Cocktail Story

#017 XYZ

   一人朗読用台本。
   #016 スクリュードライバーの続き。

   男性でも、女性でも演じられます。
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   初めて君と出会った日。

   一生忘れられない、大切な、思い出の日。

   あの日、君に恋をした。

   あの日、君に心を奪われた。

   あの日からずっと、君に心を奪われたまま、君を愛して、愛して、愛してきた。

   君が好きだ。

   大好きだよ。

   愛してる。

   ずっと一緒にいたい。

   離れたくない。

   死ぬまで、ずっと傍にいたい。

   死んでからも、その先も、そのもっともっと先も……

   生まれ変わったとしても、君の隣にいたいんだ。

   何度人生を繰り返すことになったとしても、君と巡り会いたい。君と恋をして、愛し合いたい。

   永遠に、君のものでいたいんだ。

   こんなの、重たいよね。

   でも、君以上に愛せる人は、もういないから。

   君のことしか、愛せなくなってしまったから。

   もう、君しかいないから。

   ……君は、どうなのかな。

   君は、ずっと愛してくれる？

   それとも、誰かほかの人を愛してしまう？

   ……嫌だなぁ。

   それだけは……嫌だな。

   君がほかの人を見てしまったらどうしよう。

   君が、ほかの人を愛してしまったらどうしよう。

   最近は、そんな事ばかり考えてしまうようになってしまった。

   幸せなのに、幸せを感じれば感じるほど、怖くなる。

   怖い。怖い。怖いよ。

   君に、離れて欲しくない。

   ずっとずっと、傍にいてほしいのに……

   そうして貰える自信が無い。

   自分に自信が持てないから、不安になってしまう。

   だからね、考えたんだ。

   君が離れていかない方法を。

   ……そしたらね、気づいたんだよ。

   君が、ほかの人のことを考えられないようにしてしまえばいいんだって。

   君の心を、奪ってしまえばいいんだって。

   初めて君と出会った時のように。

   君から、全てを奪ってしまえばいいんだ……ってね。

   だからあの夜……そう、あの夜だよ。あの夜、いつものバーの、いつもの席で過ごしたあの夜のことだ。

   あの時一緒に飲んだカクテル。君は覚えてる？

   あのカクテルの名前の由来にはね、「これ以上ない」っていう意味があるんだよ。それから「もう終わり」っていう意味もあるんだ。

   それ以外にもね、たくさん意味があるんだって。

   でも、でもね。君にいちばん伝えたいのは、本当に伝えたい気持ちは、そんなものじゃないんだ。

   君は、たぶん知らなかっただろうね。だから、敢えて教えてあげなかったんだよ。敢えて、内緒にしたんだ。

   ちゃんと自分で意味を調べて、知って欲しかったから。

   君への気持ちを、君自身から受け取って欲しかったから。

   あのカクテルの意味を、気持ちを、君が知ったら……どんな顔をするのかな。

   驚いてくれるかな。泣いてくれるかな。笑ってくれるかな。

   いずれにしろ、その顔を直接見られないのが残念だよ。

   でもね、こうするって決めたんだ。

   君の目に、脳裏に、体に、心に、全て刻みつけたい。

   そして、最後に君の全てを奪ってしまうんだ。

   君は、全てを奪われたまま、何も忘れられずに生きていくんだよ。

   そうすることで、君はもうどこへも行けない。離れるなんて考えられなくなってしまう。

   歪んでいるよね。

   そのうえ醜くて、ずるくて、最低だって、君は思うかな。

   でもきっと、全てを知った後も、君は離れられない。嫌いになれない。

   ただひたすらに、もがいて、苦しみながらも、愛して愛して、愛し続けるの。
 
   大丈夫。一人じゃないよ。
   離れていても、心は傍にいる。もっともっと、奥深い場所で、繋がっているからね。



   君との別れを選んだ日。

   君と幸せな毎日を過ごしたマンションの一室から、体を投げ出した。

   落ちていく感覚、地面に体が打ち付けられる感覚、今まで感じたことの無い痛み……全て、まだこの体が生きていることの証だった。

   君を愛してきた体が、君が愛してくれた体が……死んでいく証だった。

   激しい雨が降りしきる中、自分の体がどんどん冷たくなっていくのがわかる。

   意識が遠のいていきながらも、思い浮かぶのは君のこと。

   最後の最後まで君のことを思いながら逝けるなんて、幸せだなぁ……

   あの日出会った時から今この瞬間も。そして、これからもずっと…。

   この体は、心は、全て…。君だけのものなんだ。

   でも…ごめんね。全部君のものなのに、この体だけは、残してあげられそうにないや。

   でも心配しないで。体を失っても、心は失わない。体は死んでしまっても、心は死なない。

   君を愛してきた、そしてこれからも愛し続けるこの心だけは、永遠に生き続ける。

   愛してる。

   愛してるよ。

   これからもずっと、ずっと……

   君だけを愛してる。

   永遠に………




   君だけを、愛してる。


ー完ー



   今回のカクテル 「XYZ」

   ラムベースのショートカクテル。
   ホワイトラム、ホワイトキュラソー、レモンジュースで作られる。度数は約25～28度と高めだが、程よい甘味と酸味のバランスで飲みやすい口当たり。

 「X」「Y」「Z」はアルファベットの並びで最後になることから、「これ以上ない」「究極のカクテル」という意味があると言われている。
    また、「これで終わり」という意味も持つ為、一日の終わりを飾るカクテルや、映画などのワンシーン等でも飲まれることもあるとか。
    更には、このカクテルのレシピは元々非公開だったこともあり、あるバーテンダーが3種類の材料で作ったカクテルを提供する際に、そのレシピを当てるクイズを出していたという。つまり、X、Y、Zは方程式の3つの解を意味していて、本当の意味は「ナイショ」という説も語られている。

「XYZ」は様々な名前の由来や意味を持つカクテル。

   そんなカクテルに込められた言葉は ……

 「永遠にあなたのもの」