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105:恋をしたのは君だから(1)

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「階段から落ちて、寮で一緒に暮らすようになって。千影くんの家の事情を聞いたとき、偉いな、凄いなって思ったの。家族に見放されても放課後居残って勉強するなんて、私には無理。お前なんて要らないって言われたら、絶対泣くし、やさぐれちゃう。でも、千影くんは違った。道を外すことなく、ただひたすら勉強に打ち込んでた。強い人なんだなって、心から尊敬した。それからも色んな話をして、千影くんの人柄を知っていくうちに、どんどん惹かれていって。気づいたらどうしようもなく好きになってた」
 絶え間なく弾け続ける手元の線香花火を見つめたまま、菜乃花は無自覚に微笑んだ。

「具体的に好きなところを挙げろって言われたら、本当に全部なの。千影くんは寮にいていいのかなって思い悩んで、夢に見るまで思い詰めてた私のために歓迎会を開いてくれた。私は千影くんの、その優しい人柄が好き。千影くんのちょっと低い声は、聞いてると落ち着くから、ずっと聞いていたくなる。千影くんの柔らかそうな髪が好き。私を見つめる瞳が好き。通った鼻筋も、真摯な言葉を紡ぐ唇も、頬の輪郭も、全部好き」
 彼の好きなところを一つずつ挙げていけばキリがない。
 それでも、彼が望むなら――菜乃花の好意が信じられないというのならば語ってみせよう。

「階段から転げ落ちて動けなくなった私を担いでくれた、逞しい腕が好き。泣いた私の腕を慰めるように優しく叩いて、意外なほど強い力で私の手を引いてくれたその手が好き。千影くんといると、胸が温かくなるの。幸せなの。こうして一緒に線香花火をしているいまだって、泣きたくなるくらいに幸せだよ」

 感情が高ぶり、本当に視界が滲んでしまったため、菜乃花は目を擦った。

「こんな気持ちになるのは千影くんだけ。どんなに格好良い人がいたって、私は千影くんがいいの。千影くんじゃなきゃ嫌だ。好きなの。大好きなの。信じられないなら、私は毎日千影くんに好きだって言う。全校生徒の前で誓ってもいい。私が裏切ったら全校生徒が敵に回って、学校にいられなくなるでしょ? でも、それでもいいよ。私は絶対に千影くんを裏切らない。この先もずっと好きでいる自信があるもの」
 線香花火の玉が地面に落ちた。
 手元に残った花火は細い煙を上げ、すぐにその煙も消える。
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