気持ちがいいからね」
「ですよね……食べさせたくなります」
「そんなに食いしん坊じゃないですよ、僕」
「「え?」」
「え? 普通じゃないですか?」
そう問いかけると歯切れ悪く「まぁ、うん、普通かな」と返された。
「ですよね?」
食べることは大好きだけど、そんなにたくさん食べられないもん。食欲は人並みだ。
和やかな会はエミール様の「そろそろ帰らないと」という一言でお開きになった。
「それじゃあ、俺はここで」
「うん、また遊びにおいで」
「はい、是非」
「頑張ってね」
バチンとウィンクを飛ばす先生に一瞬虚をつかれていたけれど「はい」と答えていた。
「ルシアン、気を付けて帰るんだぞ」
「はい」
彼が僕の方に近づいて耳元でこっそり「今度の休み、一緒にでかけよう」と囁いた。体を離した彼に向かってコクコク頷くと「約束だからな」と小さく呟いた。
「またな」
「うん、またね」
彼を見送って、まだ残っている紅茶を飲むために席についた。
「帰っちゃったね。寂しいね」
「そうですね……寂しいです」
「彼と過ごすのは楽しい?」
「楽しいですよ? とても」
「それはよかった」
先生はとても嬉しそうに笑いながらカップに口をつけた。彼と過ごすのは楽しい。だからもっと一緒に過ごしたいと考えてしまう。忙しい彼の時間を長く拘束できない事は分かっているのに。
「あともう一息……といったところかな」
そう呟いた先生がまた優しく微笑んだ。
「先生が今すぐ来てと」
「そうか。じゃあ、お邪魔しようか。どのあたりなんだ?」
彼の目をじっと見つめる。やっぱり色が違う。
「どうかしたか?」
「いえ。えーっと、場所ですよね。セントラル駅から……どう説明したらいいんだろう」
「とりあえずセントラル駅に行けばいいか?」
「はい、大丈夫です」
「掴まって」
「はい??」
「転移するから」
「おぉっ、転移!!」
まさか、転移を体験できるとは! 腕を広げる彼に近づくとギュッと抱き寄せられた。
「あの?」
「ごめん。近づいてもらわないと一緒に転移できないから」
「なるほど、そうなのですね」
距離が近くてドキドキしてしまう。鼓動を聞かれてしまいそうだ。
「目を閉じていてくれるか。すぐに着くから」
「分かりました」
ギュッと目を閉じてしばらく待ってみる。何も起きていないような……?恐る恐る目を開けると覗き込む彼と視線がぶつかった。
「え!?」
「ごめん。いや、あの、ちゃんと閉じてるか確認をと思って」
「そうでしたか。閉じてますから大丈夫です!!」
ビックリした。目の色が水色に見えた。念の為と思って見上げた彼の目は濃いめの青色だった。あれ、見間違いかな?
「じゃあ、もう一度」
「はい!」
目を閉じて彼の腕を掴んだ。ふわっと体が浮くような感じが一瞬した後に、地に足がついた。
「もういいよ」
目を開けると路地裏にいた。人通りは少なくて、人目につかない場所だった。
「わぁ、本当に一瞬ですね!」
興奮気味に言ったあとでくっついたままだと気づいて、慌てて離れた。
「ごめんなさい!」
「いや、全然いい」
「いっ行きましょうか」
「うん」
大通りに出て、いつも目印にしている建物を探す。ここは……えーっと……
「右へ進むと駅ですよね?」
「そうだな」
という事は左に進めばいい。
「こっちです」
真っ直ぐに歩きながら曲がり角を確認する。いつもとは違う通りだから、違和感がある。
「あっ、ここここ」
ようやく知ってる道に出ることができて意気揚々と歩き出す。目印の花屋さんが見えてきた。
「ここを右に曲がります」
「若干薄暗いな」
「確かにちょっと治安悪そうですよね」
「いつも大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ? 人に出くわしたことないし」
少し進んだところにある建物の扉の前で立ち止まり「せんせーい」と声を上げながら中に入った。
「ノックしないのか?」
「ノックじゃ小さくて、先生気付かないんです。いつも2階にいるし。まぁ、これでも気付かない事が多いんですけどね」
ドタバタと足音がして、2階から先生が慌ただしく降りてきた。
「やぁやぁ、いらっしゃい。待っていたよ」
対面した2人を紹介することにした。
「こちらが先生ことシャルルさん。で、こちらがエミールさんです」
「はじめまして、エミールと申します」
「シャルルです。初めてという感じがしないね?」
先生が意味ありげに微笑んだ。あれ、知り合いだったのかな?
「……いえ、はじめましてです」
そう言ったエミール様に「あはは、そうだったね」と先生が笑いかけた。
「お知り合いでしたか?」
「いやいや。なぜか懐かしい感じがしちゃっただけだよ」
「そうですか」
「今日はパウンドケーキを焼いたんだ。一緒に食べよう」
「その前に……またこんなに散らかして」
ため息をつきながら先生の方を見ると「ねー? どうしてこうなるのやら」と不思議そうな顔をした。めちゃくちゃ他人事だ。
「お茶の前に片付けますね。エミール様がいらっしゃるんだから少しはきれいにしてるのかと思っていたのに」
「ちょっと忙しくて」
「この魔法書は本棚に戻していいですか?」
「うーん、上から2番目のやつはダメ。それ以外はいいよ」
「わかりました」
本を持って移動しようとするとエミール様が「いつもこんな感じなのか?」と怪訝な顔をされた。
「そうですね。こんな感じです」
「別にこき使ってるわけじゃないからね? ちゃんと報酬も支払ってるからね?」
先生が慌ててエミール様に説明すると「ならいいんだが……」と少しだけ納得した顔になった。
「エミール様は椅子に……あぁ、座るところもぐちゃぐちゃだ。もう少しお待ち下さいね」
「うん……」
「そんな怖い目でこっちを見ないで。僕もやるから」
「俺は別に何も……。これはどこへしまえばいい……ですか?」
なぜかエミール様までもが手伝ってくれて、散らかり放題だった部屋はきれいになった。
「これでしばらくは大丈夫ですね。エミール様、ありがとうございました」
「ほんとありがとね。さてと、ケーキの用意するね」
先生はいそいそとこの場から姿を消し、残された僕たちは座ることにした。
「嫌なことは嫌だと言った方がいいぞ?」
「別に嫌じゃないですよ? 先生が忙しくて他のことに手が回らないっていうのは何となく分かるんで」
「ルシアンがいいなら構わないんだが。俺ならこんな事させないのに」
「また言ってる。誘って頂いても無駄ですよ?」
「いや、そうじゃなくて」
「永久就職って事ー?」
トレイを持った先生がニヤけ顔で入ってきた。
「永久に王宮で働く?……無理」
想像して倒れそうになった。
「あはは、1ミリも伝わってなーい」
「そうですね……」
「がんばりたまえよ」
「言われなくてもそのつもりです」
「おぉ、いいね。僕の目に狂いはなかったということだ」
「なんですか? ふたりとも。僕は先生のお手伝いで忙しいですからね!」
二人が顔を見合わせながら笑うから何だか面白くない。ケーキにフォークを突き刺して勢いよく食べているとまた笑われた。なんだよ、意気投合しちゃって。僕が紹介したのに。
「俺のも食べるか?」
「たくさん作ったから大丈夫だよ」
「頂きますっ!」
「うんうん、食べな? ルシアンくんの食いっぷりは見ていて気持ちがいいからね」
「ですよね……食べさせたくなります」
「そんなに食いしん坊じゃないですよ、僕」
「「え?」」
「え? 普通じゃないですか?」
そう問いかけると歯切れ悪く「まぁ、うん、普通かな」と返された。
「ですよね?」
食べることは大好きだけど、そんなにたくさん食べられないもん。食欲は人並みだ。
和やかな会はエミール様の「そろそろ帰らないと」という一言でお開きになった。
「それじゃあ、俺はここで」
「うん、また遊びにおいで」
「はい、是非」
「頑張ってね」
バチンとウィンクを飛ばす先生に一瞬虚をつかれていたけれど「はい」と答えていた。
「ルシアン、気を付けて帰るんだぞ」
「はい」
彼が僕の方に近づいて耳元でこっそり「今度の休み、一緒にでかけよう」と囁いた。体を離した彼に向かってコクコク頷くと「約束だからな」と小さく呟いた。
「またな」
「うん、またね」
彼を見送って、まだ残っている紅茶を飲むために席についた。
「帰っちゃったね。寂しいね」
「そうですね……寂しいです」
「彼と過ごすのは楽しい?」
「楽しいですよ? とても」
「それはよかった」
先生はとても嬉しそうに笑いながらカップに口をつけた。彼と過ごすのは楽しい。だからもっと一緒に過ごしたいと考えてしまう。忙しい彼の時間を長く拘束できない事は分かっているのに。
「あともう一息……といったところかな」
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