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55:必殺技
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「頼れるのは兄貴しかいないんだ。お願い」
繰り返す千影の口調は相変わらず背筋が寒くなるような棒読みだったが、総司の心を鷲掴みにするには十分だったらしい。
「………………」
総司は背もたれに背中を預け、そのままずるずると滑り落ち、椅子の手すりに縋りついて俯き、全身を震わせた。
「……天使が過ぎる……っ」
……何やら噛みしめているようだ。
「……ふう。俺、頑張った」
一仕事を終えたかのように千影は頷き、くるりと振り返り、要に向かって親指を立てた。
壁際に立つ要は澄まし顔を崩さなかったものの、こっそり親指を立てて応じた。
(ああ、近衛先輩に吹き込まれたのね)
いざとなったら使えと要に言われたのだろう。
文字通りの必殺技だ。
そしてそれは実際、ブラコンの兄によく効いた。
「……ふん」
どうにか兄としての威厳をかき集めたらしく、軟体動物のようにへにゃへにゃだった総司が復活し、起き上がった。
「まあ確かに? 不出来な弟に赤点を連発されたら兄として恥ずかしいし? お兄ちゃんとまで言われたら……あーもうしょーがないなー。おれは千影のことなんてどうでもいいんだけどー、頼み込まれたらねー?」
総司はやけに嬉しそうな、間延びした語尾で言って、短い髪の先端を弄った。
(緩んでる!! お兄さん!! 口元が緩んでますよ!?)
キャラが崩壊していることを自覚したのか、総司は咳払いした。
「……わかった。叔父さんたちにはおれから言っといてやるよ」
「ありがとう、兄貴。恩に着る」
千影はぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます!」
菜乃花も深々と頭を下げた。
他ならぬ自分のことなのだから、千影よりも深く感謝しなければいけない。
(やった……私、これからも0号館に住めるんだ!!)
全て千影のおかげである。
千影には抱き着いて感謝を述べたいくらいだ。
「本当に、本当にありがとうございます……!! 私、千影くんの家庭教師として、これからも頑張ります!!」
「ああ。もし実力テストで千影が赤点取ったら解雇するから」
「えっ」
びっくりして、菜乃花は顔を上げた。
「園田さんを失いたくないなら頑張れよ? 千影も」
総司はにっこり笑った。
本気の目である。
「……が、頑張ります」
「俺も……」
責任重大だと思ったのか、千影は神妙な面持ちで顎を引いた。
「ならいい。園田さんと二人で話をしたいから、千影は先に帰れ」
「……わかった」
心配そうな顔をしつつも、千影は兄の指示通りに部屋を出て行った。
扉の閉まる音がする。
繰り返す千影の口調は相変わらず背筋が寒くなるような棒読みだったが、総司の心を鷲掴みにするには十分だったらしい。
「………………」
総司は背もたれに背中を預け、そのままずるずると滑り落ち、椅子の手すりに縋りついて俯き、全身を震わせた。
「……天使が過ぎる……っ」
……何やら噛みしめているようだ。
「……ふう。俺、頑張った」
一仕事を終えたかのように千影は頷き、くるりと振り返り、要に向かって親指を立てた。
壁際に立つ要は澄まし顔を崩さなかったものの、こっそり親指を立てて応じた。
(ああ、近衛先輩に吹き込まれたのね)
いざとなったら使えと要に言われたのだろう。
文字通りの必殺技だ。
そしてそれは実際、ブラコンの兄によく効いた。
「……ふん」
どうにか兄としての威厳をかき集めたらしく、軟体動物のようにへにゃへにゃだった総司が復活し、起き上がった。
「まあ確かに? 不出来な弟に赤点を連発されたら兄として恥ずかしいし? お兄ちゃんとまで言われたら……あーもうしょーがないなー。おれは千影のことなんてどうでもいいんだけどー、頼み込まれたらねー?」
総司はやけに嬉しそうな、間延びした語尾で言って、短い髪の先端を弄った。
(緩んでる!! お兄さん!! 口元が緩んでますよ!?)
キャラが崩壊していることを自覚したのか、総司は咳払いした。
「……わかった。叔父さんたちにはおれから言っといてやるよ」
「ありがとう、兄貴。恩に着る」
千影はぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます!」
菜乃花も深々と頭を下げた。
他ならぬ自分のことなのだから、千影よりも深く感謝しなければいけない。
(やった……私、これからも0号館に住めるんだ!!)
全て千影のおかげである。
千影には抱き着いて感謝を述べたいくらいだ。
「本当に、本当にありがとうございます……!! 私、千影くんの家庭教師として、これからも頑張ります!!」
「ああ。もし実力テストで千影が赤点取ったら解雇するから」
「えっ」
びっくりして、菜乃花は顔を上げた。
「園田さんを失いたくないなら頑張れよ? 千影も」
総司はにっこり笑った。
本気の目である。
「……が、頑張ります」
「俺も……」
責任重大だと思ったのか、千影は神妙な面持ちで顎を引いた。
「ならいい。園田さんと二人で話をしたいから、千影は先に帰れ」
「……わかった」
心配そうな顔をしつつも、千影は兄の指示通りに部屋を出て行った。
扉の閉まる音がする。
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