18 / 19
最後に
しおりを挟む
「聡真、あーん」
口を開けて作ってもらったスープを食べさせてもらう。休みの間中、ほとんどセックスをしていた結果、あまり動く事ができなくなって、こうして甲斐甲斐しく彼に世話を焼いてもらっている。今までとの温度差がすごい。
「美味しい?」
「美味しい」
結局、離れて暮らすのは嫌だけど、向こうにも行きたいという僕の我儘を聞いてくれて、平日はこっちで、週末は向こうで過ごすという事になった。元々2個借りていたから別に問題はないらしい。以前住んでいたところは引き払うことになっている。
「ご馳走様でした」
最後まで全部食べさせてもらった。もういいよと言っても彼は譲らなかったのだ。甘すぎる。食べ終えた食器を片付けるために彼は部屋を出ていった。ずっとベッドの上にいると時間の感覚がなくなってくる。蜜月ってこんな感じなのかな。また扉が開いて史弥さんが入ってきた。
「すぐに必要なものってある?取りに行こうと思うんだけど」
「パソコンくらいかな。でも運ぶの大変だよね?」
「大丈夫だよ?新調してもいいけど」
「いや、まだ使えるから大丈夫」
「そう?じゃあ取ってくる」
「ごめんね、ありがとう」
「聡真はゆっくりしてて。だいぶ無理させたし」
そう言って僕の頬に触れる。ゆっくりと唇をなぞられて背筋がゾクリとなった。
「ダメだな」
「ん?」
「何回してもすぐに聡真が欲しくなる」
「すごいね、史弥さんは」
絶倫って言葉をよく聞くけれど、史弥さんがまさにそうだと思う。情事を思い浮かべて疼き出す僕も大概だとは思うけれど。
「する?」
「でも、さすがにしんどいでしょ?」
「エッチな気分になった。だから、しよ?」
「ほんと、聡真ってエロいよね。煽るのもうまいし」
「そんな事ないでしょ。キスして?」
「もう……本当に……ヤバい」
天を仰ぐ史弥さんの元へ近づいて唇に触れると、すぐに押し倒されてまた甘い時間を堪能した。
心配をかけたトキさんや姉、颯真さんに報告して、引越手続きを済ませ少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。
打ち合わせがあって外出した日、5月だというのに真夏のような暑さで今日はさっぱりしたものが食べたいなと夕飯のことを考えながら歩いていると僕の名前を呼ぶ声がした。振り返ると人混みの中に由弥くんがいた。どうして?記憶が蘇って体が震えだす。竦み上がる足をどうにか動かして人混みを掻き分けた。けれど、すぐに「待って」と言われて腕を掴まれた。
「ひっ、は……離して」
「ごめん。ちょっとでいいから時間もらえないかな」
首を振って拒絶した。また何かされるかもしれない。恐怖心が募っていく。
「最後に謝りたかったんだ」
「……」
「本当に少しでいいから」
最後にという言葉と必死な彼の姿に「人がいるところなら」という条件を出して、賑わっている近くのカフェに入った。向かい合って座り、彼の言葉を待つ。
「時間くれてありがとう」
「うん」
「俺のこと聞いてる?」
「海外に行くって」
「うん。二度と日本には帰らないことになってる。だから安心して。後、動画とか全部消したから」
「そう」
「本当に酷いことしてごめんね」
許すとは言えなくて目を伏せた。どんなに謝られても彼に対する恐怖心はずっと心の中にある。
「俺がこんな事言う資格ないけど、本当に好きだった」
「うん」
「兄貴と幸せになってね。今日はありがとう。会えて良かった」
立ち上がる彼を見て「元気でね」と声をかけた。クシャッと顔を歪めて泣きそうな笑顔で「聡くんも元気でね」と言って、彼は僕の前からいなくなった。あんな事がある前に彼と過ごした時間はとても楽しかったし、感謝もしている。もう会えないならその事を伝えてもよかったのではないか。いつかあの時言っておけば良かったと思うかもしれない。慌てて立ち上がって店の外へ出た。駅の方へ向かっているはずだ。辺りを見回しながら走ったけれど、彼は見つからず駅に着いてしまった。スマホを取り出して彼に電話をかけた。4コール目で「はい」という彼の躊躇いがちな声が聞こえた。
「今、どこ?」
『どこって……』
「伝えたいことがあるんだけど」
『何?』
「あのね、漫画貸してくれたり、遊んでくれたりしてありがとう」
『え?』
「すごく楽しかった」
『そっか』
「それはすごく感謝してる」
話しながら歩いていると、道路の向こう側で立ち止まっている彼が見えた。
「あっ、いた」
辺りを見回してキョロキョロする彼に、道路の向こう側にいることを伝えるとこっちを向いた。
『ありがとう。こんな俺にそんな事言ってくれて。待って、こっちには来ないで』
歩き出そうとする僕を彼が制した。
『別れるのが辛くなる。ごめんね』
「いや……」
『じゃあね。ありがとう』
ツーツーという電子音が鳴り響く。スマホを耳から離して画面をタップした。また顔を上げると、彼は雑踏の中に紛れて見えなくなっていた。
口を開けて作ってもらったスープを食べさせてもらう。休みの間中、ほとんどセックスをしていた結果、あまり動く事ができなくなって、こうして甲斐甲斐しく彼に世話を焼いてもらっている。今までとの温度差がすごい。
「美味しい?」
「美味しい」
結局、離れて暮らすのは嫌だけど、向こうにも行きたいという僕の我儘を聞いてくれて、平日はこっちで、週末は向こうで過ごすという事になった。元々2個借りていたから別に問題はないらしい。以前住んでいたところは引き払うことになっている。
「ご馳走様でした」
最後まで全部食べさせてもらった。もういいよと言っても彼は譲らなかったのだ。甘すぎる。食べ終えた食器を片付けるために彼は部屋を出ていった。ずっとベッドの上にいると時間の感覚がなくなってくる。蜜月ってこんな感じなのかな。また扉が開いて史弥さんが入ってきた。
「すぐに必要なものってある?取りに行こうと思うんだけど」
「パソコンくらいかな。でも運ぶの大変だよね?」
「大丈夫だよ?新調してもいいけど」
「いや、まだ使えるから大丈夫」
「そう?じゃあ取ってくる」
「ごめんね、ありがとう」
「聡真はゆっくりしてて。だいぶ無理させたし」
そう言って僕の頬に触れる。ゆっくりと唇をなぞられて背筋がゾクリとなった。
「ダメだな」
「ん?」
「何回してもすぐに聡真が欲しくなる」
「すごいね、史弥さんは」
絶倫って言葉をよく聞くけれど、史弥さんがまさにそうだと思う。情事を思い浮かべて疼き出す僕も大概だとは思うけれど。
「する?」
「でも、さすがにしんどいでしょ?」
「エッチな気分になった。だから、しよ?」
「ほんと、聡真ってエロいよね。煽るのもうまいし」
「そんな事ないでしょ。キスして?」
「もう……本当に……ヤバい」
天を仰ぐ史弥さんの元へ近づいて唇に触れると、すぐに押し倒されてまた甘い時間を堪能した。
心配をかけたトキさんや姉、颯真さんに報告して、引越手続きを済ませ少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。
打ち合わせがあって外出した日、5月だというのに真夏のような暑さで今日はさっぱりしたものが食べたいなと夕飯のことを考えながら歩いていると僕の名前を呼ぶ声がした。振り返ると人混みの中に由弥くんがいた。どうして?記憶が蘇って体が震えだす。竦み上がる足をどうにか動かして人混みを掻き分けた。けれど、すぐに「待って」と言われて腕を掴まれた。
「ひっ、は……離して」
「ごめん。ちょっとでいいから時間もらえないかな」
首を振って拒絶した。また何かされるかもしれない。恐怖心が募っていく。
「最後に謝りたかったんだ」
「……」
「本当に少しでいいから」
最後にという言葉と必死な彼の姿に「人がいるところなら」という条件を出して、賑わっている近くのカフェに入った。向かい合って座り、彼の言葉を待つ。
「時間くれてありがとう」
「うん」
「俺のこと聞いてる?」
「海外に行くって」
「うん。二度と日本には帰らないことになってる。だから安心して。後、動画とか全部消したから」
「そう」
「本当に酷いことしてごめんね」
許すとは言えなくて目を伏せた。どんなに謝られても彼に対する恐怖心はずっと心の中にある。
「俺がこんな事言う資格ないけど、本当に好きだった」
「うん」
「兄貴と幸せになってね。今日はありがとう。会えて良かった」
立ち上がる彼を見て「元気でね」と声をかけた。クシャッと顔を歪めて泣きそうな笑顔で「聡くんも元気でね」と言って、彼は僕の前からいなくなった。あんな事がある前に彼と過ごした時間はとても楽しかったし、感謝もしている。もう会えないならその事を伝えてもよかったのではないか。いつかあの時言っておけば良かったと思うかもしれない。慌てて立ち上がって店の外へ出た。駅の方へ向かっているはずだ。辺りを見回しながら走ったけれど、彼は見つからず駅に着いてしまった。スマホを取り出して彼に電話をかけた。4コール目で「はい」という彼の躊躇いがちな声が聞こえた。
「今、どこ?」
『どこって……』
「伝えたいことがあるんだけど」
『何?』
「あのね、漫画貸してくれたり、遊んでくれたりしてありがとう」
『え?』
「すごく楽しかった」
『そっか』
「それはすごく感謝してる」
話しながら歩いていると、道路の向こう側で立ち止まっている彼が見えた。
「あっ、いた」
辺りを見回してキョロキョロする彼に、道路の向こう側にいることを伝えるとこっちを向いた。
『ありがとう。こんな俺にそんな事言ってくれて。待って、こっちには来ないで』
歩き出そうとする僕を彼が制した。
『別れるのが辛くなる。ごめんね』
「いや……」
『じゃあね。ありがとう』
ツーツーという電子音が鳴り響く。スマホを耳から離して画面をタップした。また顔を上げると、彼は雑踏の中に紛れて見えなくなっていた。
322
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる