68 / 87
68:晴れた秋空の下(1)
しおりを挟む
翌朝。
晴れた秋空の下、私は漣里くんと肩を並べて、学校へ続く道を歩いていた。
「……やっぱり一晩じゃ治らないよね」
漣里くんの顔には昨日と変わらず、大きなガーゼと絆創膏が貼ってある。
「でも痛みは引いた。おまじないのおかげ」
「だったらいいな」
自己回復力を私の手柄にしようとしてくれるのが嬉しくて、小さく笑う。
住宅街を抜けて、大通りに差し掛かる。
しばらく雑談してから、私は切り出した。
「……野田たち、報復しにくるかな」
不安に駆られ、自然とトーンも落ちる。
「多分大丈夫だと思う。昨日、兄貴はめちゃくちゃ怖かったんだ。表面上はいつも通り笑顔なんだけど、雰囲気が全然違ってて、これまでの顛末を詳しく聞かれた。包み隠さず野田の悪行を全部話せっていうから、小金井が金を巻き上げられてたことも正直に言ったよ。そしたら、なんか薄く笑ってた。怒りの針が振り切れたっぽい」
「それは、怖いね」
温厚な人ほど怒らせると怖いと聞くけれど、葵先輩はその典型だろう。
「ああ。兄貴は怒ると本当に怖い。だから、心配しなくても大丈夫だ。兄貴が任せろって言った以上、事態が悪化することはありえない。全部なんとかしてくれる」
「……葵先輩に丸投げしてない?」
「仕方ないだろ。お前はもう関わるな、おとなしくしとけって言われてるんだから」
話しているうちに学校が近づき、視界内の生徒たちの数も増えてきた。
前方では、おはよー、と女子が友達と挨拶を交わしている。
そして、その女子二人組は気遣わしげに漣里くんを振り返った。
「……可哀想……」
「酷いことするよねぇ……」
……ん?
私は断片的に聞こえてくるその言葉と彼女たちの眼差しに、違和感を覚えた。
これまで漣里くんと一緒にいると向けられてきたのは「ほらあれが噂の」とでも言いたげな、好奇の視線。
でも、辺りを見回すと、今朝の皆の眼差しには深い同情が宿っている。
ガーゼに覆われている漣里くんの顔を見て、気の毒そうに眉をハの字にしたり、唇を引き結んだりと――明らかにこれまでとは様子が違う。
「……なんだ?」
漣里くんも事態の変化に戸惑っているみたい。
「昨日のことが広まってるみたいだね。あれだけ目撃者がいたら当然かもしれないけど。昨日は私も友達にラインで色々聞かれたし……」
話しているうちに、校門が見えてきた。
「……え、みーこ?」
いつもの校門にはありえない光景を目撃し、私はきょとんとした。
校門の脇には九人の男子と一人の女子から成る、謎の集団がいた。
昨日見た筋骨隆々の元サッカー部の部長を筆頭にしたサッカー部の部員たち、男子柔道部の部員、バスケ部の部員、その他、所属のわからない生徒たち。
彼らの共通点は、どの生徒も素晴らしい筋肉の持ち主の、完全な肉体派であるということ。
時海の筋肉自慢が一堂に会しているかのような、異様な光景。
紅一点となっているのが、みーこ。
彼女は男子軍団と同じく、腕組みして頭に赤い鉢巻を巻き、威風堂々と風に吹かれていた。
晴れた秋空の下、私は漣里くんと肩を並べて、学校へ続く道を歩いていた。
「……やっぱり一晩じゃ治らないよね」
漣里くんの顔には昨日と変わらず、大きなガーゼと絆創膏が貼ってある。
「でも痛みは引いた。おまじないのおかげ」
「だったらいいな」
自己回復力を私の手柄にしようとしてくれるのが嬉しくて、小さく笑う。
住宅街を抜けて、大通りに差し掛かる。
しばらく雑談してから、私は切り出した。
「……野田たち、報復しにくるかな」
不安に駆られ、自然とトーンも落ちる。
「多分大丈夫だと思う。昨日、兄貴はめちゃくちゃ怖かったんだ。表面上はいつも通り笑顔なんだけど、雰囲気が全然違ってて、これまでの顛末を詳しく聞かれた。包み隠さず野田の悪行を全部話せっていうから、小金井が金を巻き上げられてたことも正直に言ったよ。そしたら、なんか薄く笑ってた。怒りの針が振り切れたっぽい」
「それは、怖いね」
温厚な人ほど怒らせると怖いと聞くけれど、葵先輩はその典型だろう。
「ああ。兄貴は怒ると本当に怖い。だから、心配しなくても大丈夫だ。兄貴が任せろって言った以上、事態が悪化することはありえない。全部なんとかしてくれる」
「……葵先輩に丸投げしてない?」
「仕方ないだろ。お前はもう関わるな、おとなしくしとけって言われてるんだから」
話しているうちに学校が近づき、視界内の生徒たちの数も増えてきた。
前方では、おはよー、と女子が友達と挨拶を交わしている。
そして、その女子二人組は気遣わしげに漣里くんを振り返った。
「……可哀想……」
「酷いことするよねぇ……」
……ん?
私は断片的に聞こえてくるその言葉と彼女たちの眼差しに、違和感を覚えた。
これまで漣里くんと一緒にいると向けられてきたのは「ほらあれが噂の」とでも言いたげな、好奇の視線。
でも、辺りを見回すと、今朝の皆の眼差しには深い同情が宿っている。
ガーゼに覆われている漣里くんの顔を見て、気の毒そうに眉をハの字にしたり、唇を引き結んだりと――明らかにこれまでとは様子が違う。
「……なんだ?」
漣里くんも事態の変化に戸惑っているみたい。
「昨日のことが広まってるみたいだね。あれだけ目撃者がいたら当然かもしれないけど。昨日は私も友達にラインで色々聞かれたし……」
話しているうちに、校門が見えてきた。
「……え、みーこ?」
いつもの校門にはありえない光景を目撃し、私はきょとんとした。
校門の脇には九人の男子と一人の女子から成る、謎の集団がいた。
昨日見た筋骨隆々の元サッカー部の部長を筆頭にしたサッカー部の部員たち、男子柔道部の部員、バスケ部の部員、その他、所属のわからない生徒たち。
彼らの共通点は、どの生徒も素晴らしい筋肉の持ち主の、完全な肉体派であるということ。
時海の筋肉自慢が一堂に会しているかのような、異様な光景。
紅一点となっているのが、みーこ。
彼女は男子軍団と同じく、腕組みして頭に赤い鉢巻を巻き、威風堂々と風に吹かれていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
太郎ちゃん
ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。
それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。
しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。
太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!?
何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
黒地蔵
紫音@キャラ文芸大賞参加中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
フラワーキャッチャー
東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。
実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。
けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。
これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。
恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。
お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。
クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。
合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。
児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
月星人と少年
ピコ
児童書・童話
都会育ちの吉太少年は、とある事情で田舎の祖母の家に預けられる。
その家の裏手、竹藪の中には破天荒に暮らす小さな小さな姫がいた。
「拾ってもらう作戦を立てるぞー!おー!」
「「「「おー!」」」」
吉太少年に拾ってもらいたい姫の話です。
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる