スキル一つの無双劇

しょうわな人

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001 才能無し転生する

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 俺は系拳けいけんという名のナニワ産まれの中国人だ。
 だけど、商人と芸人の町ナニワで産まれ育った俺には中国人としての意識は皆無と言ってもいい。実際、俺の家系はヒイヒイ爺さんの代にナニワにやって来て、ヒイ爺さんは既に日本人だという認識だったそうだ。
 それなのに家では日本語と中国語の2つを覚えさせられたのだが…… 

 そんな俺の家系だが、ある武術も継承されている。真家太極拳といい、全ての太極拳の流派の大元だと聞いている。眉唾ものだが……

 そんな太極拳を俺に教えてくれるのは祖父だが、祖父いわく俺には才能が無いらしい。唯一化勁だけは褒められたので、俺は5才から化勁だけを練習してきた。
 そんな俺は気がつけば達人である祖父の攻撃も全て化勁で流し、吸し、躱すほどの化勁を身につけたのだった。

 しかし、攻撃する術を持たない俺はそこまでの存在だった。受け流し、吸着し、躱しは出来ても相手を無力化出来ない俺は祖父からすれば出来損ないだという事になるらしい。
 幸いにして、俺の妹には素晴らしい才能があり、祖父の真家太極拳を余すことなく受け入れられる器だという事で、俺は家から放り出される事もなく、だが、かえりみられる事もなく自由に過ごす事が出来た。
 出来る妹には感謝しかない。しかし…… 毎月俺のバイト代から妹に奢る事になるのは悲しいが……

 俺は高校3年になり、18才となった。5月産まれの俺はコレで車の免許を取れるようになったと嬉しく思って帰宅していたら、人の悲鳴が辺りに響いた。

「キャーッ!!」
「危ないぞっ!!」
「早く、避けて!!」

 悲鳴の方向を見てみると赤信号にも関わらずに暴走するダンプカーとその前で驚きで動けないのか中学生らしい女の子が!

 俺は祖父いわく、ど下手くそな軽身功を使って女の子とダンプカーの間にその身を滑り込ませると、今日まで培ってきた化勁を突っ込んでくるダンプカーに使った。

 化勁はうまくダンプカーの進路をずらした。が、勿論の事だが真正面にいた俺は跳ね飛ばされてしまう。だが、飛ばされながら女の子から逸れているダンプカーを確認した俺の意識は急速に暗転したのだった……


 で、俺は今口に何かを含まされ、一所懸命にその含んだものから出る液体を飲んでいる。

『旨! 旨!!』

 飲むことに幸せを感じている俺は腹いっぱいになって、口から含んでいたものを離す。
 そんな俺の目はよく見えない。きっと、あのダンプカーに跳ね飛ばされた影響だろうと思うが、体に何も痛みを感じないのは不思議に思う。

 そんな俺は誰かに抱え上げられ? 

『俺、身長が182センチなんだが?』

 背中をトントンされている。そして、盛大にゲッフゥーとゲップが出た。

「ウフフフ、今日も大きなゲップが出ましたね、ケイン坊ちゃん。マリは嬉しいです」

 その女性は俺の首を支えながら抱きかえてベッドに横にしてくれた。俺はお礼を言うつもりで、言葉を発しようとしたけど、

「アー、ウー、」

 としか出ない? アレ? 言語障害か? 

「ウフフフ、ケイン坊ちゃん。お礼はいいんですよ。乳母として元気に育ってくださるのが最高のお礼ですからね」

 とその女性は俺に向かって言った。って、さっきから俺の事をケインって言ってるよな? もしかして…… 俺は生まれ変わったのか? で、今は赤ちゃんなのか? という事はさっき口に含んでいたものは…… 俺は赤面したのだろうが、赤ちゃんとはその名の通り赤いのである。なので、俺の赤面は乳母であるマリさんにはバレなかったようだ。

 しかし、目がまだ良く見えないという事は産まれて間もないのだろう。そして、乳母が居て俺を育ててくれているという事は裕福な家庭であると推察出来る。

 うん、暫くは様子見だな。俺は自分の産まれた場所を把握する為に赤ちゃんを演じる事になった。


 アレから3ヶ月。目もそれなりに見えるようになって来た。どうやら俺は貴族様のお家に産まれたらしい。
 乳母のマリは自身の子も育てながら俺の面倒も見てくれているようだ。マリは年齢は18才ぐらいに見えるのだが……  

 そして、我が家は伯爵家だと分かった。1度だけ俺の両親がやって来て、マリに

「我が家の息子を見させてやってるんだから光栄に思え」

「伯爵家の名に恥じない給金を与えているんだから、ちゃんと育てるのよ」

 とか言ってるのを聞いたのだ。っていうかこの両親の子だと思うと自分が情けなくなるな。前世の両親でもここまでひどくなかったぞ。前世の両親は放任主義ではあったけど、必要最低限の親としての義務ははたしてくれていたからな。
 放任主義は俺だけでなく妹に対してもだったので、違和感は無かったのだ。いい年して自分たちの世界に入り込むイチャラブバカップルだったのには妹と2人でウンザリしていたが。

 マリはそんな現世の両親に対して、

「はい、一所懸命にお育て致します!」

 と笑顔で返事をしていたけど、そんなに一所懸命にならなくても良いからねと俺は内心で思っていたのだった。

 そんな俺も生後半年を過ぎた辺りで目も良く見えるようになり、マリとマリの子(女の子)の顔もハッキリと分かるようになった。
 マリはパッチリ二重の大きな目がチャーミングな可愛い娘で、その娘であるマリの子も目が大きくて可愛らしい。その大きな瞳に映る俺自身はというと、前世と違って顔は四角くなく、細面と言っていい形で、目は碧、髪は黒よりの茶髪だった。目は奥二重だったのは前世と同じだったが。

 マリの子はミリアといい、俺が産まれた5日後に産まれたそうだ。俺を育てるのを拒否した母親が、ちょうど良いとマリを乳母として雇ったらしい。5日間、重湯しか飲んでなかった俺はマリの母乳をとても旨そうに飲んだらしい…… 恥ずかしい……

 マリに支払われている給金は月に銀貨5枚だそうで、普通の職人が月に銀貨3枚ぐらいの稼ぎらしいから、破格の報酬だと喜んでいたのを覚えている。マリの旦那はミリアが産まれる前に事故で亡くなったそうだ。途方に暮れながらも何とかミリアを産んで、これからどうしようという矢先にうちの母が乳母として雇うと言ってきたらしい。

 衣食住も確保されていて、自分の娘も安心して育てられる環境にマリは両親に感謝していると言っていた。まあ、マリが幸せを感じているならば良いかと俺は思ったよ。

 マリは先を見据えて貰っている銀貨5枚の給金のうち、4枚は貯金している。俺の乳母としていつまで雇って貰えるのかわからないからだろう。俺もそれが良いと思っている。腐っても貴族らしいから、物心ついた頃にはマリの乳母としての仕事も終わりになるだろうと思うからだ。
 その時に先立つ物を用意しておくのは大切だからな。

 そして、その時はやって来た。俺が3才になった時に両親はマリとミリアを家から追い出した。もう普通に食事をとれるようになっていたので、必要なくなったというところだろう。それでも、退職金として金貨2枚をマリに渡していたので貴族としての矜持は持ち合わせていたようだ。

 俺は屋敷を囲う塀の一部が壊れている場所から追い出されたマリたちに追いつき、金貨10枚を手渡した。
 父親の書斎からくすねておいたのだ。

「坊ちゃん、旦那様から金貨2枚の退職金を頂いたので、こんなには頂けません!」

「ケイン、ドロボーしちゃ、メッ!」

 2人からそう言われたけど俺は無理やり手渡して、マリに言う。

「いい? 2人とも良く聞いて。うちの親が話してたのは、2人ともこの町に居たら親が依頼したチンピラたちに襲われてしまうんだ。それで、渡した金貨2枚も今までマリが貯めたお金も奪うつもりなんだよ! だから、この金貨を使って今日中にこの町を出るんだ! 隣国に行けば大丈夫だと思う。足りないかな? 足りると良いんだけど……」

 うちの両親には貴族としての矜持なんか無かったのだ。たまたま執事が両親から命令されているのを立ち聞きした俺は、父親の書斎に忍び込み、そこにあった金貨10枚を握りしめてマリたちを追いかけたんだ。俺をここまで育ててくれた親を殺されてたまるか!

 俺の必死の形相を見て信じてくれたマリはその足で乗合馬車の停留所に向かい隣国へと旅立つと誓ってくれたよ。

 コレで一安心だ。2人を無事に見届けた俺は屋敷に戻りながら俺自身の事を考える。

 俺はどうやらイレギュラーで産まれたらしく、後継ぎの長兄に、補佐する立場の次兄、政略結婚用の長女、次女も揃っているので要らない子らしいのだ。

 殺されるような事はないだろうけど、身の振り方を今からしっかりと計画しておこうと思った。

 先ずは5才で受けるステータス表記神授の儀式からだな。コレを受ける事により自分のステータスを知る事が出来るようになる。次は7才のスキル神授だ。そのスキルが有能ならば飼い殺しのような状態になるだろうが追放されたりはしないだろう。だけど、無能と言われているようなスキルだと……



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