23 / 87
23:急展開
しおりを挟む
雨だったら花火大会が中止になっちゃうもんね。
漣里くんからのメッセージを思い出し、私はふふっと微笑んだ。
今日、昼食後にスマホをチェックすると、ラインのメッセージが届いていた。
葵先輩がジャンガリアンハムスターの子どもを連れ帰ってきた、という報告だった。
考えた末、決めた名前は『ゆき』だそうだ。
身体の毛が白いから『ゆき』だって。
きっと漣里くんは、もちまると同じように、ゆきにも愛情を注いでいることだろう。
詳しい話はまた明日、会ってから聞こうと思っている。
凄く楽しみだ。
「あ」
渡ろうとしていた横断歩道の信号が点滅して、赤へと変わった。
もう少し早く歩いていればそのまま渡れたタイミングだったのにな。
ま、いっか。仕方ない。
「真白ちゃん?」
信号待ちをしていると、後ろから声がかかった。
振り返れば、葵先輩が立っている。
彼はA4サイズのものでも入りそうな、大きめの鞄を左肩にかけていた。
「あれ、葵先輩。こんばんは」
「こんばんは。奇遇だね。僕は勉強会の帰りなんだけど、真白ちゃんもどこかからの帰り?」
「はい。友達と遊んでて、ファミレスで話してたら遅くなっちゃいました。こんな時間まで勉強会って、凄いですね」
私は葵先輩が肩にかけている鞄を見て、感心した。
きっと鞄の中には参考書や問題集の類が入っているのだろう。
「実際は雑談がメインになってたけどね。受験生なのにこんなことじゃまずいんだろうけど」
全国的にも有名な進学校を第一志望にしている葵先輩は綺麗に笑った。
「夜だし、家まで送るよ」
「えっ。いえいえ、良いですよ、そんな」
「気にしないで。可愛い女の子が夜に一人で歩くのは危ないからね。気が引けるっていうなら、弟を励ましてもらったお礼ってことで」
「でも……」
「いいから。こういうときは笑ってありがとうって言えばいいんだよ」
「……ありがとうございます」
「そうそう。お礼はそれで十分」
葵先輩は微笑んで、私に歩幅を合わせて歩いてくれた。
……紳士だ。葵先輩は本当に格好良い。
夜風に吹かれて、葵先輩の髪がふわふわ揺れている。
自然に前を向いて、背筋を伸ばして歩いている葵先輩の姿は、どこを切り取っても美しい。
いまは夜が顔を隠してしまっているけれど、これがもし昼間だったら、道行く女性、皆が振り向いてたんだろうな。
雑談しながら葵先輩と夜道を歩く。
私と葵先輩の共通の話題といったら、やっぱり漣里くんしかいない。
自然と会話は漣里くんに関するものになった。
「そっか。漣里と花火大会に行くんだ。まさか漣里から誘うなんてねえ。ほんとに真白ちゃんのこと好きなんだなあ」
「すっ!? い、いや、好きっていっても、特別な『好き』ではないですからっ」
「え? じゃあなんで誘われたと思ってるの?」
「友達だからでしょう」
それはごく当たり前の返答だったのだけれど。
「…………」
何故か、葵先輩は無言で頭を抱えた。
「頭が痛いんですか? 大丈夫ですか?」
「……ねえ、真白ちゃん。話があるから聞いてくれるかな」
葵先輩は頭を抱えていた手を下ろして立ち止まった。
つられて私も止まり、身体の向きを変えて、真正面から彼を見つめる。
「? はい」
なんだろう。
葵先輩の顔はすごく真剣で、ちょっと怖いくらい。
「僕は君のことが好きなんだ。付き合ってくれない?」
葵先輩は真顔で私の手を取った。
「…………え?」
ちょっと待ってください?
なにこの急展開。
私のことが好き?
私の一体どこに葵先輩の気に入る要素があるっていうんだろう。
漣里くんからのメッセージを思い出し、私はふふっと微笑んだ。
今日、昼食後にスマホをチェックすると、ラインのメッセージが届いていた。
葵先輩がジャンガリアンハムスターの子どもを連れ帰ってきた、という報告だった。
考えた末、決めた名前は『ゆき』だそうだ。
身体の毛が白いから『ゆき』だって。
きっと漣里くんは、もちまると同じように、ゆきにも愛情を注いでいることだろう。
詳しい話はまた明日、会ってから聞こうと思っている。
凄く楽しみだ。
「あ」
渡ろうとしていた横断歩道の信号が点滅して、赤へと変わった。
もう少し早く歩いていればそのまま渡れたタイミングだったのにな。
ま、いっか。仕方ない。
「真白ちゃん?」
信号待ちをしていると、後ろから声がかかった。
振り返れば、葵先輩が立っている。
彼はA4サイズのものでも入りそうな、大きめの鞄を左肩にかけていた。
「あれ、葵先輩。こんばんは」
「こんばんは。奇遇だね。僕は勉強会の帰りなんだけど、真白ちゃんもどこかからの帰り?」
「はい。友達と遊んでて、ファミレスで話してたら遅くなっちゃいました。こんな時間まで勉強会って、凄いですね」
私は葵先輩が肩にかけている鞄を見て、感心した。
きっと鞄の中には参考書や問題集の類が入っているのだろう。
「実際は雑談がメインになってたけどね。受験生なのにこんなことじゃまずいんだろうけど」
全国的にも有名な進学校を第一志望にしている葵先輩は綺麗に笑った。
「夜だし、家まで送るよ」
「えっ。いえいえ、良いですよ、そんな」
「気にしないで。可愛い女の子が夜に一人で歩くのは危ないからね。気が引けるっていうなら、弟を励ましてもらったお礼ってことで」
「でも……」
「いいから。こういうときは笑ってありがとうって言えばいいんだよ」
「……ありがとうございます」
「そうそう。お礼はそれで十分」
葵先輩は微笑んで、私に歩幅を合わせて歩いてくれた。
……紳士だ。葵先輩は本当に格好良い。
夜風に吹かれて、葵先輩の髪がふわふわ揺れている。
自然に前を向いて、背筋を伸ばして歩いている葵先輩の姿は、どこを切り取っても美しい。
いまは夜が顔を隠してしまっているけれど、これがもし昼間だったら、道行く女性、皆が振り向いてたんだろうな。
雑談しながら葵先輩と夜道を歩く。
私と葵先輩の共通の話題といったら、やっぱり漣里くんしかいない。
自然と会話は漣里くんに関するものになった。
「そっか。漣里と花火大会に行くんだ。まさか漣里から誘うなんてねえ。ほんとに真白ちゃんのこと好きなんだなあ」
「すっ!? い、いや、好きっていっても、特別な『好き』ではないですからっ」
「え? じゃあなんで誘われたと思ってるの?」
「友達だからでしょう」
それはごく当たり前の返答だったのだけれど。
「…………」
何故か、葵先輩は無言で頭を抱えた。
「頭が痛いんですか? 大丈夫ですか?」
「……ねえ、真白ちゃん。話があるから聞いてくれるかな」
葵先輩は頭を抱えていた手を下ろして立ち止まった。
つられて私も止まり、身体の向きを変えて、真正面から彼を見つめる。
「? はい」
なんだろう。
葵先輩の顔はすごく真剣で、ちょっと怖いくらい。
「僕は君のことが好きなんだ。付き合ってくれない?」
葵先輩は真顔で私の手を取った。
「…………え?」
ちょっと待ってください?
なにこの急展開。
私のことが好き?
私の一体どこに葵先輩の気に入る要素があるっていうんだろう。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
太郎ちゃん
ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。
それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。
しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。
太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!?
何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
黒地蔵
紫音@キャラ文芸大賞参加中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
フラワーキャッチャー
東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。
実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。
けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。
これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。
恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。
お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。
クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。
合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。
児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
月星人と少年
ピコ
児童書・童話
都会育ちの吉太少年は、とある事情で田舎の祖母の家に預けられる。
その家の裏手、竹藪の中には破天荒に暮らす小さな小さな姫がいた。
「拾ってもらう作戦を立てるぞー!おー!」
「「「「おー!」」」」
吉太少年に拾ってもらいたい姫の話です。
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる