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第三章
後半戦1
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「さぁ!!お待たせしました後半戦――始まります!!」
それを聞いて、一度休憩を挟み、静まった観客達が再び沸き立つ。その沸き立つ様は、早くしてくれと言っているようだ。だが、戦いが始まるのを待っているのは観客だけではない。それは闘技者達も同じ。彼らはリングの上で、始まりの合図である太鼓の音が鳴らされるのを今か今かと血に飢えた獣のように待っている。
「へっへっへ……見ろよ、アレ」
「おいおい、ピクニックか何かか?」
「ありゃあ、良い鴨じゃねえか」
そんな血に飢えた闘技者達の目線の先には老人と青年がいた。彼らもまた闘技者、リングの上にいるのは当然だった。――当然なのだが、周りの者から見れば、かなり違和感があっただろう。
「あ、あわわわわ――」
「ほっほっほ……こりゃあ、狙われとるのう」
戦い前の緊張でガチガチになっている青年と見た目が弱そうな老人。前半戦のマルテのように屈強な男達の中にいかにも弱そうな者達は否応にも目立ってしまうのは仕方がないだろう。――前半戦でマルテを女だからと飛びかかっていった者達は瞬く間に瞬殺されたが――。
「おーい若いの、大丈夫か?」
「だ、だいっ……だいじょ、ぶ――です!!」
「お主、何か変なものでも食べたか?」
その様子にレギンの中に焦りが生まれてしまう
老人はともかく青年があんな様子では戦いなどできるはずがない。しかし、それを直す時間をハルベルトは与えてくれなかった。
「観客の皆さん?腹は膨れた?トイレに行った?グロテスクなもの見ても吐き出さないように注意して下さいね!?それでは、血で血を洗うバトルロイヤル後半戦――開始ィ!!」
雷が落ちたかと思うような音が空気を振るわせて耳に届く。
そして――それを始まりに、先程の太鼓の音よりも凄まじい音がレギン達の鼓膜を叩いた。
「「「「「鴨は俺が貰ったあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
「一斉にキタァ!?」
その光景は肉の壁が迫ってくるのを連想させる。ハッキリ言おう――地獄である。土煙を上げて突進してくる闘技者達にこちらは三人。正確には老人と青年を狙っているのだが、近くにいるレギンもこれでは巻き込まれるのは確実だ。
「ヒイィィィ!?」
「しっかりせんか、若いの」
「落ち着いてますね!?ご老公!?」
隣で今にも腰を抜かしそうな青年がいるというのに何時ものように髭を撫でる老人の落ち着きように突っ込んでしまう。
「パニックこそ最大の敵じゃよ。ホレ、立たんか……このままではお主、踏み潰されて肉だるまになるぞ」
「肉だるま!?」
男達に死ぬまで踏まれ続けるのを想像して顔が青くなる青年。最悪の想像に怯えるものの腰を抜かすことはなくなったようだ。
「どうするんですか!?なんかいっぱい来ますけど!?」
「ほっほっほ……落ち着け落ち着け、まずは逃げるぞ。ホレ槍だ」
「そんなもの何処から!?」
「さっき掏った」
「掏った!?」
いつの間にそんなことをして来たのか老人の手の中には槍があった。色々疑問が残るが――疑問しか残らないが――まずは、ここから移動するのが先だ。
「自分に着いてきて下さい!!」
「当たり前じゃ。ここで離れれば、儂らは脱落じゃからのう」
返事を聞かずにレギンが走り出し、その後を老人、青年という順で続く。
層が薄い場所目掛けて突破する。槍を投げて前衛をこかし、続く後続の足を止める。それだけあれば、突破するには十分だ。
「――ハァア!!」「ほいっ」
レギンと老人二人で道を切り開く。前衛が倒れ、勢いが止まらずに巻き込まれた後続を踏み倒し、穴を埋めようとする輩を斬り伏せる。
「畜生!!奴ら突破しやがった!!」
「おーーっと!?狙い撃ちにされていた三人が闘技者の網を潜り抜けたぁ!!しかーし、まだお前達を狙っている奴らはわんさかいるぞぉ!!」
移動しながら近づく奴らを斬り捨てる。老人の方を見れば、どうやったのか数人の男達が地面で気を失ってのびていた。
「ご老公、やりますね」
「お互いにのう」
互いに互いの腕を賞賛し合う。
老人の腕に驚愕する。やはり見かけ通りの人間ではなかった。老人の手には武器らしきものは一切ない。そして、地面に寝ている男達の体にも刺し傷などはないことから老人は素手で相手をしたのだと判明した。
だが、それは老人も同じだ。同時に責めてきた三人を刀剣類の内でも腕力と技術を必要とする両手剣をこの年で巧みに操れる青年に驚愕する。
「た、助けて~!!」
そんな二人の耳に情けない声が届く。平民の青年の声だ。
振り向けば、数人の闘技者に囲まれそうになっており、足が止まってしまっている。
「あ、忘れとった」
「こんな所でボケかまさないで下さい!!」
惚ける――たぶん本気で忘れていた――老人を置いて青年の元へと駆けつける。
「ご老公!!」
「分かっておるわい」
青年を囲んでいる闘技者を一掃する。二人がかりであったため、瞬く間に終わった。――が、戦いが終わったわけではない。直ぐに闘技者がレギン達に迫ってくる。
「かかれぇ!!お前らあ!!」
「ヒャッハー!!」
「戻ってきた二人に闘技者達が襲いかかる!!どうやら彼らは手を組んでいるようだー!!」
四方八方から迫る闘技者を、青年を挟んでレギンと老人で片っ端から対処する。
並走してくる闘技者を一太刀で吹き飛ばし、鉄槌を持つ闘技者には勢いに乗る前にこちらから責めて体勢を崩していく。
「ふ、二人とも「盾を構えろ!!小僧!!」――てヒィィ!?」
誰を指している言葉か分からなかったら危なかっただろう。レギン達に襲いかかっている闘技者達の後ろから、青年を狙って放たれた矢を反射的に掲げた盾が弾く。
「大丈夫ですか!?」
「弓兵がおるのか、お主達、気を付けろよ」
三人に影が掛かる。見上げればそれは大量の矢だった。
「上にご注意下さい!!」
「分かっておるわ」
最小限の動きで矢を撃ち落としていく。その矢は、近くにいる闘技者を巻き込んでの攻撃であり、彼らの味方ではないことは明らかだった。
そんな中、青年は助けて貰ったにも関わらず、その恩を返せない自分を情けなく感じていた。二人が話し合い、自分を守りながらも敵を一人、また一人と倒していく様を見てその感情はさらに強くなる。
覚悟を持ってきたはずだった。しかし、戦いが近づくにつれて、自分の覚悟がどんなに脆かったのかを自覚させられた。
充満する血の香りや本物の戦士の覇気に当てられて、頭も可笑しくなりそうになる。
「(あぁ、くそっ!!何て僕は弱いんだ。戦いというものがこんなに恐ろしいものだなんて……)」
自分を守ってくれている二人にも申し訳なくなる。こんな情けない男を助けるために力を振るってくれるなど、自分には勿体ない仲間だろう。
「(せめて、せめて少しでも役に立て!!)」
そんな仲間だけを戦わさせておいて良いのか?いいや、答えはノーだ。
恐怖はある。どんなに脆い覚悟だったか思い知った。本物の戦士というのを肌で感じた。膝は何度も着きそうになった。だが、その度に彼らに守って貰った。彼らの存在が自分を何とかこの場に繋ぎ止めていてくれた。いなければとっくに逃げ出しているに違いない。
その恩を返すことなく、彼らの足を引っ張り続けるのだけは自分が許せない。
この戦いだけは彼女のことを忘れよう。
この戦いのためだけに集まった、利害が一致しただけの仲間を守るために戦おう。
「ゼアアアアァァァァァァァァァァァ!!」
雄叫びを上げ、持っていた剣を投げる。
「な、何してるんですか!?」
突然の行動に気でも狂ったのかとレギンが振り返るが、目に理性が宿っているのを見てそうではないと思い直す。――では、何のために剣を投影したのか?答えは直ぐに分かった。
剣を投げた方向がより一層騒がしくなり、一つの情報がレギン達に届く。
――弓兵がやられた。
老人とレギンが青年に振り返る。
「言っていませんでしたが、僕は一番投擲が得意なんです」
その顔には恐怖がまだ残っている。
体は僅かに震え、虚勢を張ろうと必死になっているのが二人には分かった。だが――それは賞賛に値する行為だ。
「狙ってくる弓兵をお願いしても?」
「勿論です」
青年にとっての戦いがようやく始まった。
それを聞いて、一度休憩を挟み、静まった観客達が再び沸き立つ。その沸き立つ様は、早くしてくれと言っているようだ。だが、戦いが始まるのを待っているのは観客だけではない。それは闘技者達も同じ。彼らはリングの上で、始まりの合図である太鼓の音が鳴らされるのを今か今かと血に飢えた獣のように待っている。
「へっへっへ……見ろよ、アレ」
「おいおい、ピクニックか何かか?」
「ありゃあ、良い鴨じゃねえか」
そんな血に飢えた闘技者達の目線の先には老人と青年がいた。彼らもまた闘技者、リングの上にいるのは当然だった。――当然なのだが、周りの者から見れば、かなり違和感があっただろう。
「あ、あわわわわ――」
「ほっほっほ……こりゃあ、狙われとるのう」
戦い前の緊張でガチガチになっている青年と見た目が弱そうな老人。前半戦のマルテのように屈強な男達の中にいかにも弱そうな者達は否応にも目立ってしまうのは仕方がないだろう。――前半戦でマルテを女だからと飛びかかっていった者達は瞬く間に瞬殺されたが――。
「おーい若いの、大丈夫か?」
「だ、だいっ……だいじょ、ぶ――です!!」
「お主、何か変なものでも食べたか?」
その様子にレギンの中に焦りが生まれてしまう
老人はともかく青年があんな様子では戦いなどできるはずがない。しかし、それを直す時間をハルベルトは与えてくれなかった。
「観客の皆さん?腹は膨れた?トイレに行った?グロテスクなもの見ても吐き出さないように注意して下さいね!?それでは、血で血を洗うバトルロイヤル後半戦――開始ィ!!」
雷が落ちたかと思うような音が空気を振るわせて耳に届く。
そして――それを始まりに、先程の太鼓の音よりも凄まじい音がレギン達の鼓膜を叩いた。
「「「「「鴨は俺が貰ったあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
「一斉にキタァ!?」
その光景は肉の壁が迫ってくるのを連想させる。ハッキリ言おう――地獄である。土煙を上げて突進してくる闘技者達にこちらは三人。正確には老人と青年を狙っているのだが、近くにいるレギンもこれでは巻き込まれるのは確実だ。
「ヒイィィィ!?」
「しっかりせんか、若いの」
「落ち着いてますね!?ご老公!?」
隣で今にも腰を抜かしそうな青年がいるというのに何時ものように髭を撫でる老人の落ち着きように突っ込んでしまう。
「パニックこそ最大の敵じゃよ。ホレ、立たんか……このままではお主、踏み潰されて肉だるまになるぞ」
「肉だるま!?」
男達に死ぬまで踏まれ続けるのを想像して顔が青くなる青年。最悪の想像に怯えるものの腰を抜かすことはなくなったようだ。
「どうするんですか!?なんかいっぱい来ますけど!?」
「ほっほっほ……落ち着け落ち着け、まずは逃げるぞ。ホレ槍だ」
「そんなもの何処から!?」
「さっき掏った」
「掏った!?」
いつの間にそんなことをして来たのか老人の手の中には槍があった。色々疑問が残るが――疑問しか残らないが――まずは、ここから移動するのが先だ。
「自分に着いてきて下さい!!」
「当たり前じゃ。ここで離れれば、儂らは脱落じゃからのう」
返事を聞かずにレギンが走り出し、その後を老人、青年という順で続く。
層が薄い場所目掛けて突破する。槍を投げて前衛をこかし、続く後続の足を止める。それだけあれば、突破するには十分だ。
「――ハァア!!」「ほいっ」
レギンと老人二人で道を切り開く。前衛が倒れ、勢いが止まらずに巻き込まれた後続を踏み倒し、穴を埋めようとする輩を斬り伏せる。
「畜生!!奴ら突破しやがった!!」
「おーーっと!?狙い撃ちにされていた三人が闘技者の網を潜り抜けたぁ!!しかーし、まだお前達を狙っている奴らはわんさかいるぞぉ!!」
移動しながら近づく奴らを斬り捨てる。老人の方を見れば、どうやったのか数人の男達が地面で気を失ってのびていた。
「ご老公、やりますね」
「お互いにのう」
互いに互いの腕を賞賛し合う。
老人の腕に驚愕する。やはり見かけ通りの人間ではなかった。老人の手には武器らしきものは一切ない。そして、地面に寝ている男達の体にも刺し傷などはないことから老人は素手で相手をしたのだと判明した。
だが、それは老人も同じだ。同時に責めてきた三人を刀剣類の内でも腕力と技術を必要とする両手剣をこの年で巧みに操れる青年に驚愕する。
「た、助けて~!!」
そんな二人の耳に情けない声が届く。平民の青年の声だ。
振り向けば、数人の闘技者に囲まれそうになっており、足が止まってしまっている。
「あ、忘れとった」
「こんな所でボケかまさないで下さい!!」
惚ける――たぶん本気で忘れていた――老人を置いて青年の元へと駆けつける。
「ご老公!!」
「分かっておるわい」
青年を囲んでいる闘技者を一掃する。二人がかりであったため、瞬く間に終わった。――が、戦いが終わったわけではない。直ぐに闘技者がレギン達に迫ってくる。
「かかれぇ!!お前らあ!!」
「ヒャッハー!!」
「戻ってきた二人に闘技者達が襲いかかる!!どうやら彼らは手を組んでいるようだー!!」
四方八方から迫る闘技者を、青年を挟んでレギンと老人で片っ端から対処する。
並走してくる闘技者を一太刀で吹き飛ばし、鉄槌を持つ闘技者には勢いに乗る前にこちらから責めて体勢を崩していく。
「ふ、二人とも「盾を構えろ!!小僧!!」――てヒィィ!?」
誰を指している言葉か分からなかったら危なかっただろう。レギン達に襲いかかっている闘技者達の後ろから、青年を狙って放たれた矢を反射的に掲げた盾が弾く。
「大丈夫ですか!?」
「弓兵がおるのか、お主達、気を付けろよ」
三人に影が掛かる。見上げればそれは大量の矢だった。
「上にご注意下さい!!」
「分かっておるわ」
最小限の動きで矢を撃ち落としていく。その矢は、近くにいる闘技者を巻き込んでの攻撃であり、彼らの味方ではないことは明らかだった。
そんな中、青年は助けて貰ったにも関わらず、その恩を返せない自分を情けなく感じていた。二人が話し合い、自分を守りながらも敵を一人、また一人と倒していく様を見てその感情はさらに強くなる。
覚悟を持ってきたはずだった。しかし、戦いが近づくにつれて、自分の覚悟がどんなに脆かったのかを自覚させられた。
充満する血の香りや本物の戦士の覇気に当てられて、頭も可笑しくなりそうになる。
「(あぁ、くそっ!!何て僕は弱いんだ。戦いというものがこんなに恐ろしいものだなんて……)」
自分を守ってくれている二人にも申し訳なくなる。こんな情けない男を助けるために力を振るってくれるなど、自分には勿体ない仲間だろう。
「(せめて、せめて少しでも役に立て!!)」
そんな仲間だけを戦わさせておいて良いのか?いいや、答えはノーだ。
恐怖はある。どんなに脆い覚悟だったか思い知った。本物の戦士というのを肌で感じた。膝は何度も着きそうになった。だが、その度に彼らに守って貰った。彼らの存在が自分を何とかこの場に繋ぎ止めていてくれた。いなければとっくに逃げ出しているに違いない。
その恩を返すことなく、彼らの足を引っ張り続けるのだけは自分が許せない。
この戦いだけは彼女のことを忘れよう。
この戦いのためだけに集まった、利害が一致しただけの仲間を守るために戦おう。
「ゼアアアアァァァァァァァァァァァ!!」
雄叫びを上げ、持っていた剣を投げる。
「な、何してるんですか!?」
突然の行動に気でも狂ったのかとレギンが振り返るが、目に理性が宿っているのを見てそうではないと思い直す。――では、何のために剣を投影したのか?答えは直ぐに分かった。
剣を投げた方向がより一層騒がしくなり、一つの情報がレギン達に届く。
――弓兵がやられた。
老人とレギンが青年に振り返る。
「言っていませんでしたが、僕は一番投擲が得意なんです」
その顔には恐怖がまだ残っている。
体は僅かに震え、虚勢を張ろうと必死になっているのが二人には分かった。だが――それは賞賛に値する行為だ。
「狙ってくる弓兵をお願いしても?」
「勿論です」
青年にとっての戦いがようやく始まった。
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