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32:新学期の始まり

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 夏休み明け、私は久しぶりの通学路を歩いていた。

  今日も暑い。
  予報では三十度に達してしまうらしい。

  駅からの合流地点を過ぎると、視界の中に同じ制服を着た生徒の数が増えた。
  時海高校の制服は女子がセーラー服、男子が学ラン。

  通りを行くのは、私と同じように一人で歩いている生徒。友達を見つけて駆け寄り、楽しそうに話し始める生徒。歩きながらスマホを操作している生徒。ワイヤレスイヤホンで音楽を聴いている生徒。

  色んな生徒がいる中――

「真白ー」
  後ろから声をかけられ、私は足を止めて振り返った。

 「みーこ、久しぶり」
 「うん、おひさー!」
  高く結い上げたポニーテイルを揺らし、小走りに駆けてきたのは私の親友の中村美衣子《なかむらみいこ》、通称『みーこ』。

  高校からの付き合いになる彼女は目鼻立ちが整った美人。
  女子にしては身長も高く、理想的なモデル体型をしている。

 柔道部の彼女は、夏に行われた大会の女子個人戦で優勝したそうだ。

 「もう足は大丈夫なの?」
 「うん、すっかり。この通り」

  左足のつま先で地面を軽く叩いてみせる。

「そっか、それは何より。成瀬くんも安心したんじゃない?」
 みーこは周りの生徒たちに聞こえないよう、小声で言った。

 漣里くんの許可を取ってから、私は彼と付き合い始めたことを、親友のみーこにだけは教えた。
 漣里くんが野田くんを殴った理由も、彼に関する酷い噂が全部嘘であることも、みーこだけは知っている。

「うん。回復祝いにって、二人でケーキ食べに行ったんだ」
 微笑んだ、そのときだった。

 「深森さん」
  透明な水のような、美しい声が私を呼んだ。

  みーこと揃ってそちらを見れば、葵先輩が立っていた。
  葵先輩の斜め後ろには漣里くんもいる。

  漣里くんは無表情で私を見て、すぐに立ち去った。

 ああ、本当に、学校では他人のフリをするつもりなんだ。
 冷たい眼差しに、胸がずきりと痛む。

 夏休みが終わる直前、漣里くんは言った。

 ――俺たちが付き合ってることは内緒にしたい。俺と付き合ってることで真白まで悪く言われるのは嫌だから。

 もちろん私は嫌だと反対したのだけれど、「頼む」と頭まで下げられてはもう何も言えなかった。
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