23 / 37
23
しおりを挟む「俺はこんな茶番を観るためにここへ来たわけじゃないんだが」
重苦しい雰囲気ぶち破ったのは、ローレンス公爵だ。
「オルキス、おいで?一緒に帰ろう」
オルキス殿がビクリと揺れて、俺の背中に隠れる。ちょっとやめてくれよ、なんて思いながら睨まれるのももう馴れた。
「おい貴様、とっととオルキスを解放しろ」
ローレンス公爵の目はどうなっているのだろう?これではまるで俺がオルキス殿を捕らえてるみたいだろう。
「あの、お父上がいらっしゃったみたいですし、お帰りになられては…?」
こればかりはリオナも口添えしてくれる。
「そうよ、オルキス。これ以上私の婚約者に迷惑をかけないでちょうだい」
「…お前は…エドワードは、私の味方だよな…?」
うーん、どうしたものか。
果たして俺は二十四時間後に生きているのだろうか。
「オルキス、確かにやり過ぎたかもしれない!」
お?
「そうだよな、この歳でいきなり共に風呂は不味かったかもしれない!」
何やってんだこのオッサン……んんっ、ローレンス公爵、何やってるんですか。
「っ…私は子供ではありません!それに今まで無視していたのにっ!」
「それはお前が可愛すぎて」
「可愛くありません!!」
「いいや可愛い、私はお前を婿にはやらんからな」
「公爵家の嫡男が婿には行きません!」
「最も、他の女にやる気もないが」
何いってんの?このオッサン。もうオッサンでいいだろ。
これこそ茶番だ。
「ちょっと!どうでもいいけど、エドワード!早くこの女を帰してよ!!」
と、ミーシャが突然叫ぶ。四方八方からの冷たい視線に俺はウンザリしてしまう。
「…エドワード」
「……はい?なんですか」
まだ匿えと言われるのかと思えば、さすがオルキスだ。
「俺、あのそばかす女、きらい。醜い」
ーーそばかすはミーシャのコンプレックスの一つ。それを見事言い当て、人の神経を逆なでする。
さすが、と叫びたくなる。
「なによアンタ!!公爵家だか何だか知らないけどね!アンタの方がみに……くい……し……っ…」
最後の方はオルキス殿の美貌に圧倒され、弱くなったが。少なくとも心は多少歪んでおろうと、オルキス殿の方が綺麗だということに変わりはない。
「ねぇ、エドワード様?お選びになって?」
リオナの声が響き渡る。どこか静かな物言いなのに、ミーシャが叫んだときよりもよく聞こえる。
「私とその女と。どちらをこの場から追い出すか、お決めになって下さいませ」
そんなこと考えるまでもない。
「もちろん、リオナが出ていく謂れはない、…おい」
近くのメイドに声をかける。その女はミーシャと仲が良かったと、その頃の俺は気付かなかったが。
「あんまりですわ!」
「は?」
まさか、この女までも当主の息子である俺に逆らうとは。なんなんだ、この家は?この屋敷のメイドは、壊れているのか?それとも俺が悪いのか?
「ミーシャに散々夢をお与えになり、都合が悪くなれば逃げるのですか!私たちは平民ですが、それでも人間ですわ!」
なんと言えばいいのだろう。平民は平民だ。平民は人間だが、所詮貴族よりも劣る。それが平民だ。
「…さすが、平民ですわね」
リオナがふふっと笑う。その顔に見惚れ、俺は言葉を更に失った。
「なんですって!?」
「少なくとも貴族の子女のメイドであれば、どれだけ物申したいことがあろうと客人の前で喚きはしませんわ。それに、平民が伯爵家の女主人?正妻?夢を見るのもいい加減になさい。身分も地位も名声も出身も、学も教養も礼儀も作法も、エドワード様に相応しいのは私よ」
胸を張って言える彼女はすごいのだと思う。凛としていて、それを妬ましく思った自分が本当に恥ずかしい。彼女は彼女なりの努力があって、それを手に入れたのに。
「屋敷のメイドが夢を与えられて、それを受け入れるのが間違っているのよ。私という婚約者、公爵家の令嬢に平民が勝てるとでも?」
「え、エドワードだっているし、真実の愛があれば…」
「例えエドワード様がいても私は裏切り者を容赦しないわ。貴方諸とも、命を奪ってあげてもよかったのよ?」
「なっ、犯罪よ!!?」
「私が直接手下すわけでもないもの」
そう言ってうっとりと笑う彼女が手を振り上げるが早いか、思いきりミーシャの頬を叩いた。
ご丁寧に、ネオハルト公爵とは反対の頬を。
これでミーシャの顔はまるでハムスターのようにパンパンだ。
「お父様は貴女のような薄汚れた人間が触れていいものではないのよ、もちろん私も、エドワード様も」
「いった…!何するのよ!!!」
「私の平手打ちが甘いと思うほどに、貴方は苦しむでしょうね。オルキスを貶そうとしたのだから」
あ、と思いローレンス公爵の方を見る。同様にミーシャも同じ方を見て、顔が真っ青になっている。
卒倒しなかったことを誉めてやろう。
0
お気に入りに追加
2,029
あなたにおすすめの小説
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前
地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。
あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。
私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。
アリシア・ブルームの復讐が始まる。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
幸せなのでお構いなく!
棗
恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。
初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。
※なろうさんにも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる