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3 六歳の王子と「悩む」守護精霊
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もうすぐ日が暮れる。こどもたちは「また、明日ねー」と大きな声で笑いあって、手を振った。
晩ご飯の支度だろう。あちこちから煙が立ち上っている。お腹がペコペコなのか、みんな、いきおいよく走り出した。
ルイとミレーヌも弾かれたように走り出した。ふたりとも六歳だけど、ミレーヌのほうが足が速い。
少しずつ、ルイがおいていかれ出した。ミレーヌが後ろを振り向いて、ルイの速さにあわせる。
ふたりは「また、明日ね」と声をあわせ、同時に扉を開けて家の中に駆け込んだ。
同い年でお隣りさん。ふたりは大の仲良しだ。離れ離れにするのはかわいそうだ、と思いながらも踏ん切りがつかない。
ふたりが住んでいるトロムス村は、ブルンフョル辺境伯爵の領内にある。
辺境伯領では、六歳になったこどもは、必ず魔力測定を受けなければならない。
そこで認められた子は、魔術師候補生として、領都に行くことができる。
将来的には、辺境伯配下の魔術師として、働くことになるらしい。
拒否することはできないが、魔術師になれば、村一番のお金持ちよりもいい暮らしができる、といううわさだ。
毎年、六歳になったこどもたちは、わくわくしながら、村長さんのお屋敷にやってくる魔術師の前に並んで、魔力測定を受ける。
ただ、わたしが村にやって来てから、合格したこどもを見たことがない。
七十年ほど前に合格したこどもがいた、という話を小耳にはさんだことはあるけど。
それだけ、魔術師というものは数が少ないのだろう。
だけど、わたしは精霊だ。人が持っている魔力量や属性が手にとるようにわかる。
わたしの鑑定では、ミレーヌは魔術師になれるだけの魔力を持っている。
属性は土。将来的には、魔法で土木作業を行う魔術師になれるだろう。
一週間後に行われる魔力測定で、領都に召集されることになるのは、まちがいない。
だけど、守護精霊持ちのルイは、魔力測定の球を光らせることはできない。
水の精霊さんの言うには、守護精霊持ちは魔力を外に放出することができないらしい。
体内に蓄えた魔力を、守護精霊と接触した時に、無意識のうちに渡しているそうだ。
たしかに、ルイが寝ている時、わたしはすぐ傍でふわふわ漂いながら、ルイの魔力を感じている。
守護主の傍にいるときの心地よさは、魔力を貰っているせいでもあるのだろう。
つまり、わたしの力はルイの力でもある。
わたしが魔力測定の球を光らせば、ルイは魔術師候補として認められ、ミレーヌと一緒に領都に行くことができる。
でも、問題もある。ルイの敵にばれないかということだ。
ルイは双子だった。そして、ふたりの赤ちゃんはそっくりだった。
まちがいなく、同じ姿かたちをしたこどもが、もうひとりいることになる。
そして、偉そうなおじさんは、もうひとりの赤ちゃんのことを、王の器だと言った。陛下もお喜びになるだろうと。
六年もこの国に住んでいれば、嫌でもわかる。ルイはこの国――ノルドフォール王国の王様のこどもだ。
ということは、双子の片割れだった光属性の赤ちゃんは、王子様として王都で暮らしているはずだ。
王子様の顔がどれだけ世間一般に知られているかわからないけど、見る人が見れば双子だとわかるだろう。
指名手配されているにも等しい。
でも、ルイだって王子様のはずだ。双子だったから? それとも、魔力がなかったから?
でも、この村にも双子はいる。魔力がまったくない人もたくさんいる。
いろいろと考えたけど、ルイが殺されそうになった理由はわからなかった。
この村が田舎すぎるせいでもある。他の村との交流が少なすぎて、外のことがさっぱりわからないのだ。
うーん。このところ、ずっと溜め息をついてばかりだ。
ルイの人生だから、ルイが決めるべきだとも思う。でも、危険な目にあわせたくない。
わたし自身はけっこうな力を持っている。ルイを守ることだって、飛んで逃げることだってできるだろう。
だけど、ルイは人だ。人は人と生きていかなければならない。
もし、王国を敵に回してしまったら? そう思うと、このまま村で暮らしたほうがいいような気もする。
ルイには幸せになって欲しい。そのためには、どうしたらいいだろうか?
わたしはふわふわと風に漂いながら、遠くにきらめく一番星を見つめた。
晩ご飯の支度だろう。あちこちから煙が立ち上っている。お腹がペコペコなのか、みんな、いきおいよく走り出した。
ルイとミレーヌも弾かれたように走り出した。ふたりとも六歳だけど、ミレーヌのほうが足が速い。
少しずつ、ルイがおいていかれ出した。ミレーヌが後ろを振り向いて、ルイの速さにあわせる。
ふたりは「また、明日ね」と声をあわせ、同時に扉を開けて家の中に駆け込んだ。
同い年でお隣りさん。ふたりは大の仲良しだ。離れ離れにするのはかわいそうだ、と思いながらも踏ん切りがつかない。
ふたりが住んでいるトロムス村は、ブルンフョル辺境伯爵の領内にある。
辺境伯領では、六歳になったこどもは、必ず魔力測定を受けなければならない。
そこで認められた子は、魔術師候補生として、領都に行くことができる。
将来的には、辺境伯配下の魔術師として、働くことになるらしい。
拒否することはできないが、魔術師になれば、村一番のお金持ちよりもいい暮らしができる、といううわさだ。
毎年、六歳になったこどもたちは、わくわくしながら、村長さんのお屋敷にやってくる魔術師の前に並んで、魔力測定を受ける。
ただ、わたしが村にやって来てから、合格したこどもを見たことがない。
七十年ほど前に合格したこどもがいた、という話を小耳にはさんだことはあるけど。
それだけ、魔術師というものは数が少ないのだろう。
だけど、わたしは精霊だ。人が持っている魔力量や属性が手にとるようにわかる。
わたしの鑑定では、ミレーヌは魔術師になれるだけの魔力を持っている。
属性は土。将来的には、魔法で土木作業を行う魔術師になれるだろう。
一週間後に行われる魔力測定で、領都に召集されることになるのは、まちがいない。
だけど、守護精霊持ちのルイは、魔力測定の球を光らせることはできない。
水の精霊さんの言うには、守護精霊持ちは魔力を外に放出することができないらしい。
体内に蓄えた魔力を、守護精霊と接触した時に、無意識のうちに渡しているそうだ。
たしかに、ルイが寝ている時、わたしはすぐ傍でふわふわ漂いながら、ルイの魔力を感じている。
守護主の傍にいるときの心地よさは、魔力を貰っているせいでもあるのだろう。
つまり、わたしの力はルイの力でもある。
わたしが魔力測定の球を光らせば、ルイは魔術師候補として認められ、ミレーヌと一緒に領都に行くことができる。
でも、問題もある。ルイの敵にばれないかということだ。
ルイは双子だった。そして、ふたりの赤ちゃんはそっくりだった。
まちがいなく、同じ姿かたちをしたこどもが、もうひとりいることになる。
そして、偉そうなおじさんは、もうひとりの赤ちゃんのことを、王の器だと言った。陛下もお喜びになるだろうと。
六年もこの国に住んでいれば、嫌でもわかる。ルイはこの国――ノルドフォール王国の王様のこどもだ。
ということは、双子の片割れだった光属性の赤ちゃんは、王子様として王都で暮らしているはずだ。
王子様の顔がどれだけ世間一般に知られているかわからないけど、見る人が見れば双子だとわかるだろう。
指名手配されているにも等しい。
でも、ルイだって王子様のはずだ。双子だったから? それとも、魔力がなかったから?
でも、この村にも双子はいる。魔力がまったくない人もたくさんいる。
いろいろと考えたけど、ルイが殺されそうになった理由はわからなかった。
この村が田舎すぎるせいでもある。他の村との交流が少なすぎて、外のことがさっぱりわからないのだ。
うーん。このところ、ずっと溜め息をついてばかりだ。
ルイの人生だから、ルイが決めるべきだとも思う。でも、危険な目にあわせたくない。
わたし自身はけっこうな力を持っている。ルイを守ることだって、飛んで逃げることだってできるだろう。
だけど、ルイは人だ。人は人と生きていかなければならない。
もし、王国を敵に回してしまったら? そう思うと、このまま村で暮らしたほうがいいような気もする。
ルイには幸せになって欲しい。そのためには、どうしたらいいだろうか?
わたしはふわふわと風に漂いながら、遠くにきらめく一番星を見つめた。
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