浮気癖夫が妻に浮気された話。

33

　和樹が自分の作った料理が食べたいと言った。

（空から槍でも降るのかしら…）

　そんなことを考えながら、いつも通りに……いや、いつも作っていた通りに野菜を洗う。

　なにがいいかと聞くと『味噌汁つくって』と返ってきた。リクエストがきたのは初めてなので戸惑りつつも、作っている。


「……出来たわよ」

　居心地が悪い。ずっと和樹に見つめられていた。本当に、穴が空くほどだ。

「美味うまそう」
「どうも。……どうぞ」

　いただきます、と自分の分を食べ始めようとしたときだった。

「…いただきます」
「ーーーえ？」

　今、和樹が『いただきます』って言ったような。

「……なんだよ」
「いただきますって言ったから」
「言ったら悪いのかよ？」
「そうじゃなくて」

　嫌味な言い方をしなくていいのに。せっかく楽しい思い出で終わらそうと思ったのに。

「初めてでしょう、貴方がちゃんといただきますって言うのは。…別にどうでもいいことだけれど」

　冷めた口調で言うと、それまでの言い方が嘘だったかのように和樹が眉を下げた。

「そうだよな、…ごめん。今まで、ごめんな」