こじらせ男子は好きですか?

星名柚花

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10:絶対、許すまじ(3)

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 形の良い唇を割って零れる微笑、枝毛の一つもなさそうなさらさらの髪、友達らしきポニーテイルの美少女を見返す大きな目、その全てがいまは憎らしい。

「見ても無駄だよ。俺が傍にいる以上、兄貴は絶対こっちを見ない。兄貴は俺のこと、学校では見えないものとして扱うから」
 千影は気にした風もなく言って、茶碗を持ち、白米を口に運んだ。

「~~~~」
 腹が立って仕方ない。
 眉間の皺を取るべく苦心しながら、菜乃花は尋ねた。

「学校ではって、寮では?」
 五桜学園は全寮制で、彼らは同じ0号館で暮らしているはずだ。
 いくつかある寮のうち、0号館に住む生徒はVIP待遇。
 なんとメイドまでついている。

「……前に話したのは中間テストが終わった後。テスト結果を聞かれて、答えたら、転校しろって。お前みたいな馬鹿は五桜に要らないってさ」
「ムカつくー!!」
 辛抱堪らず、声に出したばかりか、テーブルを拳で二度叩いてしまった。
 かろうじて理性が働き、叩いたといっても軽くだが。

「もー絶対絶対1位取ってやろう!! そんでもって見返してやろう!! ね!?」
「ね!?」に物凄く力を込め、射殺さんばかりの強い目で千影を見つめる。

「……頑張ります」
 菜乃花の眼力に負けたらしく、千影は小さく頷いた。
 それから、水を一口飲んで、テーブルの一点を見つめて動かなくなった。
 何やら考え事をしているようだ。

「……どうしたの?」
「いや。園田さんが俺のためにそんなに頑張ってくれるなら、俺だって少しは頑張ろうと思って。放課後、図書館に来てもらえる?」
「もちろん。勉強教えるって約束したし、行くよ」
 二度首を縦に振る。
 菜乃花の気合は十分だった。

「ありがとう。ここは片付けておくから、教室に戻って。また図書館で」
 千影は微かに笑った。

(また笑った。少しは心を許してくれたのかな?)
 そう思うと嬉しくなり、菜乃花も笑んだ。

「うん。じゃあ、お願いします。また後でね」
 立ち上がり、食堂の扉へ向かう。
 その途中で視線を感じ、菜乃花は足を止めて振り返った。

 二階から総司がこちらを見ていた。
 目が合うと、彼は愛想よく微笑んだ。

 普通なら超絶イケメンに微笑まれたと大喜びするところなのだろうが、菜乃花の胸に宿ったのは闘志の炎だった。

(見てなさいよ。私の好きな人を『恥ずかしい』って言ったこと、撤回させてやる。たとえ兄だろうと、天坂くんを侮辱する人は許さない。敵よ。先輩は私の敵! 天坂くんに謝るまで絶対、ぜーったい許さない!!)

 無論、馬鹿正直に感情を表に出すほど菜乃花は愚かではなかった。
 総司だけではなく、さっき彼と話していたポニーテイルの美少女や、淡い茶髪の美少年もこちらを見ている。

 ここで総司を睨めば「何あの女」と陰口を叩かれること間違いなしだ。
 そしてそんな女と親しくしている千影まで悪く言われる。

 菜乃花は照れたように笑い返してみせ、前に向き直るや否や一瞬で真顔に戻り、食堂を後にした。
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