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しおりを挟む「今日も遅くなるから」
その声に、香織は顔を上げた。
いつもなら黙って「分かりました」と言い、浮気のことなど何も探らずに「お仕事頑張ってね」と言う。
けれどその日の香織は違った。
「…今日が何の日なのか覚えてないの?」
「はぁ?…なにかあったか?」
その日は、結婚記念日だった。まさかこんな日まで、他の女に会う気なのだろうか。
というか、覚えてすらいないのだろうか。
「…おい?香織?」
「……なんでもないわ。逝ってらっしゃい」
まだ交通事故か何かで死んでくれた方が気持ち的には救われる。
「……本当、何であんな人と結婚したのかしら…」
そんなの覚えていない。ただ、この人となら…上手くいくと思っていたのだ。
結婚前はあんなに自己中で、最低な浮気野郎だとは知らなかった。やはり段階を踏んで、同棲から始めるべきだったのだ。
「はぁ…。……自分のためだけに昼食を作ろうなんて思わないわね」
この時点でまだ、香織は笹野陽一と浮気はしていなかったのだ。
あの電話が、笹野から来るまでは……そう、ただの知り合い程度だったのだ。
元カレではあるが。
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