お仕置きの国

kuraku

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お仕置きの国

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ここでない国。ここでない時。家庭や学校ではケインやパドルでお尻を叩かれるのが当たり前の世界。

 この国では軽微な罪はお尻への鞭打ちの「お仕置き」で償う事になっている。
 細かな法は県毎の県法で決められており量刑、年齢の上限、男女の違い、回数…全てが法によって定められている。
 
 その日も一人の万引き少年が即決裁判により剥き出しのお尻に革パドル百叩きの刑を受ける羽目になった。
 
 



「……以上、カメラでも確認の上、本人も素直に認めております。窃盗の現行犯、反省の態度は見られますが…N県の県法に照らし合わせた上で革パドル打ち百打の刑に処します」

 現行犯逮捕で証拠も自白もあれば、その日の内に警察署の隣に常設されている簡易裁判所に送られる。
 起訴猶予されるものの中で「お仕置き」に処される罪の判断は裁判官に委ねられるが躾けは最初が肝心、今回は反省が必要と判断されたようだ。
 
「何も異論がなければ判決とします。……では、即時執行してください。閉廷します」

 ふわふわとした髪と中性的な顔立ちのせいで女の子にも見える少年が、呆然としたまま俯いている。
 少年は裁判官の言葉を冗談でも聞くように現実感がなかった。まさかこんなことになるなんて、と。
 簡易裁判所なので普通の会議室のような部屋。重々しい雰囲気もなく、淡々と即決裁判は終わった。
 両側から執行官の女性二人にしっかりと掴まれた腕が否応なく罪を認識させられる。
 掴まれた腕を軽く引かれると、部屋の外へと促され連れて行かれた。

「どこ行くんですか…?」

「執行室ですよ。即決裁判ですので今から刑を執行します。その後は、書類にサインを貰えばすぐに帰れますよ」

 不安からか、それとも弱気な態度を見せたくないのか、しかめっ面で顔を向けずに聞いた答えは、それほど酷いことになるような気がしなかった。。
 だがその答えも淡々としたもので、いつもの事なのだろうが冷静にこれからの事を話す女性執行官。

「はぁ、何でボクが…」

 少年は思わず呟いた。
 その声にちらりと右隣の女性執行官が視線を送るがすぐにまた前を向いた。

 判決を告げられてから僅か十五分。少年が連れてこられた部屋には<第一執行室>と書かれている。
 重々しい防音扉を開くとそこは、窓も何もない真っ白な部屋の真ん中に、大きな執務机と黒い革張りのお仕置き台がぽつんとあるだけの部屋だった。しかし、壁には恐ろし気な何本ものケインや様々なパドルが並べられている。

 そして三十代後半と思しきの男性が一人。無造作に後ろに流した髪に優し気で、切れ長の目に黒瞳が良く似合う中性的な容姿。それは少年にとても良く似た顔だちだった。

「え、ええ!?どうしているの?」

「…お前が逮捕されたって連絡がきた。慌てて飛んできたんだ…なんで万引きなんかっ…!」

 少年の父親。数時間前少年の身元が分かり、当然のように保護者に連絡がいった。窃盗罪とはいえ初犯のこと。
 即決裁判でお尻叩きを受ければそのまま帰ることが許されるが、三親等までの付き添人が一人だけ認められているという。
 父親は息子のしでかしたことに激し怒りもあったが、大事な一人息子が鞭打ち刑にあうということに血の気が引く思いでスマホを握りしめて会社を飛び出した。

「ごめん…盗って売ったら簡単にお金稼げるって…SNSに書いてて、つい…」
 
 お小遣い欲しさに気軽にやったこと。SNSを見たらみんなやっているからと。
 しかし、例えば本で言えば、一冊万引きされたらその売り上げを戻すのに何倍もの本を売らなければ取り戻せない。小売業は売った額のほんの数パーセントしか利益がないのだから一つ失えば取り戻すのに苦労する。
 年間何軒もの店が万引きで潰れていることを少年は考えもしなかった。

「馬鹿…!家に帰ったらたっぷり叱ってやるからな…だけど今はパパが付き添っててやるから…怖いだろうけどしっかり反省するんだ」

「うん、ごめん…」

 言葉少なに話し合う二人。今この場で親子の出来ることはほとんどない。少年は鞭にお尻を晒し、父親はそれに付き添うのみ。

「さて、お父さんそこまでにしてください。トイレは大丈夫ですね?」

「……」「はぃ…」

 本来なら執行室に入れば問答無用でお尻叩きだが、女性執行官は父親の気持ちを思って少しだけ言葉を交わすことを黙認していた。

「上着はそこの籠に。脱いだらそちらの机にうつ伏せになって」

 少年は上着を脱ぐと、恐る恐るといった感じに執務机華奢な身体をうつ伏せにした。机に上半身を伏せれば自然とお尻を突き出す格好になる。
 今更どうにもならない事は分かってはいるので、手や、足の位置を直す女性執行官の為すがままにされるだけである。
 だが、いざズボンに手を掛けられると思わず声を上げてしまう。

「っ!?や、やめて…っ」

 少年の抗議の声も意に介さず女性執行官は二人掛かりでズボンのベルトを緩めズボンとパンツを足元まで下ろしてしまう。

「刑は剥き出しのお尻に行われます。君は聞いていなかったようですが、歩きながら説明しましたよ。…お父様にも説明してあります」

 ちらりと父親に目線を送ると窘めるような顔。我慢しろということみたいだ。

「うぅ…」

 女性執行官はその間も淡々と作業を進める。ビニール手袋をすると白い塗り薬のようなものを指全体で掬った。

「保護クリームを塗ります。じっとして」

「くぅ…あ…ぅ」

 お尻の皮膚が切れて血が出ぬように女性執行官は少年のお尻に満遍なく保護クリームを塗る。肛門までは触らないが、その近くを女性の指が這う。少年は初めての感覚に背中がぞわりとして、足の力が抜けかけた。
 
「んん…やめ、恥ず…ちょ…っと…」

 それ以上に女性に真後ろから大事な所を全て見られているという羞恥に顔を真っ赤にする。これ程の辱めを受けたのは生れて初めての事だった。

「では、これより革パドル打ち百打執行します。お父さん、お尻を庇わないように手をしっかりと握ってあげてください。万が一暴れるようならまた一からやり直しになりますので絶対離さないように」

「あ、は、はい…よし、パパの手離すなよ。パパも絶対お前を離さないからな」 

「ぅん…頑張るよ」

 急に声を掛けられた父親はびくりとしたが、慌てて息子の手をしっかりと握って声を掛ける。罪は罪として馬鹿な息子をきつく懲らしめてやりたいが、あの革のパドル百打は少年一人では辛いだろうと思った。

「…開始します」

 準備を全て終えると女性執行官は壁に掛かっている長方形をした革パドルを手に取り、監視カメラともう一人の女性執行官に向かってそう告げる。

<どうぞ>「どうぞ」

 スピーカーから許可の声が聞こえ、もう一人の女性執行官も同時に頷き許可をした。

「……うぅ怖い」

 全てに実感のなかった少年だったが、ここに至って恐怖が襲ってきていた。どんどんという聞いたこともないような自分の鼓動の音に押されるように、自分より大きな手の平をしっかりと縋りつくように握った。

 ちょっと待って!助けてパパ!と少年がそう言おうとした瞬間強烈な一打目がお尻に与えられた。

「一っ」

 バチィンッ!

「あっ…!」

 女性執行官の数を数える声の後ヒュッと微かな風切り音がした次の瞬間、しなった革パドルが少年のお尻に叩きつけられる音が響いた。
 容赦も手加減もない。その為の保護クリームであるし、これは曲りなりにも刑の執行である。熟練された女性執行官は最後まで一定の打ち方が出来るように訓練されている。

「二っ、三っ、四っ、五っ、六っ」

 バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!

「いぃっ…!いたっ…!くっ…!ふっ…!うっ…!」

 少年は必死に厳しい苦痛を耐えようとするが、お尻を打たれる度に背がびくびくと波打つ。
 女性執行官はそれをまったく意に介さず少年のお尻に紅く太い横線を付けていく。

「二十四っ、二十五っ、二十六っ、二十七っ、二十八っ」

 バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!

「あうっ!くぅっ!痛過ぎるよぉっ!いやだいやだぁっ!いたいぃーっ!」

「いいか、万引きなんかするからこうなるんだ…!しっかり反省しなさい…!」

「パパっ!いたいぃっ!ごめんなさぃっ!もうしないっ!」 

 父親は叱りつけながらも心配そうに少年が歯を食いしばっている顔を見つめる。汗の滲んできた額と手。額の汗は拭ってやれないが、手だけは放すまいと渾身の力を込める。

 少年のお尻で良くしなる革パドルが弾ける。その毎に少年は身を捩り叫び声を上げてしまう。信じられない程の苦痛と辱めに知らぬ間に涙が溢れ零れ落ちていた。

 厳しい革鞭の音が五十を数えた段階で女性執行官は一度手を止めた。少年のお尻は真っ赤に腫れ上がり、双丘の中心部は黒くなりつつあった。
 革鞭が止まった事で、少年は詰めていた息を吐き出す。中性的で端正な顔は涙と汗で濡れている。

「大丈夫か…?痛いな…だが仕方がない」

「はぁはぁ…パパ…痛いよ…お、終わり?…うっう…ぐすっ…」

「薄く滲んではいますが、出血はありません。続行します」

「え?え?ま、待ってっ!やだっ!パパ助けてっ!ひぃーっ!?」

「五十一っ」

 バチィンッ!

「頑張れ、あと半分だ…!パパの手をしっかりと持て!」

 僅か十数秒の休憩。お尻の具合を確認すると女性執行官は再び刑の執行を再開した。
 少女のような柔らかな髪を振り乱し泣き叫ぶ少年。しかし、当然刑が終わるまで女性執行官が手を緩めることはない。
 
 思わず何度もお尻を庇いそうになるのを父親の強い力が押さえた。もう少しだから頑張れと何度も聞こえる。押さえる手の圧力は熱くて強くてお尻の痛みを少しだけ忘れるようで。

「七十一っ、七十二っ、七十三っ、七十四っ」

 バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!バチィンッ!

「うわーんっ!いたいたいぃっ!もう、もうやめてぇーっ!もうしないからぁっ!ああーっ!うわーんっ!」

 激痛が少年を苛み続ける。頭は痛みだけに支配されてもうただの幼子になっていた。それでも目の前にいる怒りともつかない顔で自分の手を掴んでくれている父親の手の温もりだけが嵐の中の小さな光だった。

「九十九っ、百っ!」

 バチィンッ!バチィンッ!

「あっくぅ…っ!ひうぅ…っ!」

 革鞭百叩きを受けた少年のお尻は太股の付け根からお尻全体まで真っ赤に腫れ上がり、赤黒い痣に覆われている。
 足から崩れ落ちそうな身体を父親の手の力だけが支えていた。

「いたいぃ…いたいよ…ああ…ひっくっ…ぐすっ…」

「痛かったな、罰は終わったからな。良く反省できたろう…はははっ」

 父親はそう言いながらも、自分が叱ってお仕置きしているわけではない。そのレベルを何段階も超えた刑罰を受けた愛する息子の姿に思わず涙ぐむ。

「皮パドル打ち百打の刑執行いたしました」

<お疲れ様です>「お疲れ様です」

 開始の時と同様に監視カメラともう一人の女性執行官にそう告げる。声が返ってきたのを合図に蓮をお仕置き台から降ろしてやる。

「はい、立ってください。少し辛いでしょうがズボンとパンツを履いて下さい」

「うぅ…いぃっ!?」

 腫れに腫れたお尻の苦痛と泣き過ぎでされるがままになる少年。無理やりズボンとパンツを履かされ飛び上がりそうになったが、女性執行官は意に介さず事務的にベルトまで締めてくれた。

「では、後は事務所で書類にサインを」

「はぃ…」「さぁ、いこう」

「では、事務所へ」

 少年は泣き腫らした顔で黙って頷くと、父親に抱きすくめられるようにしながら事務所へと連れて行かれた。実際の時間にすれば、判決から刑終了まで一時間と掛かってはいない。書類にサインをすると呆気ないほどあっさりと解放された。

 即決裁判所を出るともう外は夕方になっていた。
 少年ははとぼとぼと無言でお尻を押さえながら父親の背中を追って駅へと向かう。夕日越しに父親がにっこりとしながら少年の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。

「……何か美味しい物でも食べるか」

「……うん、あの、ね。ごめんなさい…ふぉく!?」

 僕と言おうとしたら思い切り頬を抓られた。お尻叩き中ずっと自分の手を握ってくれていた大きな手で。

「いいから。今日はもう、いい。ちょいと高級なレストランでいい肉でも食べようか。…あ、っと…ママには内緒な」

「いいけど…お仕置きはパパがされてよ…」

「パ、パパは、ママに叱られたりしない…ぞ?」

 頬にあった大きく暖かな手が少年の小さな手を取った。ゆっくりと導くように強く引っ張った。











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