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47:お別れまでのカウントダウン(3)
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菜乃花が0号館に住んでいるのは、ひとときの夢のようなものだ。
ふかふかのベッドも、豪華な部屋も、聞いたことのない横文字の料理も、杏のような専属メイドも、本来は全く縁がない。
4号館の狭い二人部屋で、ルームメイトに気を遣いながら勉強に打ち込む灰色の日々。それが菜乃花の高校生活だった。
「そんなこと言わないでよ。0号館から出たって、私たちは友達でしょう?」
杏はまた髪を梳かし始めた。
これまでよりもずっと、優しい手つきで。
「うん……そうだね」
口ではそう言ったけれど、でも。
(でも、杏ちゃんとはクラスが違うし。会う機会もなくなっちゃうよ。天坂先輩や乾先輩だって、学校じゃ昼休憩くらいにしか会わないし、会ったって挨拶してくれるかどうか。二人とも人気者だもの。私のことなんかすぐに忘れるに決まってる)
鼻の奥がつんとなり、菜乃花は鼻の下を指で擦った。
「クラスには江波さんがいるじゃない。もう独りぼっちじゃないんだから、元気出して。そうだ、千影様の教師役はどうするの?」
「図書館の会議室を借りられたらいいなって思ってる。それが無理なら空き教室を探すか、図書館の自習スペースを使って、筆談で勉強を教えるつもり」
「なら、千影様と縁が切れるわけじゃないのね。良かった。私、園田さんの恋を応援してるんだから。0号館を出ても頑張ってよ」
「うん、頑張るね。ありがとう」
両サイドの髪が引っ張られた。
痛くはないが、これまでなかった彼女の動きに違和感を覚えて、菜乃花は聞いた。
「何してるの?」
「元気がないみたいだから、リボンでも結んであげようかと。たまにはヘアチェンも良いでしょう。ほら、できた。可愛い」
杏は手鏡を渡してきた。
左手で手鏡を持ち、自分の姿を映してみれば、両サイドの髪がひと房編み込まれ、パステルピンクのリボンが結われている。
「……うん、可愛いね。ありがとう」
杏の気遣いが嬉しくて、菜乃花は微笑んだ。
でも、遠くない別れを思うと寂しくて、うまく笑えたかどうか自信はなかった。
ふかふかのベッドも、豪華な部屋も、聞いたことのない横文字の料理も、杏のような専属メイドも、本来は全く縁がない。
4号館の狭い二人部屋で、ルームメイトに気を遣いながら勉強に打ち込む灰色の日々。それが菜乃花の高校生活だった。
「そんなこと言わないでよ。0号館から出たって、私たちは友達でしょう?」
杏はまた髪を梳かし始めた。
これまでよりもずっと、優しい手つきで。
「うん……そうだね」
口ではそう言ったけれど、でも。
(でも、杏ちゃんとはクラスが違うし。会う機会もなくなっちゃうよ。天坂先輩や乾先輩だって、学校じゃ昼休憩くらいにしか会わないし、会ったって挨拶してくれるかどうか。二人とも人気者だもの。私のことなんかすぐに忘れるに決まってる)
鼻の奥がつんとなり、菜乃花は鼻の下を指で擦った。
「クラスには江波さんがいるじゃない。もう独りぼっちじゃないんだから、元気出して。そうだ、千影様の教師役はどうするの?」
「図書館の会議室を借りられたらいいなって思ってる。それが無理なら空き教室を探すか、図書館の自習スペースを使って、筆談で勉強を教えるつもり」
「なら、千影様と縁が切れるわけじゃないのね。良かった。私、園田さんの恋を応援してるんだから。0号館を出ても頑張ってよ」
「うん、頑張るね。ありがとう」
両サイドの髪が引っ張られた。
痛くはないが、これまでなかった彼女の動きに違和感を覚えて、菜乃花は聞いた。
「何してるの?」
「元気がないみたいだから、リボンでも結んであげようかと。たまにはヘアチェンも良いでしょう。ほら、できた。可愛い」
杏は手鏡を渡してきた。
左手で手鏡を持ち、自分の姿を映してみれば、両サイドの髪がひと房編み込まれ、パステルピンクのリボンが結われている。
「……うん、可愛いね。ありがとう」
杏の気遣いが嬉しくて、菜乃花は微笑んだ。
でも、遠くない別れを思うと寂しくて、うまく笑えたかどうか自信はなかった。
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