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第1章 石ころ大好き少女の夢への第一歩
閑話:大切なもの
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◆◆◇◆◆
太陽が地平線の下に顔を隠し、すっかり闇夜に支配された空に月が顔を出す時間帯。優しい光が大地を照らす中、シャーリー達の拠点である家が浮かび上がる。
シャーリーはアネットを見送った後、ドロシアと一緒にポーション作りに夢中になって作業をしていた。
しかし、外はすでに夜。月明かりがあるとはいえ、視界が悪い。
『もうすっかり夜ね。シャーリー、カンテラに明かりを灯すわよ』
「はーい」
ドロシアに言われ、シャーリーはカンテラを手に取った。アネットが手配してくれたものであり、中には赤い石がある。
彼女はそれを小さな金槌で叩いた。すると途端に火が灯り、明かりが広がっていく。
『へぇー、結構いいものをもらったわね』
「ガラスと魔石がちょっと特殊みたいだよ。だからこのカンテラ一つあれば困らないって言ってた」
『いいわねー。私が研究している時にこういうの欲しかったわ』
しみじみと昔を思い出すドロシアからシャーリーは目を外し、煮立っている釜を見た。
綺麗な黄金色の液体が釜いっぱいに入っており、彼女はそれに頬を緩ませる。
一生懸命に作ったポーションは、先ほど作った品物よりもいい品質になりそうだ。もしかしたらギルドで高く売れるかも、とさえ考えてしまう。
完成をウキウキしていると、カンテラを見つめるドロシアが声をかけてきた。
『ところでシャーリー、あの袋は何なのかわかる?』
「袋?」
シャーリーは言われて荷物置き場に目を向けた。たくさんの木箱が積み上げられている一画の端にパンパンに膨らんでいる袋がある。
気になった彼女は作業の手を止め、袋を開けて中身の確認をした。
中には鉱物があり、黄金に輝く何かが石についている。
それを見たシャーリーは、すぐに日中のことを思い出した。
「あ、これ黄鉄鉱だ」
『ああ、あのいけ好かない奴が持ってた鉱物ね。なんでここにあるのかしら?』
「うーん、わかんない。間違って荷物に混じってたのかな?」
『まあ、何にしても後で確認しましょうか。もらえるならもらってもいいし』
「ダメだよドロシアさん。こういうのはちゃんと買わないといけないよ」
『はいはい、わかったわかった。とにかく確認は明日ね』
確認を終え、袋を持ってシャーリーは釜の前に戻る。だいぶいい感じに混ざり合ったのか、薬液がとても輝いて見えた。
品質のチェックをするために道具を使ってちょっとだけすくい取る。
手の甲に一滴垂らし、輝きと透き通りを見た。とても美しい輝きであり、その黄金は不思議な透明性がある。効果はさすがにわからないが、一般的に流通している品よりも上質だと思えた。
ふと、ほのかに甘い香りが鼻孔に飛び込んできた。嗅ぐと途端に気分が晴れ、疲れが吹き飛んだ。
どうやらリラックス効果もあるようで、それに気づいたシャーリーはその匂いに幸せな気分になっていた。
「いい匂い~。これ、もしかして赤い果実のものかな?」
『かもしれないわね。確かあれ、アプルムという名前の果物だったわね。本来は様々なスイーツ料理に使われるものだけど、生のままでも食べられるわ。でもハズレはすっごく酸っぱいわよ~』
「えー、本当! ハズレは嫌だけど、食べてみたいなぁー」
シャーリーは中庭にある大木を見た。その枝先にはアプルムがたくさんなっており、どれもこれもが赤く熟している。
おそらく食べ頃なのだろう。彼女はついつい口の中をヨダレいっぱいにしていると、ドロシアが呆れた口調でこういった。
『楽しみにするのもいいけど、ちゃんと錬成に集中してね』
「はーい」
シャーリーはそういって何気なく釜の中を見た。
輝く黄金はさらに輝き、いい感じに仕上がりつつある。
彼女は気を良くし、鼻歌を溢し始めた。楽しそうに釜の中をかき混ぜながら頃合いを伺う。
ドロシアはそんなシャーリーを見て、大丈夫そうだと感じていた。少し離れ他の作業でもしようかと考え始めたその瞬間、嫌な声が響き渡る。
「ヂュウゥゥゥゥゥ!」
その嫌な声はネズミに似ていた。しかし、ネズミにしては妙に力強い。
シャーリーは何だろう、と思い振り返る。すると出入り口に一匹、とても大きなネズミっぽい生物がいた。
「ふえっ! な、何っ?」
『あ、こいつは!』
「し、知ってるの?」
『バル・マウよ。別名〈錬成崩れ〉と呼ばれてるモンスターよ!』
「何それ?」
『どこからともなく現れるはた迷惑なやつ。特に錬金術の作業をしていると邪魔してくるの!』
「えー!」
何はともあれモンスターと鉢合わせたシャーリーは、震えながら身構えた。
バル・マウはそんなシャーリーににじり寄っていく。狙いはもちろん、後ろにある大釜だ。
どうやって守ろうか考える。だが、戦う力がないシャーリーでは大釜を守れるはずはない。
『シャーリー、今回は諦めましょう』
「え!?」
『もったいないけど、あなたがケガしたら意味ないわ。ここはおとなしく――』
「やだっ! せっかく作ったんだもん。こんなことで引き下がりたくない!」
『だけど――』
「ドロシアさんが、友達が教えてくれた錬金術だもん。しっかり成功させたい。だから、だからあんなやつに邪魔されたくないの」
ドロシアはシャーリーの想いを聞き、考える。
嬉しくもあるが、戦う力がない。そんな状態で守り切るなんて不可能だ。
だが、だからといって彼女の思いを無碍にしたくない。
どうする、と考える。考えに考え、そしてある作戦を思いついた。
『わかった。じゃあシャーリー、私があいつの気を引くわ。その間にどうにか撃退して』
「え? どうやって?」
『なんでもいい。とにかくあいつを追い払えればいいわ』
シャーリーのためにドロシアがバル・マウに突っ込もうとする。
だが、そうすればケガをする可能性が高い。そうなる前にどうにかできないか、と彼女は考えた。
ふと、足下に黄鉄鉱が入った袋を見つける。少し見つめた後、シャーリーは意を決した。
「この、出ていけー!」
中に入っていた鉱物を掴み、シャーリーはバル・マウに向けて放り投げる。
投げられた黄鉄鉱は額に当たり、バル・マウは悲鳴を上げた。
だがシャーリーはお構いなしに投げる。ドロシアをケガさせないために、そしてポーションを守るために懸命に攻撃した。
「ヂュヂュウゥゥゥゥゥ!」
堪らなくなったのかバル・マウは逃げ出す。
それを見たシャーリーは大きく肩を動かしながら呼吸する。懸命に息を吸い、震えている身体を抱きしめた。
ドロシアはそんなシャーリーを見て、『大丈夫?』と声をかける。するとシャーリーは頷き、微笑みながら顔を上げた。
「うん。ドロシアさん、ケガはない?」
『おかげさまでね。でも、よかったの? あなたにとって石は大切なものなんでしょ?』
ドロシアの問いかけに、シャーリーは頷く。
そう、シャーリーにとって石は大好きなものであり、大切なものだ。
だがそれでも、シャーリーには守りたいものがあった。
「でも、ドロシアさんのほうが大切だよ」
『どうして?』
「私の好きなものを、褒めてくれたから」
そう、ドロシアはシャーリーの鉱物知識を褒めた。彼女にとってそれはとても嬉しかったことであり、だからこそ鉱物よりもドロシアを取ったのだ。
それに気づいたドロシアは、とても嬉しく感じたのだった。
『やれやれ、手のかかる子ね』
絶対的な信頼とは、どういうことで築かれるのか。
そのことを改めて学んだドロシアは思わず呆れた。だがおかげで、シャーリーのことを認められる。
まだまだ可能性のタマゴ。だからこそ、ドロシアはこの子の成長を見守り支えていこうと決意した。
『仕方ないわねー、迷宮探索から帰ってきたら新しいレシピを教えてあげるわ』
「ホントっ?」
『ホント。そうね、今度は戦えるように武器も必要だし、まずは資金集めをしなくちゃいけないわ』
「じゃあポーションを換金する! ギルドでできるってアネットさんが言ってた!」
『なら決まりね。ある程度ポーションを作って売っちゃおう』
こうしてシャーリーとドロシアの絆が深まった。
だが、張り切りすぎたシャーリーがとんでもない量のポーションを作ってしまう。
さじ加減が難しい、と呆れながらも微笑むドロシアはやりすぎないように注意したのは太陽が顔を出した時間のことだった。
太陽が地平線の下に顔を隠し、すっかり闇夜に支配された空に月が顔を出す時間帯。優しい光が大地を照らす中、シャーリー達の拠点である家が浮かび上がる。
シャーリーはアネットを見送った後、ドロシアと一緒にポーション作りに夢中になって作業をしていた。
しかし、外はすでに夜。月明かりがあるとはいえ、視界が悪い。
『もうすっかり夜ね。シャーリー、カンテラに明かりを灯すわよ』
「はーい」
ドロシアに言われ、シャーリーはカンテラを手に取った。アネットが手配してくれたものであり、中には赤い石がある。
彼女はそれを小さな金槌で叩いた。すると途端に火が灯り、明かりが広がっていく。
『へぇー、結構いいものをもらったわね』
「ガラスと魔石がちょっと特殊みたいだよ。だからこのカンテラ一つあれば困らないって言ってた」
『いいわねー。私が研究している時にこういうの欲しかったわ』
しみじみと昔を思い出すドロシアからシャーリーは目を外し、煮立っている釜を見た。
綺麗な黄金色の液体が釜いっぱいに入っており、彼女はそれに頬を緩ませる。
一生懸命に作ったポーションは、先ほど作った品物よりもいい品質になりそうだ。もしかしたらギルドで高く売れるかも、とさえ考えてしまう。
完成をウキウキしていると、カンテラを見つめるドロシアが声をかけてきた。
『ところでシャーリー、あの袋は何なのかわかる?』
「袋?」
シャーリーは言われて荷物置き場に目を向けた。たくさんの木箱が積み上げられている一画の端にパンパンに膨らんでいる袋がある。
気になった彼女は作業の手を止め、袋を開けて中身の確認をした。
中には鉱物があり、黄金に輝く何かが石についている。
それを見たシャーリーは、すぐに日中のことを思い出した。
「あ、これ黄鉄鉱だ」
『ああ、あのいけ好かない奴が持ってた鉱物ね。なんでここにあるのかしら?』
「うーん、わかんない。間違って荷物に混じってたのかな?」
『まあ、何にしても後で確認しましょうか。もらえるならもらってもいいし』
「ダメだよドロシアさん。こういうのはちゃんと買わないといけないよ」
『はいはい、わかったわかった。とにかく確認は明日ね』
確認を終え、袋を持ってシャーリーは釜の前に戻る。だいぶいい感じに混ざり合ったのか、薬液がとても輝いて見えた。
品質のチェックをするために道具を使ってちょっとだけすくい取る。
手の甲に一滴垂らし、輝きと透き通りを見た。とても美しい輝きであり、その黄金は不思議な透明性がある。効果はさすがにわからないが、一般的に流通している品よりも上質だと思えた。
ふと、ほのかに甘い香りが鼻孔に飛び込んできた。嗅ぐと途端に気分が晴れ、疲れが吹き飛んだ。
どうやらリラックス効果もあるようで、それに気づいたシャーリーはその匂いに幸せな気分になっていた。
「いい匂い~。これ、もしかして赤い果実のものかな?」
『かもしれないわね。確かあれ、アプルムという名前の果物だったわね。本来は様々なスイーツ料理に使われるものだけど、生のままでも食べられるわ。でもハズレはすっごく酸っぱいわよ~』
「えー、本当! ハズレは嫌だけど、食べてみたいなぁー」
シャーリーは中庭にある大木を見た。その枝先にはアプルムがたくさんなっており、どれもこれもが赤く熟している。
おそらく食べ頃なのだろう。彼女はついつい口の中をヨダレいっぱいにしていると、ドロシアが呆れた口調でこういった。
『楽しみにするのもいいけど、ちゃんと錬成に集中してね』
「はーい」
シャーリーはそういって何気なく釜の中を見た。
輝く黄金はさらに輝き、いい感じに仕上がりつつある。
彼女は気を良くし、鼻歌を溢し始めた。楽しそうに釜の中をかき混ぜながら頃合いを伺う。
ドロシアはそんなシャーリーを見て、大丈夫そうだと感じていた。少し離れ他の作業でもしようかと考え始めたその瞬間、嫌な声が響き渡る。
「ヂュウゥゥゥゥゥ!」
その嫌な声はネズミに似ていた。しかし、ネズミにしては妙に力強い。
シャーリーは何だろう、と思い振り返る。すると出入り口に一匹、とても大きなネズミっぽい生物がいた。
「ふえっ! な、何っ?」
『あ、こいつは!』
「し、知ってるの?」
『バル・マウよ。別名〈錬成崩れ〉と呼ばれてるモンスターよ!』
「何それ?」
『どこからともなく現れるはた迷惑なやつ。特に錬金術の作業をしていると邪魔してくるの!』
「えー!」
何はともあれモンスターと鉢合わせたシャーリーは、震えながら身構えた。
バル・マウはそんなシャーリーににじり寄っていく。狙いはもちろん、後ろにある大釜だ。
どうやって守ろうか考える。だが、戦う力がないシャーリーでは大釜を守れるはずはない。
『シャーリー、今回は諦めましょう』
「え!?」
『もったいないけど、あなたがケガしたら意味ないわ。ここはおとなしく――』
「やだっ! せっかく作ったんだもん。こんなことで引き下がりたくない!」
『だけど――』
「ドロシアさんが、友達が教えてくれた錬金術だもん。しっかり成功させたい。だから、だからあんなやつに邪魔されたくないの」
ドロシアはシャーリーの想いを聞き、考える。
嬉しくもあるが、戦う力がない。そんな状態で守り切るなんて不可能だ。
だが、だからといって彼女の思いを無碍にしたくない。
どうする、と考える。考えに考え、そしてある作戦を思いついた。
『わかった。じゃあシャーリー、私があいつの気を引くわ。その間にどうにか撃退して』
「え? どうやって?」
『なんでもいい。とにかくあいつを追い払えればいいわ』
シャーリーのためにドロシアがバル・マウに突っ込もうとする。
だが、そうすればケガをする可能性が高い。そうなる前にどうにかできないか、と彼女は考えた。
ふと、足下に黄鉄鉱が入った袋を見つける。少し見つめた後、シャーリーは意を決した。
「この、出ていけー!」
中に入っていた鉱物を掴み、シャーリーはバル・マウに向けて放り投げる。
投げられた黄鉄鉱は額に当たり、バル・マウは悲鳴を上げた。
だがシャーリーはお構いなしに投げる。ドロシアをケガさせないために、そしてポーションを守るために懸命に攻撃した。
「ヂュヂュウゥゥゥゥゥ!」
堪らなくなったのかバル・マウは逃げ出す。
それを見たシャーリーは大きく肩を動かしながら呼吸する。懸命に息を吸い、震えている身体を抱きしめた。
ドロシアはそんなシャーリーを見て、『大丈夫?』と声をかける。するとシャーリーは頷き、微笑みながら顔を上げた。
「うん。ドロシアさん、ケガはない?」
『おかげさまでね。でも、よかったの? あなたにとって石は大切なものなんでしょ?』
ドロシアの問いかけに、シャーリーは頷く。
そう、シャーリーにとって石は大好きなものであり、大切なものだ。
だがそれでも、シャーリーには守りたいものがあった。
「でも、ドロシアさんのほうが大切だよ」
『どうして?』
「私の好きなものを、褒めてくれたから」
そう、ドロシアはシャーリーの鉱物知識を褒めた。彼女にとってそれはとても嬉しかったことであり、だからこそ鉱物よりもドロシアを取ったのだ。
それに気づいたドロシアは、とても嬉しく感じたのだった。
『やれやれ、手のかかる子ね』
絶対的な信頼とは、どういうことで築かれるのか。
そのことを改めて学んだドロシアは思わず呆れた。だがおかげで、シャーリーのことを認められる。
まだまだ可能性のタマゴ。だからこそ、ドロシアはこの子の成長を見守り支えていこうと決意した。
『仕方ないわねー、迷宮探索から帰ってきたら新しいレシピを教えてあげるわ』
「ホントっ?」
『ホント。そうね、今度は戦えるように武器も必要だし、まずは資金集めをしなくちゃいけないわ』
「じゃあポーションを換金する! ギルドでできるってアネットさんが言ってた!」
『なら決まりね。ある程度ポーションを作って売っちゃおう』
こうしてシャーリーとドロシアの絆が深まった。
だが、張り切りすぎたシャーリーがとんでもない量のポーションを作ってしまう。
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