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義父と実父
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鈴音が家出をしたと分かってから、俺と凛は街中で鈴音を探し回った。
決して広くはない街だが、それでも人物1人を手掛かり無く探すのは難しい。
裏路地に隠れているかもしれないから交通手段を使うわけにはいかない。だから自分の足で走って家出少女を探した。だが、全然見当たらず行き止まっていた。
そんな俺の目に入ったのは、街を一望できる程の高さにある公園。
確証はなかった。
落ち込んだ時や悩んだ時、俺は高い所から景色を見て心を落ち着かせる。
もし、鈴音もそうだったら……なんて考えたが、そんな事よりも見つからなければ全部探さないといけない。俺は僅かな希望に賭けてその公園に向かった。そして―――――
「おいおっさん。なに俺の大事な娘に乱暴してやがるんだ! 話なら父親の俺が聞いてやるよ」
その公園に鈴音がいた。だが、1人ではなかった。
鈴音の他の誰か。ソイツが鈴音を乱暴に引っ張っていた。鈴音は嫌がっていた。
鈴音の嫌がる顔を見て俺は脊髄反射の様に割って入り、裏拳を喰らわしていた。
「痛ってぇな。テメェ、なにしやがるんだ!」
俺の裏拳がおっさんの鼻に当たったのか、鼻血を流すおっさんは俺を睨む。
てかこのおっさん。先刻、街で見かけた奴じゃねえか。
「なにしやがるは俺の台詞だ。こんな若い女性を引っ張って。ナンパか? なら、身なりを弁えて相手を選べよおっさん」
本来の俺なら相手がどんな格好でもこんなことは言わない。
だが、鈴音を乱暴にされかけた所為で少し心が落ち着いていない。
おっさんの目は血走ったものへと変貌をして、更に眼光を強める。
「いきなりしゃしゃり出てテメェは何様だ! 俺は自分の娘に会いに来ただけだ! テメェには関係ねえだろ!」
「俺の娘? なに言ってるんだ。頭がイカレて…………ッ!?」
意味不明な事を叫ぶおっさんに痛々しい目を向けようとしたが、正面から見たおっさんにアイツの面影を重ねた。先刻も同じ様に感じた。その時は他人の空似かと思った。だが、コイツの鈴音を娘と呼ぶ発言に俺は確証に変わった。
「お前まさか……宮下か?」
宮下徹。俺の高校2年の時の担任で数学教師をしていた奴だ。そして……鈴音の本当の。
「あ? テメェは俺の事を……って、お前、もしかして古坂か? いやー随分老けたなお前、あの時は青臭かったのによ」
老けた事に関してお前だけには言われたくねえよ。本当に最初見た時全然気づかなかった。
高校の頃の宮下は女子人気の高い爽やかイケメン野郎だったのに、今ではホームレスかって言わんばかりに汚れている。人間、どんな人生を送ればここまで見た目が変貌するんだよ。
「てか宮下。お前は今更なんで現れた? そんで、なんで鈴音と接触をした? 偶然じゃないだろ」
「ハッ。父親が娘に会いに来て何が悪いんだよ?」
「鈴音に何もせず、凛を捨てた野郎が父親面するなよ宮下。凛に何をしたのか知らねえと思っているのか? そんなテメェに父親を名乗る資格はねえんだよ」
凛の妊娠発覚後、宮下は教員資格を剥奪されたとはいえ、こいつは凛を妊娠させた責任を取ることは一切無く、凛を捨てた。今まで音信不通だった奴が父親を名乗るなんて度し難い。
俺が一蹴すると宮下はふぅとため息を吐き。
「チッ。あの女。周りにペラペラと喋りやがってよ、口の軽い女だ。つーかよ、古坂。テメェ、何俺を呼び捨てで呼んでやがる? 宮下、先生だろ! 偉くなったもんだな青二才が!」
突如切れた宮下は俺に右ストレートを打つ。
殆ど不意打ちに近いタイミングの拳を俺は避ける事は出来ずに頬に直撃する。
「痛ぅ!」
痛がる俺に宮下は追撃と蹴りを入れようとするが、それは何とか掴んで防げた。
宮下の足を掴んだ俺は、振りかぶって宮下を投げる様に距離を離す。
チクショウ……唇を切ったぜ。宮下の野郎、全然躊躇いがなかったぞ。もし今ので死んでも、まあいいか、程度の本気さだ。
出血する唇を袖で拭う俺の許に、鈴音が近づき。
「おと……康太さん。大丈夫ですか?」
心配そうな鈴音を安心させるために俺は気丈に笑い。
「大丈夫だ鈴音、これぐらい。お前は危ないから下がってろ……あと」
俺はポケットからスマホを取り出し、それを鈴音に渡す。俺は言葉には出さなかった。だが、鈴音は俺の意図を読んだのかスマホを受け取り、ロック画面のまま緊急ボタンを押した。
緊急通報ならロック画面を開くまでもない。それで警察に連絡を入れてくればいい。
……正直、俺の直感が囁いている。こいつは、ヤバい。
腕力だとか知力だとか、そんな事ではない。この血走った目。
これは俺の考察だが、人間の中で一番恐ろしい奴は、全てを失い、もう失うモノがない絶望しきった人間だ。つまり、ソイツの行動に歯止めが効かない。何をしでかすか分からないってことだ。
正直言って、この場で鈴音だけを逃がした方がいいと思う。
だけど、コイツが他の仲間がいた場合、俺が目を離した隙にまた鈴音が狙われる可能性も考えられる。
なら、ここは俺が鈴音を守って、警察が来るまで耐えるだけだ。
本当に勘弁してくれよ。俺、喧嘩は好きじゃねえのによ。
「そいつの名前は鈴音って言うのかよ。何ともつまんねえ名前だな」
宮下が口にした侮辱に俺の心が騒めいた。
「おい責任も何もして来てねえ最低野郎が、凛が想いを込めて付けた名前を侮辱するんじゃねえよ」
俺が威圧を込めて言うが、宮下は喉で笑い。
「つーか、先程から気になっていたが、お前はその娘と田邊凛とはどういう関係なんだ? なんか馴れ馴れしいが」
「馴れ馴れしくてもお前には関係ないだろ。だがな。俺と凛は結婚を前提に付き合っている恋人。俺と凛は親子になる間柄だ。だから、生物学上父親だろうが、今更お前が入り込む隙間はねえんだよ。落ちぶれ教師」
俺が告げると宮下は笑いが込み上げたかの様に腹を抱えて笑い出した。
「ダハハハッ! マジかお前。田邊凛とお前が恋人? あんな状況になったのに付き合うとか、頭が可笑しいんじゃねえか?」
煽っているのか笑うのを止めない宮下に俺の堪忍の緒が揺れている。
「ヤバい、笑い過ぎて腹が痛いぞ。高校の頃のお前は青臭くて女に縁がない可哀そうな奴だとは思ってたが、あんな中古女を貰うとか、相当女に縁が無かったんだな」
なん……だとゴラッ。
「あんな少し甘い顔を見せて相談に乗るって言ったらホイホイ信用して付いて来た馬鹿女だからなアイツは。そう言えば、田邊凛が俺に処女を捨てた時の話をしてやろうか? アイツ、マジで泣き出してさ、ずっと『ごめん……ごめん、初めてをあげたかった』って泣いてよ。だからその時俺は言ったんだよ。その苦しみこそがいつか結ばれるための糧になるって。言ったらアイツ、相当お前との関係に不安を持ってんだろうな。心が壊れたのか縋る様に俺の従順になってよ」
…………………………。
「おい古坂。お前の1つ教えてやるよ。女ってのはな。不安を抱える奴の方が騙し易いんだぜ? ちょっと優しくすればホイホイと尻を振る。どうだ? お前もこれを使って女を捕まえろよ。あんな中古女じゃなくてよ」
……………俺の心の中に2つの怒りがある。
1つは、自身に向けての怒り。
告白をして幼馴染って関係が壊れるんじゃないかって脅えて、俺は自分の気持ちが言えなかった。
もっと俺に勇気があってアイツに告白していたら、俺がもっとあいつの事を見て、あいつの気持ちに気づいてやれば、凛は……こんな屑野郎に傷つけられずに済んだのに!
もう1つの怒りは、勿論、この最低屑野郎にだ。
女性を自分の欲を満たす為の道具にしか使わず、人の想いを、純情を踏み躙るコイツが許せねえ!
初めてだよ、マジで……人をここまで殺したいって思うほどに、怒るのはよ!
「は?」
宮下は間抜けな声を漏らす。
なんせこいつは、俺を侮ってか馬鹿々々しく高笑いを上げて隙だらけだったんだからな。
俺の過去も今の怒りを込めて、宮下の顔面を潰さんばかりに殴り飛ばす。
最初の裏拳の時とは非ではない程に、宮下の鼻が折れたのか血が溢れている。
鼻が折れて悶絶する外道を他所に、俺は後ろにいる鈴音に話す。
「鈴音。前に凛が、お前に彼氏問題で怒ったことがあったって言ったよな?」
「う、うん…………」
宮下の発言に引いているのか鈴音は弱く返した。
いや、目の前にこんな醜い奴がいるんだ。最悪男性不信に陥っても不思議じゃない。
「世の中には、コイツみたいなどうしようもねえ屑野郎がいる。凛は当時の未熟さの所為でそんな奴を選んでしまったって後悔した。だから凛はお前に言ったんだ。しっかり男を見ろってな。お前が自分と同じ過ちをしない様に」
「…………うん。こんな奴が相手なら、お母さんがああいう気持ちが、今なら……痛いほど分かるよ」
反面教師……ってわけじゃないが、凛の過ちで得た教訓が鈴音に伝わっているなら、それは不幸中の幸いだろう。鈴音の人生はこれから長い。しっかり見極めてお前が幸せになれる様に俺達がお前を支えていく。それが親である俺の…………いや、その前に鈴音に確かめないといけない事があった。
「なあ鈴音。俺とお前は血の繋がりがねえ現時点では赤の他人だ。そして目の前に、お前と血の繋がりを持つ男がいる。お前はどっちの父親を選ぶ?」
俺の尋ねに鈴音は間髪入れず、だが少し涙ぐみながらに答える。
「康太さんが、良い……。康太さんがお父さんなら良いって……ずっと思ってた。だから康太さん。こんな迷惑を掛ける不良娘だけど。私の……お父さんになってくれるかな?」
一番欲しかった言葉を受け取り、力が沸き立つ様に、俺の心が大きく震える。
「ああ。今回は一日限りじゃねえ。ずっと、お前のお父さんになってやるよ。だからお父さんに任せろ」
よし。なら娘を傷つけた最低野郎をとっとと片付けないとな。
決して広くはない街だが、それでも人物1人を手掛かり無く探すのは難しい。
裏路地に隠れているかもしれないから交通手段を使うわけにはいかない。だから自分の足で走って家出少女を探した。だが、全然見当たらず行き止まっていた。
そんな俺の目に入ったのは、街を一望できる程の高さにある公園。
確証はなかった。
落ち込んだ時や悩んだ時、俺は高い所から景色を見て心を落ち着かせる。
もし、鈴音もそうだったら……なんて考えたが、そんな事よりも見つからなければ全部探さないといけない。俺は僅かな希望に賭けてその公園に向かった。そして―――――
「おいおっさん。なに俺の大事な娘に乱暴してやがるんだ! 話なら父親の俺が聞いてやるよ」
その公園に鈴音がいた。だが、1人ではなかった。
鈴音の他の誰か。ソイツが鈴音を乱暴に引っ張っていた。鈴音は嫌がっていた。
鈴音の嫌がる顔を見て俺は脊髄反射の様に割って入り、裏拳を喰らわしていた。
「痛ってぇな。テメェ、なにしやがるんだ!」
俺の裏拳がおっさんの鼻に当たったのか、鼻血を流すおっさんは俺を睨む。
てかこのおっさん。先刻、街で見かけた奴じゃねえか。
「なにしやがるは俺の台詞だ。こんな若い女性を引っ張って。ナンパか? なら、身なりを弁えて相手を選べよおっさん」
本来の俺なら相手がどんな格好でもこんなことは言わない。
だが、鈴音を乱暴にされかけた所為で少し心が落ち着いていない。
おっさんの目は血走ったものへと変貌をして、更に眼光を強める。
「いきなりしゃしゃり出てテメェは何様だ! 俺は自分の娘に会いに来ただけだ! テメェには関係ねえだろ!」
「俺の娘? なに言ってるんだ。頭がイカレて…………ッ!?」
意味不明な事を叫ぶおっさんに痛々しい目を向けようとしたが、正面から見たおっさんにアイツの面影を重ねた。先刻も同じ様に感じた。その時は他人の空似かと思った。だが、コイツの鈴音を娘と呼ぶ発言に俺は確証に変わった。
「お前まさか……宮下か?」
宮下徹。俺の高校2年の時の担任で数学教師をしていた奴だ。そして……鈴音の本当の。
「あ? テメェは俺の事を……って、お前、もしかして古坂か? いやー随分老けたなお前、あの時は青臭かったのによ」
老けた事に関してお前だけには言われたくねえよ。本当に最初見た時全然気づかなかった。
高校の頃の宮下は女子人気の高い爽やかイケメン野郎だったのに、今ではホームレスかって言わんばかりに汚れている。人間、どんな人生を送ればここまで見た目が変貌するんだよ。
「てか宮下。お前は今更なんで現れた? そんで、なんで鈴音と接触をした? 偶然じゃないだろ」
「ハッ。父親が娘に会いに来て何が悪いんだよ?」
「鈴音に何もせず、凛を捨てた野郎が父親面するなよ宮下。凛に何をしたのか知らねえと思っているのか? そんなテメェに父親を名乗る資格はねえんだよ」
凛の妊娠発覚後、宮下は教員資格を剥奪されたとはいえ、こいつは凛を妊娠させた責任を取ることは一切無く、凛を捨てた。今まで音信不通だった奴が父親を名乗るなんて度し難い。
俺が一蹴すると宮下はふぅとため息を吐き。
「チッ。あの女。周りにペラペラと喋りやがってよ、口の軽い女だ。つーかよ、古坂。テメェ、何俺を呼び捨てで呼んでやがる? 宮下、先生だろ! 偉くなったもんだな青二才が!」
突如切れた宮下は俺に右ストレートを打つ。
殆ど不意打ちに近いタイミングの拳を俺は避ける事は出来ずに頬に直撃する。
「痛ぅ!」
痛がる俺に宮下は追撃と蹴りを入れようとするが、それは何とか掴んで防げた。
宮下の足を掴んだ俺は、振りかぶって宮下を投げる様に距離を離す。
チクショウ……唇を切ったぜ。宮下の野郎、全然躊躇いがなかったぞ。もし今ので死んでも、まあいいか、程度の本気さだ。
出血する唇を袖で拭う俺の許に、鈴音が近づき。
「おと……康太さん。大丈夫ですか?」
心配そうな鈴音を安心させるために俺は気丈に笑い。
「大丈夫だ鈴音、これぐらい。お前は危ないから下がってろ……あと」
俺はポケットからスマホを取り出し、それを鈴音に渡す。俺は言葉には出さなかった。だが、鈴音は俺の意図を読んだのかスマホを受け取り、ロック画面のまま緊急ボタンを押した。
緊急通報ならロック画面を開くまでもない。それで警察に連絡を入れてくればいい。
……正直、俺の直感が囁いている。こいつは、ヤバい。
腕力だとか知力だとか、そんな事ではない。この血走った目。
これは俺の考察だが、人間の中で一番恐ろしい奴は、全てを失い、もう失うモノがない絶望しきった人間だ。つまり、ソイツの行動に歯止めが効かない。何をしでかすか分からないってことだ。
正直言って、この場で鈴音だけを逃がした方がいいと思う。
だけど、コイツが他の仲間がいた場合、俺が目を離した隙にまた鈴音が狙われる可能性も考えられる。
なら、ここは俺が鈴音を守って、警察が来るまで耐えるだけだ。
本当に勘弁してくれよ。俺、喧嘩は好きじゃねえのによ。
「そいつの名前は鈴音って言うのかよ。何ともつまんねえ名前だな」
宮下が口にした侮辱に俺の心が騒めいた。
「おい責任も何もして来てねえ最低野郎が、凛が想いを込めて付けた名前を侮辱するんじゃねえよ」
俺が威圧を込めて言うが、宮下は喉で笑い。
「つーか、先程から気になっていたが、お前はその娘と田邊凛とはどういう関係なんだ? なんか馴れ馴れしいが」
「馴れ馴れしくてもお前には関係ないだろ。だがな。俺と凛は結婚を前提に付き合っている恋人。俺と凛は親子になる間柄だ。だから、生物学上父親だろうが、今更お前が入り込む隙間はねえんだよ。落ちぶれ教師」
俺が告げると宮下は笑いが込み上げたかの様に腹を抱えて笑い出した。
「ダハハハッ! マジかお前。田邊凛とお前が恋人? あんな状況になったのに付き合うとか、頭が可笑しいんじゃねえか?」
煽っているのか笑うのを止めない宮下に俺の堪忍の緒が揺れている。
「ヤバい、笑い過ぎて腹が痛いぞ。高校の頃のお前は青臭くて女に縁がない可哀そうな奴だとは思ってたが、あんな中古女を貰うとか、相当女に縁が無かったんだな」
なん……だとゴラッ。
「あんな少し甘い顔を見せて相談に乗るって言ったらホイホイ信用して付いて来た馬鹿女だからなアイツは。そう言えば、田邊凛が俺に処女を捨てた時の話をしてやろうか? アイツ、マジで泣き出してさ、ずっと『ごめん……ごめん、初めてをあげたかった』って泣いてよ。だからその時俺は言ったんだよ。その苦しみこそがいつか結ばれるための糧になるって。言ったらアイツ、相当お前との関係に不安を持ってんだろうな。心が壊れたのか縋る様に俺の従順になってよ」
…………………………。
「おい古坂。お前の1つ教えてやるよ。女ってのはな。不安を抱える奴の方が騙し易いんだぜ? ちょっと優しくすればホイホイと尻を振る。どうだ? お前もこれを使って女を捕まえろよ。あんな中古女じゃなくてよ」
……………俺の心の中に2つの怒りがある。
1つは、自身に向けての怒り。
告白をして幼馴染って関係が壊れるんじゃないかって脅えて、俺は自分の気持ちが言えなかった。
もっと俺に勇気があってアイツに告白していたら、俺がもっとあいつの事を見て、あいつの気持ちに気づいてやれば、凛は……こんな屑野郎に傷つけられずに済んだのに!
もう1つの怒りは、勿論、この最低屑野郎にだ。
女性を自分の欲を満たす為の道具にしか使わず、人の想いを、純情を踏み躙るコイツが許せねえ!
初めてだよ、マジで……人をここまで殺したいって思うほどに、怒るのはよ!
「は?」
宮下は間抜けな声を漏らす。
なんせこいつは、俺を侮ってか馬鹿々々しく高笑いを上げて隙だらけだったんだからな。
俺の過去も今の怒りを込めて、宮下の顔面を潰さんばかりに殴り飛ばす。
最初の裏拳の時とは非ではない程に、宮下の鼻が折れたのか血が溢れている。
鼻が折れて悶絶する外道を他所に、俺は後ろにいる鈴音に話す。
「鈴音。前に凛が、お前に彼氏問題で怒ったことがあったって言ったよな?」
「う、うん…………」
宮下の発言に引いているのか鈴音は弱く返した。
いや、目の前にこんな醜い奴がいるんだ。最悪男性不信に陥っても不思議じゃない。
「世の中には、コイツみたいなどうしようもねえ屑野郎がいる。凛は当時の未熟さの所為でそんな奴を選んでしまったって後悔した。だから凛はお前に言ったんだ。しっかり男を見ろってな。お前が自分と同じ過ちをしない様に」
「…………うん。こんな奴が相手なら、お母さんがああいう気持ちが、今なら……痛いほど分かるよ」
反面教師……ってわけじゃないが、凛の過ちで得た教訓が鈴音に伝わっているなら、それは不幸中の幸いだろう。鈴音の人生はこれから長い。しっかり見極めてお前が幸せになれる様に俺達がお前を支えていく。それが親である俺の…………いや、その前に鈴音に確かめないといけない事があった。
「なあ鈴音。俺とお前は血の繋がりがねえ現時点では赤の他人だ。そして目の前に、お前と血の繋がりを持つ男がいる。お前はどっちの父親を選ぶ?」
俺の尋ねに鈴音は間髪入れず、だが少し涙ぐみながらに答える。
「康太さんが、良い……。康太さんがお父さんなら良いって……ずっと思ってた。だから康太さん。こんな迷惑を掛ける不良娘だけど。私の……お父さんになってくれるかな?」
一番欲しかった言葉を受け取り、力が沸き立つ様に、俺の心が大きく震える。
「ああ。今回は一日限りじゃねえ。ずっと、お前のお父さんになってやるよ。だからお父さんに任せろ」
よし。なら娘を傷つけた最低野郎をとっとと片付けないとな。
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