上 下
22 / 37

22

しおりを挟む


「いやっ、あの、これは…!」
 喉から上手いこと声が出ないそんな俺をオルキスは呆れたように見つめ、リオナはネオハルト公爵の元へと駆け寄った。
「お父様!」
「あぁ、リオナ……誰だ?その薄汚い女は」
 明らかにミーシャのことだろう。確かに、当たり前ながら質素な服は黒く汚れており、埃を被っている。どうやら本格的に侵入してきたようだ。
「さぁ?エドワード様のお知り合いの方ではございませんの」
 そう言ってにこりと笑うリオナ。きっと結婚したら、俺は尻に敷かれるのだろうな、なんて想いながら少し俺は嬉しくなったり……言っとくけど、別にそういう趣味じゃないからな?
(て、やばい…!)
 このままではそんな夢物語すらも思えなくなる。
「…アンタ、その女の父親なの?」
 ーー絶句した。公爵令嬢であるリオナをその女扱いし、公爵をアンタなどと、平民ごときが。
「ふざけんじゃないわよ、私とエドワードの家から出ていって!」
 そう言ってネオハルト公爵の腕をミーシャが掴んだ途端、何かがぶちっと切れる音がした。それは俺のものではない。
「…汚らわしい手で触るでない!!!」
 パチン、とまで甘くない。バチンと平手打ち。
 ネオハルト公爵は潔癖で有名だ。平民が触れたことに対してではなく、埃まみれの手で、汚い言葉を使って、ネオハルト公爵とその娘の公爵令嬢を罵ったのだ。
「なっ!ぼ、暴行罪で訴えてやる!!!」
 それこそ夢見がちな言葉に、その場にいたミーシャ以外の人間は何いってるんだコイツ?という顔をして呆然としている。
「今では貴族も罰せられるのよ!そんなことも知らないの!?ふん、やっぱり私の方がエドワードに相応しいわね!」
 ーー今更感じる、俺の愚行。
「…エドワード君」
 ネオハルト公爵の視線が痛い。
「…はい」
「…驚きだよ。君はもう少し賢いと思っていたが」
「…はい」
「ねぇエドワード、目を覚まして!!」
 覚ましてるさ。お前のおかげで目がパッチリだよ、ミーシャ。
「…貴族が裁かれるようになったというのは、不平な税の徴収であったり、理不尽な殺人のことだ。公爵が平民一人を平手打ちしたところで犯罪になるわけがない」
「なっ、そんなのってないわ!不公平よ!!」
「それが階級制度というものだ!!!」
 そんなことも知らずによくこの国で今まで暮らしてこれたこと、奇跡じゃないのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

【完結】私は関係ないので関わらないでください

紫崎 藍華
恋愛
リンウッドはエルシーとの婚約を破棄し、マーニーとの未来に向かって一歩を踏み出そうと決意した。 それが破滅への第一歩だとは夢にも思わない。 非のない相手へ婚約破棄した結果、周囲がどう思うのか、全く考えていなかった。

わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗
恋愛
 伯爵夫人のリディアは伯爵家に嫁いできて一年半、子供に恵まれず悩んでいた。ある日、リディアは夫のエリオットに子作りの中断を告げられる。離婚を切り出されたのかとショックを受けるリディアだったが、エリオットは三ヶ月中断するだけで離婚するつもりではないと言う。エリオットの仕事の都合上と悩んでいるリディアの体を休め、英気を養うためらしい。  三ヶ月後、リディアはエリオットとエリオットの幼なじみ夫婦であるヴィレム、エレインと別荘に訪れる。  久しぶりに夫とゆっくり過ごせると楽しみにしていたリディアはエリオットとエリオットの幼なじみ、エレインとの関係を知ってしまう。

処理中です...