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時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊
【Proceedings.55】時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊.06
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天辰葵はとにかく攻めあぐねていた。
観客から見れば、ほぼ睨み合っているだけの試合だ。
だが、天辰葵がどんなに攻めようとしても、攻め始める前に未来望は天辰葵の間合い外へと移動してしまうのだ。
恐らく連続で神速を使い攻めても同じ結果になるだろう。
少なくとも天辰葵はそう感じ取っている。
恐らくは体力の無駄だ。
天辰葵とて体力に限界はある。
なので、攻めあぐねている。
まるで天辰葵と未来望の間に、超えられないし壊せない大きな壁があるかのようだ。
ただ未来望も煽る様な真似こそするが積極手には攻めてきていない。
本当に未来を知っているのであれば、既に天辰葵相手でも勝っているはずだ。
つまり未来望は勝つつもりがない、まさにその通りかもしれない。
だから、未来望は自分は負けると言っているのだ。
流石にそこまで舐められたことに、天辰葵も怒りをあらわにする。
「ちょっと本気出すよ」
いつまでも見合っていても仕方がない。
ならば、相手が勝つ気がないにしても、攻撃が当たらないとしても、ここは無理にでも攻めるしかないと天辰葵は刀を強く握る。
「そうだね。そうしてくれないと自分も困る。キミには希望を抱いてもらわないと困るからね」
天辰葵が攻める意思を見せたことで、未来望は喜ばしいように笑顔を見せる。
そして、ここで初めて未来望も幻影観力を天辰葵に向かい構えた。
これからは未来望からも攻撃するという意思表示のように。
ただ、未来望の言葉が終わる前に、天辰葵は既に神速で踏み込んでいる。
神速を活かした閃光のような一撃が未来望に襲い掛かる。
そして、その一撃は未来望を捉える。
が、天辰葵の持つ月下万象は未来望をすり抜けていく。
「幻影観力の幻影か!」
「少し頭に血が上っているのかい? こんな単純な幻影に引っかかるなんて」
天辰葵の傍でそう声がして、硝子のような刀身を持つ幻影観力が天辰葵に向けて振り下ろされる。
天辰葵はそれを独特な足運びのみでかわし、逆に月下万象で薙ぎ払う。
のだが、その場所に既に未来望はいない。
天辰葵の薙ぎ払いに対し、元から安全な場所を知っているかのように移動を既に終えていた。
その安全圏から未来望は鋭い伸びるような突きを天辰葵に放つ。
天辰葵はそれを寸前のところで避け、薙ぎ払った月下万象を無理やり幻影観力の刀身にぶつけようとする。
幻影観力と言えど、何かが触れている状態では幻体化はできない。
だが、月下万象は幻影観力を儚くもすり抜けていく。
そして、突きを放ってきた未来望自体が幻のように消えていく。
どうやら、いつの間にかに未来望自体が幻影に置き換わっていたようだ。
「言った傍からまた幻影に騙されているようだね。それではダメだよ。キミの心は希望で満たされやしない」
また別の場所から未来望の声がする。
蜃気楼のように消えていくので未来望の実体を幻影化しているわけではない。
単なる幻影に騙されただけだ。
「クッ…… 強いね、キミ」
天辰葵もそれを認めざる得ない。
相手は、未来望は本気で攻めてないのに、手玉に取られている。
未来を知る故なのか、戦い方が上手いのか、どちらにせよ相手する上で同じことだ。
「どうかな。自分は自分を強いと思ったことはないけども」
煽るわけでもなく未来望は少し不安そうにそう言った。
彼の心に希望はない。既に絶望しかない。
だから、希望を切望しているし、自分に自信がないのだ。
「なるほどね。これが三強か。私も本気で行かせてもらう」
天辰葵も酉水ひらりに続き本気を出すことを宣言する。
相手があまりにも不可解すぎる。
少なくとも遊んでいて勝てる相手出ないことだけは確かだ。
「滅神流か。聞いたことのない流派だけど……」
「滅神流、神域、曙光残月」
夜に取り残された月が朝日に照らされ輝く。
それはあり得ないほどの超神速の一撃。
いくら未来がわかっていても、反応できなければ意味はない。
だから、天辰葵は未来望が話している途中を狙った。
間合い内に捉えていれば人間がおおよそかわせるどころか、反応もできないほどの圧倒的な一撃。
そのはずだったが、天辰葵の放つ超神速の一撃ですら空を斬った。
そして、未来望の幻影だけが虚空へと陽炎のように立ち消えていく。
「まさか…… いつ幻影と?」
天辰葵も、丁子晶自身、幻影観力を持つ酉水ひらりと連戦してきている。
幻影観力の能力は十分に分かっているし、落ち着けば天辰葵の鋭い勘は幻影かどうか判断できるはずだった。
少なくとも直前までは、技を出す寸前までは実体だったはずだ。
なにせ、幻影は幻影だ。幻体とは違い声を出すことはできない。
単なる見かけだけの影に過ぎないはずだ。
「凄いね、音が後から聞こえたよ。でも、言ったろ? 自分は未来を見通しているんだ。だから、自分の中には希望はなく絶望しかないのだけれども」
また別の場所から声がする。
先ほどのも幻影だった、それとも別のからくりかがあるのか、それも天辰葵には判断がつかない。
もしくは、無数に枝分かれした未来の中から、天辰葵の、そのどこまでも研ぎ澄まされた勘が外れる選択肢を選びだしたのかもしれないが、そこまでは天辰葵にはわからない。
ただ最速の一撃すらかわされたという事実だけが、天辰葵には残る。
「私がこのタイミングでこの技を放つと?」
実際のところ、天辰葵にはどうやってかわされたのかはわからないが、それどころの話ではない。
天辰葵にとっては最速の一撃をかわされた事実の方が重要だ。
それは未来望に対して、天辰葵の最も得意とする速さで挑んでも勝てないと言うことの証明となるのだから。
「そうだよ。あ、次は連撃かな。突き技かな? それとも、酉水さんに使った技かな?」
「くっ、そこまで…… すべてお見通しなのか……」
すべてが見透かされる。
天辰葵が思考を切り替えて、次の技をと思った瞬間に、それを言い当てられる。
その状態で、その技を繰り出しても無駄打ちになるだけだ。
まるで心の中を読まれているようだが、未来を知られていると言うのであれば、それよりも質が悪い。
心の中を読まれるだけなら、無心で機械的に対応すればいいだけだ。
それは天辰葵にとってさほど難しい話ではない。
だが、未来望にとって都合のよい未来のみを選び取れるのであれば、それすらも意味がない。
━【次回議事録予告-Proceedings.56-】━━━━━━━
絶望した羊が希望を語り、竜を導こうとする。
蠢動する運命がまた一つ、その役割を終える。
━次回、時に立ち向かう竜と未来を知る屠所の羊.07━
観客から見れば、ほぼ睨み合っているだけの試合だ。
だが、天辰葵がどんなに攻めようとしても、攻め始める前に未来望は天辰葵の間合い外へと移動してしまうのだ。
恐らく連続で神速を使い攻めても同じ結果になるだろう。
少なくとも天辰葵はそう感じ取っている。
恐らくは体力の無駄だ。
天辰葵とて体力に限界はある。
なので、攻めあぐねている。
まるで天辰葵と未来望の間に、超えられないし壊せない大きな壁があるかのようだ。
ただ未来望も煽る様な真似こそするが積極手には攻めてきていない。
本当に未来を知っているのであれば、既に天辰葵相手でも勝っているはずだ。
つまり未来望は勝つつもりがない、まさにその通りかもしれない。
だから、未来望は自分は負けると言っているのだ。
流石にそこまで舐められたことに、天辰葵も怒りをあらわにする。
「ちょっと本気出すよ」
いつまでも見合っていても仕方がない。
ならば、相手が勝つ気がないにしても、攻撃が当たらないとしても、ここは無理にでも攻めるしかないと天辰葵は刀を強く握る。
「そうだね。そうしてくれないと自分も困る。キミには希望を抱いてもらわないと困るからね」
天辰葵が攻める意思を見せたことで、未来望は喜ばしいように笑顔を見せる。
そして、ここで初めて未来望も幻影観力を天辰葵に向かい構えた。
これからは未来望からも攻撃するという意思表示のように。
ただ、未来望の言葉が終わる前に、天辰葵は既に神速で踏み込んでいる。
神速を活かした閃光のような一撃が未来望に襲い掛かる。
そして、その一撃は未来望を捉える。
が、天辰葵の持つ月下万象は未来望をすり抜けていく。
「幻影観力の幻影か!」
「少し頭に血が上っているのかい? こんな単純な幻影に引っかかるなんて」
天辰葵の傍でそう声がして、硝子のような刀身を持つ幻影観力が天辰葵に向けて振り下ろされる。
天辰葵はそれを独特な足運びのみでかわし、逆に月下万象で薙ぎ払う。
のだが、その場所に既に未来望はいない。
天辰葵の薙ぎ払いに対し、元から安全な場所を知っているかのように移動を既に終えていた。
その安全圏から未来望は鋭い伸びるような突きを天辰葵に放つ。
天辰葵はそれを寸前のところで避け、薙ぎ払った月下万象を無理やり幻影観力の刀身にぶつけようとする。
幻影観力と言えど、何かが触れている状態では幻体化はできない。
だが、月下万象は幻影観力を儚くもすり抜けていく。
そして、突きを放ってきた未来望自体が幻のように消えていく。
どうやら、いつの間にかに未来望自体が幻影に置き換わっていたようだ。
「言った傍からまた幻影に騙されているようだね。それではダメだよ。キミの心は希望で満たされやしない」
また別の場所から未来望の声がする。
蜃気楼のように消えていくので未来望の実体を幻影化しているわけではない。
単なる幻影に騙されただけだ。
「クッ…… 強いね、キミ」
天辰葵もそれを認めざる得ない。
相手は、未来望は本気で攻めてないのに、手玉に取られている。
未来を知る故なのか、戦い方が上手いのか、どちらにせよ相手する上で同じことだ。
「どうかな。自分は自分を強いと思ったことはないけども」
煽るわけでもなく未来望は少し不安そうにそう言った。
彼の心に希望はない。既に絶望しかない。
だから、希望を切望しているし、自分に自信がないのだ。
「なるほどね。これが三強か。私も本気で行かせてもらう」
天辰葵も酉水ひらりに続き本気を出すことを宣言する。
相手があまりにも不可解すぎる。
少なくとも遊んでいて勝てる相手出ないことだけは確かだ。
「滅神流か。聞いたことのない流派だけど……」
「滅神流、神域、曙光残月」
夜に取り残された月が朝日に照らされ輝く。
それはあり得ないほどの超神速の一撃。
いくら未来がわかっていても、反応できなければ意味はない。
だから、天辰葵は未来望が話している途中を狙った。
間合い内に捉えていれば人間がおおよそかわせるどころか、反応もできないほどの圧倒的な一撃。
そのはずだったが、天辰葵の放つ超神速の一撃ですら空を斬った。
そして、未来望の幻影だけが虚空へと陽炎のように立ち消えていく。
「まさか…… いつ幻影と?」
天辰葵も、丁子晶自身、幻影観力を持つ酉水ひらりと連戦してきている。
幻影観力の能力は十分に分かっているし、落ち着けば天辰葵の鋭い勘は幻影かどうか判断できるはずだった。
少なくとも直前までは、技を出す寸前までは実体だったはずだ。
なにせ、幻影は幻影だ。幻体とは違い声を出すことはできない。
単なる見かけだけの影に過ぎないはずだ。
「凄いね、音が後から聞こえたよ。でも、言ったろ? 自分は未来を見通しているんだ。だから、自分の中には希望はなく絶望しかないのだけれども」
また別の場所から声がする。
先ほどのも幻影だった、それとも別のからくりかがあるのか、それも天辰葵には判断がつかない。
もしくは、無数に枝分かれした未来の中から、天辰葵の、そのどこまでも研ぎ澄まされた勘が外れる選択肢を選びだしたのかもしれないが、そこまでは天辰葵にはわからない。
ただ最速の一撃すらかわされたという事実だけが、天辰葵には残る。
「私がこのタイミングでこの技を放つと?」
実際のところ、天辰葵にはどうやってかわされたのかはわからないが、それどころの話ではない。
天辰葵にとっては最速の一撃をかわされた事実の方が重要だ。
それは未来望に対して、天辰葵の最も得意とする速さで挑んでも勝てないと言うことの証明となるのだから。
「そうだよ。あ、次は連撃かな。突き技かな? それとも、酉水さんに使った技かな?」
「くっ、そこまで…… すべてお見通しなのか……」
すべてが見透かされる。
天辰葵が思考を切り替えて、次の技をと思った瞬間に、それを言い当てられる。
その状態で、その技を繰り出しても無駄打ちになるだけだ。
まるで心の中を読まれているようだが、未来を知られていると言うのであれば、それよりも質が悪い。
心の中を読まれるだけなら、無心で機械的に対応すればいいだけだ。
それは天辰葵にとってさほど難しい話ではない。
だが、未来望にとって都合のよい未来のみを選び取れるのであれば、それすらも意味がない。
━【次回議事録予告-Proceedings.56-】━━━━━━━
絶望した羊が希望を語り、竜を導こうとする。
蠢動する運命がまた一つ、その役割を終える。
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