AOHARUキッチン

デルタ

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#4時間がたつにつれて変化するもの

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 日が傾くのと同時に客の数も減っていく。うちの店のピークは夕飯の買い物の前後でやってくる主婦たちがメインだからだ。
 今日の夕飯何がいいと思う?そんな相談に乗るようになってから、夕飯の買い物前に立ち寄ってくる主婦の人たちが多くなってしまった。その次に買い物後によって、今日は○○なんだけど、明日の夕飯は何がいいと思う?なんて相談も受けるようになってしまったのだ。しまいには一週間の献立を作って!なんて人も出てきて流石にその時は笑ってしまった。
 よくよく考えれば世の中の主婦たちは日替わりでメニューを作らないといけないから大変だよな。しかも家族の好き嫌いを考えればおのずとメニューの幅も狭くなっていくだろうし、、、。俺は快く相談に乗っていった。その結果夕方前後は主婦の奥様方の社交場と化してしまったってわけだ。まあ、俺としては一言、二言のアドバイスで客が増えるなら願ったりかなったりだ。ここは席数はあるから多少長いしても店の回転数には影響しない。満席になるほど人も来ないしね。少しでも人の役に立っていると思えばピーク後の山になった食器も気分よく洗えるってものだ。
「お姉さま方にずいぶん人気なのですわね?」
すこし皮肉まじりに聞こえるのは俺の性格がひねくれているからだろうか?
「俺が淹れる珈琲にはかなわないさ。なんだかんだみんな二杯以上は飲んでいってくれるからな」
彼女は机の上のマグカップを見て不思議に思う。
「みなさん一杯ずつしか飲んでいってないように思えるのですが、、、」
それを聞くと俺はメニュー表を広げて説明した。
「君が頼んだブレンドはこのサイズだよね?みんなが頼んでいったのはこっちのサイズなんだ。」
俺は彼女が頼んだカップとみんなが頼んだマグカップを並べて説明した。
「これは君が頼んだ倍の量が入るカップで料金も二杯分になる。最初は二杯分の値段より下げようとしたのだけれど、そのまま二杯分の値段を取ってくれという声が多かったので、その言葉に甘えて二杯分の料金をもらっているというわけさ。もちろん飲める量は人それぞれだからだれも強要はしてないのだけれど、常連さんになっていくにつれてマグカップで頼んでくれる人は多い。これは俺の淹れる珈琲が美味しいって事を指しているに違いない。そういう事だ。」
言い終わってから大人げないなと恥ずかしくなってしまった。それを隠すように背中を向けてカップを棚に戻していく。
「なるほどそういう事ならマスターより珈琲の方が人気と言いたいのわかりますわ。でもせっかくの珈琲が覚めてしまうのは少し勿体ない気持ちになりますわね。」
二杯目を飲み干したカップを見ながら彼女は言った。
「そんなことはないさ、珈琲は温度によって変化するものだ。出したての温かい珈琲はほんのり苦みを感じやすくサラッとして飲みやすい。温度が下がっていくにつれて珈琲の油分にとろみがつき飲み心地がまろやかになる。味は苦みよりも甘味やコク、そして香りを感じやすくなる。本当に美味しい珈琲は冷めても美味しいものなのさ。」
またどや顔でいってしまった。もう嫌だこの陰キャ特有の性格。大人になっても治らないのどうにかしてくれ。
俺は恥ずかしいのをごまかすように咳払いをした。
「まあ、そういう事だ。次はゆっくり飲んでみるのもいいとおもうぞ。」
そう言うと俺はまた背を向けて、今度は道具の整理を始めた。そもそも彼女は靴と靴下を取りに来たついでに珈琲を頼んでくれたのに、次ぎなんてあるのだろうか?いや、きっとないだろう。ちょっと寂しい思いになりながらグラスを拭き始めた。
「そうですわね、次はこのマグカップでゆっくりと頂きたいと思いますわ。デザインもとても素敵ですので。」
振り返ったそこにはマグカップを両手で優しく持つ彼女の姿があった。
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