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15:私付きのメイドさん(2)

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「うん、でもその前に。この格好、変じゃないよね?」
 菜乃花は立ち上がり、パーカーの裾をつまんで引っ張った。

 薄手のパーカーにチェックのシャツ、短パン。
 スカートのほうが色気は出るだろうが、あまり張り切っても不審に思われかねない。
 悩みに悩んだ末の無難な格好である。

「変じゃないと思うけど……。……? 園田さん、千影様狙いなの?」
「!!!!???」
 いかにも図書委員をしてそうな、おとなしそうな外見にも関わらず、杏は直球ストレートで核心ド真ん中をぶち抜いてきた。

「ねねねねね狙ってるなんてそんなまさか! まさかそんなことあるわけないじゃ」
 首の骨が折れそうな勢いで頭を左右に振る。

 しかし、その必死さが仇となったらしく、
「うん。わかった。理解した」
 杏は左手でトートバッグを抱え、右手で眼鏡を押し上げた。
 部屋の照明にフチなしの眼鏡が反射し、意味ありげに輝く。

(ぎゃ~~~!! バレた!! 絶対にバレた!!)
 千影本人に知られるもまずいが、総司に知られるのが一番恐ろしい。
 弟のことが好きだといったら、総司はどんな反応をするだろうか。

(『いくら不出来でも一応ぼくの弟なんだから、退学してね。悪い虫は早めに駆除しないとね』とかにっこり微笑んで言われそう! 退学なんて嫌だ!! せっかく天坂くんと友達になれたばかりなのに、まだなんにも始まってないのに、先輩にぎゃふんと言わせてないのに……!!)

「お願い伏見さん!」
 菜乃花は両手で杏の手を掴んだ。
 右手首が過負荷に悲鳴を上げ、その痛みで涙目になったが、泣き言など言っていられない。退学になるかどうかの瀬戸際だ。

「天坂先輩には言わないで! お願いします、この通りです」
 両手を掴んだまま深く頭を下げる。本当に今日は頭を下げてばかりいる。

「言わないよ。私は天坂家の使用人だけど、立場抜きに応援するわ」
「女神……!!」
 感涙して杏を抱きしめる。
 大げさな物言いが面白かったらしく、杏は笑い声を漏らし、提案してきた。

「お近づきのしるしに、千影様の写真あげようか?」
「なんで持ってるの!?」
 驚いて身体を離すと、杏は笑った。

「友人と教室で写真を撮ったとき、たまたま端っこに天坂くんが写ってたってだけよ。メインでもないし、こっちを向いてるわけでもない。それでも」
「いる! いる!! いります!!」

「なら後で連絡先交換しよう。さあ、今度こそ行ってらっしゃい。千影様をお待たせしてしまうわ」
 そう言って、杏は菜乃花の左手にトートバッグを持たせた。
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