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09:絶対、許すまじ(2)
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「――ごちそうさまでしたっ」
菜乃花は空になったコップをトレーに置いて、トレーごと器をテーブルの端に寄せた。
「天坂くん」
椅子から腰を浮かせて左手を伸ばし、がしっと彼の腕を掴む。
その衝撃で、彼の黒縁眼鏡が少しずれた。
「な、何?」
千影は目を白黒させた。
「期末テスト、1位取るよ」
「………………は?」
未知の外国語を聞かされたような反応。
「だから、期末テストで1位を取るの。学年トップになれば天坂先輩だってもう『恥ずかしい』なんて言わないでしょ。このままじゃ悔しいじゃない。見直させようよ。やればできることを見せつけてやろう」
腕を握った手に力を込めると、千影は呆けたまま、ゆっくり瞬きした。
「……俺、三教科赤点だったって言ったよな? 落ちこぼれが学年トップなんてなれると思う? カンニングでもしなきゃ無理だぞ」
(断言しちゃうんだ……)
自己評価が低すぎて、聞いているこちらが悲しくなった。
「なれるかなれないかじゃない、なるの。そりゃ、いきなり学年トップを狙うのは難しいかもしれないけど、ちょっとずつ順位を上げていこうよ。大丈夫、私も協力するから。絶対に1位を取るっていう意気込みが大事なの。私にできるのは手助けだけ。天坂くん自身が頑張らなきゃダメなの」
上体を寄せ、至近距離から目を合わせる。
千影は冴えない風貌だと言われているが、実はそんなことはない。
皆、雰囲気でそうと決め付けているだけで、かなり整った顔立ちをしている。
猫背を止めて背筋を伸ばし、野暮ったい黒縁眼鏡を外してコンタクトに変え、長すぎる前髪を切って堂々と振る舞えば、周りの評価は一変するだろう。
叶うなら、菜乃花はその手伝いがしたい。
自分を卑下することなく、胸を張って学生生活を謳歌してほしいのだ。
「……気持ちはわかったから、とりあえず、座って」
ひたすら困惑していた千影は静かに言って、眼鏡の縁を右手の人差し指で押し上げた。
言われた通りに座り直す。
これ以上彼の腕を掴んでいたら、周りの生徒に何事かと声を掛けられそうな雰囲気だったので、着席するしかなかった。
「園田さんは、なんでそんなに良くしてくれるんだ?」
(好きだから)
純粋に不思議そうな問いに、内心で即答する。
「友達だから?」
「もちろん。それ以外に理由なんてないよ」
大嘘を、まるで真実のように言いきってみせる。
「凄いな。園田さんは友達のためにそこまで頑張れる人なんだな」
千影は感心したように呟いて、不意に首を捻り、食堂に入って初めて二階を――総司を見た。
菜乃花も見上げたが、総司はこちらを見ず、友人たちと談笑している。
弟がいることに気づいていないのか。
それとも、気づいていながら徹底的に無視しているのか。
菜乃花は空になったコップをトレーに置いて、トレーごと器をテーブルの端に寄せた。
「天坂くん」
椅子から腰を浮かせて左手を伸ばし、がしっと彼の腕を掴む。
その衝撃で、彼の黒縁眼鏡が少しずれた。
「な、何?」
千影は目を白黒させた。
「期末テスト、1位取るよ」
「………………は?」
未知の外国語を聞かされたような反応。
「だから、期末テストで1位を取るの。学年トップになれば天坂先輩だってもう『恥ずかしい』なんて言わないでしょ。このままじゃ悔しいじゃない。見直させようよ。やればできることを見せつけてやろう」
腕を握った手に力を込めると、千影は呆けたまま、ゆっくり瞬きした。
「……俺、三教科赤点だったって言ったよな? 落ちこぼれが学年トップなんてなれると思う? カンニングでもしなきゃ無理だぞ」
(断言しちゃうんだ……)
自己評価が低すぎて、聞いているこちらが悲しくなった。
「なれるかなれないかじゃない、なるの。そりゃ、いきなり学年トップを狙うのは難しいかもしれないけど、ちょっとずつ順位を上げていこうよ。大丈夫、私も協力するから。絶対に1位を取るっていう意気込みが大事なの。私にできるのは手助けだけ。天坂くん自身が頑張らなきゃダメなの」
上体を寄せ、至近距離から目を合わせる。
千影は冴えない風貌だと言われているが、実はそんなことはない。
皆、雰囲気でそうと決め付けているだけで、かなり整った顔立ちをしている。
猫背を止めて背筋を伸ばし、野暮ったい黒縁眼鏡を外してコンタクトに変え、長すぎる前髪を切って堂々と振る舞えば、周りの評価は一変するだろう。
叶うなら、菜乃花はその手伝いがしたい。
自分を卑下することなく、胸を張って学生生活を謳歌してほしいのだ。
「……気持ちはわかったから、とりあえず、座って」
ひたすら困惑していた千影は静かに言って、眼鏡の縁を右手の人差し指で押し上げた。
言われた通りに座り直す。
これ以上彼の腕を掴んでいたら、周りの生徒に何事かと声を掛けられそうな雰囲気だったので、着席するしかなかった。
「園田さんは、なんでそんなに良くしてくれるんだ?」
(好きだから)
純粋に不思議そうな問いに、内心で即答する。
「友達だから?」
「もちろん。それ以外に理由なんてないよ」
大嘘を、まるで真実のように言いきってみせる。
「凄いな。園田さんは友達のためにそこまで頑張れる人なんだな」
千影は感心したように呟いて、不意に首を捻り、食堂に入って初めて二階を――総司を見た。
菜乃花も見上げたが、総司はこちらを見ず、友人たちと談笑している。
弟がいることに気づいていないのか。
それとも、気づいていながら徹底的に無視しているのか。
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